第四十一話 トーナメント本戦 Ⅰ
『早い!早いぞぉ!!魔法が全く当たらない!』
司会のハイテンションな声を聞き流しながら、次々と放たれる岩の塊を避けながら進む。
基本的に魔法には僅かながらのホーミング機能があるが、そんなものはギリギリまで引きつけてから避ければ簡単に避けられる。
「サンド・バレット!」
今度は数十個の砂の塊が、弾丸のような速さで飛んでくる。
しかし、その弾道は直線であまりにも見切りやすく全ての砂の弾丸は当たることなく、そのままフィールドの壁に当たって散る。
そのまま懐に飛び込もうとするが、いきなり足が重くなるような感覚に陥った。
足元を見ると、硬い地面がいつの間にか泥沼の様なものに変わっていた。普段なら簡単に抜け出せただろうが、今は極剣を持っているせいかどんどん体が沈んでいく。
「はっはっは~、やはりその馬鹿デカい剣はかなりの重量のようだな!お前がいくら強かろうと、動けなければただの案山子よぉ!!」
なるほど、流石に対策はするか。基本的に魔法職は接近戦はできないから、如何に相手を遠距離でフルボッコにするかが重要らしい…少し前にアリスがそんな事を言っていた気がする。
土属性魔法は派手さこそないが、MP効率や妨害魔法の豊富さで結構優秀な魔法らしい…これもアリスから聞いたと思う。
『おっと、これは上手い!これでは動きが極端に制限されてしまうぞ!!』
「これで終わりにしてやるぜぇ!ロック・クラッシュ!!」
俺の頭上に大きな魔方陣が展開され、その中からゆっくりと馬鹿デカい岩の塊が現れる。
敵との距離はおよそ十数ⅿはあるだろう。残念ながら極剣にはそこまで届く遠距離アーツは今の所覚えていない。
「届かないのなら、届かせればいいだけだ」
極剣を逆手に持ち直して、最小限のモーションで思いっきり投げる。
男は俺の予想外の行為に思いっ切り目を見開き、慌てて【障壁】を展開しようとするが、時すでに遅し。
極剣は男が【障壁】を展開するよりも早く男の脇腹付近を斬りながら、そのまま男の後ろの壁に轟音と共に深々と突き刺さる。
『おぉ~と!なんとあの馬鹿デカい極剣を凄い速さで投げつけたぁ!これにはフレル選手もたまらずに詠唱を止めてしまう!』
頭上の巨大な岩はその魔方陣と共に霧散して消えた。
フレルとかいう相手の魔法使いが体勢を立て直す前に、固い地面に両手をつけて力を籠めて倒立するような形で膝まで埋まっていた沼から抜け出す。
「うげぇ、ドロドロする…気持ちわりぃ~」
泥沼の泥が着ていたマントに思いっ切り付いており、足に張り付いてきて何とも言えない気持ち悪さだ。しかも、足袋の中にまで泥が入っており、グチュグチュ嫌な感触のおまけつきだ。
「ロック・バレット!」
足元の不快感に気を取られているうちに、いつの間にか体勢を立て直したフレルが魔法を撃ってくる。魔方陣からは拳大の石が数発、結構な速さで一直線に飛んでくる。
飛んでくる石を避けながら、躱せないものは片手剣で相殺しながら前に進む。
しかし、なるべく避けながら進んでいるためか、攻撃の激しい前方を避ける様に若干回り込む形になっている。
ふと進行先を見ると、数十メートル先の地面の色が周りの地面とは若干違っている。多分あの地面が泥沼になる魔法だろうが、流石にこれ以上汚れるのは勘弁だ。
だが、相手は俺を上手くその泥沼に誘い込むように魔法を撃ってきている。
わざと大げさに避けながら、壁際に向かって走る。
この壁の材質なら行けるかな…そう考えながら思い切って壁に向かってジャンプして、下駄の鉄で補強してある二本歯を壁に突き刺すようにしながら、体を地面を平行にして壁を走る。
「なにぃ!?んなのアリかよぉ!」
カーブを描いている壁を蹴りながら、飛んでくる魔法を速度の緩急で避けながらフレルに近づく。
「く、くそぉ!な、何で当たらない!?」
魔法の撃ち終わった瞬間に足に力を籠めて、地面と水平にフレルに向かって飛ぶ。
しかし、寸前で障壁を張られて斬撃が弾かれる。しかも、その時に片手剣が僅かに欠けてひびが入った。
まぁ、あそこまで派手に使っていればこうもなるか。だけど、この剣じゃ障壁を壊すことなんかできないな。
壁に三分の一程突き刺さった極剣を抜き、そのまま障壁の真上に着地する。
詠唱中のフレルも一瞬ぽかんとしたが、俺がアーツの発動の構えを取ると、苦笑いを浮かべる。
「グランド・フォール」
障壁の真上で垂直に二メートルほどジャンプして、極剣を逆手に両手で持ち、撃ちだされる魔法を相殺しながら、障壁に向かって青い光を放ちながら落ちる。
『おぉーーと!凄まじい攻撃だ!フィールドが陥没しています!流石にこの攻撃は防げなかったか、フレル選手の姿はありません。よって、勝者ナナシさんです!』
観客席から、五月蝿いほどの声援が投げかけられる。
その歓声に特に答える事も無く、そそくさと勝者はフィールドを去って行った。
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RDOのトーナメントも晩飯を考えて一旦休憩になったし、皆も腹を空かせてるだろうから少し早めの晩飯を作ったので、荷解き中の二人を呼びに来た。
二、三回ドアをノックっしてみるが反応どころか物音一つしない。
「あれ…さっき外から見た時には電気が点いていたんだけどな…お~い、開けるぞ?」
特に危険な感じも無いので、一応断ってからそっとドアを開ける。
すでに荷解きは終わったらしく、右側は可愛い感じの女の子の部屋って感じで、左側は何とも質素な感じで男の部屋でももう少し物があると思うほどだ。
多分右が彩芽で左が彩華だろう、俺が言うのもあれだが、もう少し女の子したほうが良い気がする。
そんな事を考えながら部屋を見ていると、なぜか部屋のクローゼットの前に大量の衣服が山盛りになっているのを見つけた。
その中から足と手がニョキリと生えている…はぁ、俺の周りの女は何でこうなんだろうか。
渋々、山になっている衣服を軽く畳みながら退かしていくと、気持ちよさそうに寝ている彩芽と彩華の二人が居た。
軽くほっぺたを突っついたり引っ張ったりするが、本当に寝ているようで起きる気配はない。
「…はぁ、しょうがないなぁ」
起こさないように二人をベッドに寝かせ、タオルケットをかけて軽く冷房をかけておく。
一応起きた時の事を考えて置手紙を置いておく。
「さて、腹減り共の面倒を見るか」
電気を消してそっとドアを閉めて、部屋を後にするのだった。




