第三十四話 トーナメント予選 Ⅳ
「ファイア・ウォール」
真っ赤な炎の壁が、二人を追撃しようとした三人の行く手を遮る。
三人は一瞬迷ったようだが、直ぐに切り替えて私の方に走ってくる。
「まぁ、それが正しい反応でしょうけど…今回ばかりは残念だったわね」
すでに詠唱を始めていた魔法の詠唱を早める。
この魔法の詠唱の時の文字には特定のパターンがあり、そのパターンから考えるに通常の威力での発動に最低限必要な文字は判明している。
その必要な文字のみ目で追い、普通の半分の速度での詠唱を終える。
「ファイア・ランス!」
頭上に三個の魔方陣が発現し、その魔法陣から真っ赤な炎の槍が三人に向かって飛んで行く。
三人はそれぞれ左右に避けて躱すが、【ファイア・ランス】LV10の追加効果である範囲上昇によりダメージを負う。
三人が攻撃を躱した後の硬直を狙って、すでに詠唱を終えていた【ファイア・ストーム】を【座標】で調べておいた場所に発動させる。
「ファイア・ストーム」
一番右側に居た刀を持った男のすぐ横に真っ赤な魔法陣が発現し、炎の渦が三人を飲み込む。
「なに!?」
「ちょ!?どうして!!」
三人は混乱しているようだ。
まぁ、無理も無いでしょうね。普通【ファイア・ストーム】などの位置指定魔法は、指定した地面を中心にして発動する。
だから、今みたいに真横の何もない空間からこの魔法が飛んでくるなんて想定外でしょうね。
これは結構最初の方に気が付いていたことでけど、この位置指定魔法は実は指定した位置の座標を元に発動している。だから、何もない空中などにも座標が分かれば位置を指定して発動ができる。
まぁ、分かっていても言う気が無かったから殆どの人は気が付いていないみたいだけど。
先に発動していた【ファイア・ウォール】を重ね掛けで発動時間を延長させておく。
そろそろ【ファイア・ストーム】から出て来るだろうから、二重詠唱で魔法を構えておく。
この二重詠唱は二つの魔法を同時に発動するだけの簡単なものだが、文字列が被るので少し読むのに時間がかかるのが問題ね。
「スラッシュ!」
「アースブレイク!」
アーツより炎の渦が割れ、一人が素早い動きでジグザグに走ってくる。
案外、相手も馬鹿ではないようね。
♦
「ファイア・ボール」
五個の火球が少女の頭上の魔法陣から現れ、俺に向かって飛んでくる。
「一閃」
アーツで相殺するが、若干時間差で飛んできたいた残りの火球を喰らう。
余波の炎からステップで飛び出して、アーツを構えて走る。
「突牙閃!(とつがせん)」
刀が青い光を放ち、刀を思いっきり前に突き出す。
魔法の詠唱をしているが、すでに俺の射程範囲内だ。障壁が発動するよりも俺の攻撃の方が早いだろう。
さらに一歩踏む込んだ時に、いきなり何もない目の前に赤い魔法陣が現れた。
「なっ!?」
咄嗟の事に何も反応できずに、俺は吹き飛んでいた…そう、何が起きたのかも分からずに。
♦
男がトラップに引っ掛かり見事に吹き飛んでいく。その姿を驚いた顔で見つめる仲間の二人。
結構飛ぶのね…これはなかなかに爽快ね。
最後に追い打ちにと詠唱していた【ウインド・ブレード】を吹き飛んでいる男に当てる。
男はそのまま炎の壁を突き抜けて吹き飛んでいく。
吹き飛ばされた男の仲間の片手剣の男が我に返り、焦った様子で私に向かってくる。
「行くぞ!」
「え、ちょっと…」
大剣の女の子の声を聞かずに、更に走る速度を上げる。
流石に警戒してか遠距離アーツを放ってくが、流石にMPが心もとなくなってきているので【障壁】で防ぐ。
男はそれを見て隠し玉が無いと思ったのか、勢いをつけて思いっきりジャンプをする。
まぁ、落下の威力を足せばアーツなしでもそこそこのダメージは見込めるだろうけど、流石に周りが見えてなさすぎよね。
「後ろ!!」
「え?」
そう大剣の女の子が叫んだ時には、その大きな影は男を捕らえていた。
