第三十五話 トーナメント予選 Ⅴ
『さて、トーナメント予選二回戦が終了しました!』
『まぁ、今回はPTでの力の差が出たね~』
『え~と、今回の本戦出場者は…コウさん、スズさん、アリスさんの三名です。それでは…』
会場の盛り上がりのせいで、その後の司会の声は聞こえない。
まぁ、あのメンツの中では頭一つ抜きん出ていたんだし、三人が残るのは予想道りだったな。
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通路の受付のすぐ近くの扉が開き、フィールドへの道が開ける。
フィールドは観客席から見たよりも広く感じ、地面も思たよりもしっかりしている。
適当に人が散らばってから、特に人の少ない壁際に移動する。
『さて、予選もいよいよ終盤です!』
『う~ん、ギルド「猛獣の牙」が結構居るね…』
『そうですね、三回戦はギルドで纏まられると他のプレイヤーは厳しいかもしれませんね』
確かに、中央でさっきの奴らが固まって周りのプレイヤーを威嚇している。
まぁ、どうせさっき煽りもあるし俺が相手するんだよな…面倒だな。
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あぁ、イライラする…あのチビめ、この俺様をコケにしやがって。
「ガルゼ兄貴、居ましたぜ」
弟分の一人が指さす先には、あのチビが壁に背を預けて俺の方を見ている。
フードのせいで顔は分からないが、さっき睨まれた時に感じたのは間違いなく殺気だった。
「油断するなよ、そこらの雑魚とは格が違うぞ」
「大丈夫っすよ、この人数で万が一にも負けるわけないっすから」
確かにチビは一人だ、それに対しこっちは俺を含めて十七人だ。
俺達が近づいても逃げようとする素振りすらない…諦めたのか、あるいはこの人数差でも勝てる見込みがあるのか。
「どっちにしろ、全力だ」
全員でチビを囲むように位置取る。
周りが何やら騒いでいるが、そんなこと関係ない。
「よぉ、さっきは舐めた事してくれたな」
剣を抜き剣先を向けるが、身動き一つしない。
「ふん、流石に怖くなったか?」
「なんだ、早く来いよ」
「はぁ!?」
「…先制を譲ってやるって言ってるんだよ」
「…このチビが、舐めやがって!!」
何を考えているんだ…発言と行動はあからさまに俺らを馬鹿にしている。
だがしかしだ、すっぽりと体を覆うマントがあからさまに怪しい。動きにくいだけで防御力なんか無いに等しいだろうに。
そうか…今までのは全部誘導だ。馬鹿にした態度も俺らを怒らせて思考を鈍らせる、マントも武器を隠しておくのにはもってこいだ。
まったく、意外に頭の切れる奴だな…だが、ばれてるんだよ!
「魔法詠唱だ、撃てる奴は全員だ。前衛はチビの突撃に警戒しろ」
「あ、兄貴…流石に」
「黙って言う通りにしろ!」
五人の魔法職のギルメンと三人の後衛がほぼ同時に魔法を詠唱する。
その五人を前衛が守る。しかし、この状態でも特に慌てた様子が無いのが気になる…いや、大丈夫だ、この魔法攻撃に耐えられるわけがない。
詠唱が終わり、一斉に色とりどりの魔法が一点に飛んで行く。
「やったか!?」
「いや、まだだ。周囲警戒しろ!」
「え?何言ってるんですか兄貴」
有り得ない…だが、確かに見えた。
あのチビが魔法の当たる直前に消えるのを。
「ぐわぁ」
「な、なんだ!?」
右側から悲鳴が聞こえたかと思うと、既に二人の仲間が光になり消えるところだった。
その場に立つのは、黒い剣を持つ悪魔の姿だった。
「くそがぁ!!」
一人の戦士が盾を構えて突っ込んで行く。
「ばか、迂闊に近づくな!」
戦士の放った【スラッシュ】を屈んで躱し、立ち上がりざまに縦に切りつける。
怯んでいるうちに、剣を上段に構える。戦士も盾を構えて防ごうとするが、上段から剣を素早く引いて突きの構えを取り、思いっきり突き出す。
男の胸を防具なんて無いかのように突き抜けていて、戦士は光になり消える。
「……」
誰も声が出なかった…いや、声を出す暇なんてなかった。それほどまでに無駄のない動きで、有り得ないほどの速さで一人倒したんだ。
「なっ…この野郎!」
「まて、連携を取るぞ」
そうだ、このままただ突っ込んでも確固撃破されるだけだ。
前衛で囲んで、遠距離で動きを止めて魔法で攻撃だ。
「前衛前に出てあいつを囲め!遠距離は隙間から攻撃をして動きを止めろ!魔法職は避けられないように時間差をつけて詠唱だ」
「「「了解!」」」
号令後に、直ぐに動き出す。
前衛が余裕をもって距離を取り、少し広めにできた隙間に遠距離職が着く。俺の前で魔法職が少しの差をもって詠唱をする。
奴は遠距離からの攻撃を避け、弾きながら殆どその場から動いていない。
最初の詠唱が終わり、三発の火球が飛んで行く。奴はその火球をすべて見切っているかのような動きで避ける。
だが、今度は見えにくい風属性の小さい刃が何発も飛んで行く。しかし、奴が剣を振るっただけでその全てが掻き消される。
今度は炎の渦が奴を包み込み、更に風の渦がその炎の勢いを更に凄まじいものにする。
「流石に、これは逃げられまい」
確かに、これはかなりのものだ。
火と風の合成魔法で、火は風の力を吸収して更に激しく燃え上がる。
価値を確信したその時、炎の渦の中に、不気味なほど大きな影が見えたのだった。