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アリス達は上手く連携を取り危なげなく勝っているし、このまま三人が勝ち残るな。
だが、それよりもだ…
「う~ん、米は足りるかな…一応一升炊いといたけど。あ、それよりも先に風呂か」
妹ズに功に槐と秋保か…七人分となると足りるか少し心配だな。
まぁ、この次俺の番だし第四回戦の時にパンでも追加で焼いとくか。
そんな事を考えていると、すでに残りは数人になており次の第三回戦の出場者らしきプレイヤーがちらほら移動しているのが目についた。
「さて、俺もそろそろ行こうかな」
♦
観客席の脇にある階段を下りて、少し薄暗い通路に入るとすでに準備しているプレイヤーが数人いる。
如何にも強そうな奴や、面白半分で参加したよな奴らまでバラバラだ。
通路の奥のカウンターのような所で出場者の確認をやっているようなので並ぶ。
「あ、アオさん!」
俺が並んでいると、不意に後ろから聞いたことのある声がかけられた。
振り向くと先ほどのマコトとアイリだった。
「あ、あの…どうも」
「そうか、二人も一緒だったか」
「はい!アオさんの戦いがまじかで見られるんですね、楽しみです!」
なにやら目を輝かせて、声からもテンションが高いのも分かる。
「何かテンション高いな」
「そりゃ、あの時の動きを見たら、期待しないはずないですよ!」
「う、うん。凄かったです」
こんなに素直に尊敬されるのはある意味初めてかもしれない。
悲しいかな、現実だとどうあっても見た目のせいで、部下にすら素直に尊敬されたことが無いんだよな。
やばい、少し嬉しい。
「ま、まあな」
「あ、あの。アオさんが良ければなんですけど。組みませんか?」
「ん?あぁ、そうだな…」
俺が返事をしようとしたときに、視線を感じた。しかも嫌な感じの視線だ。
視線の方を見ると、あの時のゴツイ奴が俺の事を睨んでいた。
まさか、あんな騒ぎ起こしたのに普通に出るのか。
まったく、ある意味大した奴だな。
「…いや、止めておこう」
「そ、そうですか」
「悪いが、分かってくれ」
「あ…はい。何かすいません」
アイリがペコリとお辞儀をしてから、足早に去っていくマコトの後を追う。
嫌な思いさせちゃったかな…まぁ、絡まれて嫌な思いはもうしたくないだろうし。
マコト達が去った後、少し人の少ない角の方に移動して背中を壁に預ける。
数分経った頃だろうか、誰かがこちらに来る気配がした。
顔を上げると、思った通りにあのゴツイ奴だ。しかも、金魚の糞のように十数人のお友達を連れている。
「よぉ、さっきぶりだな」
「…」
「なんだ?流石に怖くて声も出ないってか?」
「しょうがないっすよ、こんなチビが兄貴見てビビらないわけないっすよ」
なにやら取り巻きが煩いが…はぁ、しょうがないなぁ。
「はい?あぁ、私ですか?」
「あぁん!?お前意外に誰が居るんだよ!」
「いや、私に貴方みたいに馬鹿面な知り合は居ないので、壁に挨拶してる変な人かと思いましたよ」
薄暗い通路の角でも、男の顔が真っ赤な茹でタコのように染まるのが分かる。
ブルブルと身震いしているし、かなり頭にきてるな。さて、念のためにもう少し煽っておくか。
「てっめぇ~!」
「兄貴にそんな口きいてタダで済むと思ってんのか?!」
「サル山のサル共に何ができるんですかね?」
男がスッと背中の大剣に手を伸ばし、他の男達も流石に殺気立っているのが分かる。
まぁ、別に痛くも痒くもないんだがここで騒がれて大会の進行に問題が起きるのもアレだし…しょうがないな。
男が剣を抜くよりも早く、一歩前に出て男のを睨みつける。
「…退け」
軽く殺気を込めて低く良い放ち、男の胸を軽く押す。
男は押されるままに抵抗せずに、冷たい床に尻餅をつく。
そのまま男の脇を通ってフィールドの入り口近くに行く。
後ろで何やら騒いでるのが聞こえるが、そんな声も直ぐに周りの声にかき消される。




