第三十二話 トーナメント予選 Ⅱ
『さ~て、一回戦目もすでに終盤です!残っているのはあと僅かです』
『勇者君とロビちゃんは残ってるねぇ~。まぁ、あの二人と後は誰かってとこだね~』
フィールドには数人のプレイヤーがお互いに対峙して、最後の戦闘をしているようだ。
前半に派手に暴れていたユウキは結構ばてているようだが、弓と革の軽装備の流れる綺麗な金髪の女性の通称「ロビンフット」は元気に敵と対峙している。
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前方ほどから軽鎧の男が盾を胸の前に構えて、猛然と走ってくる。
距離的にも十分余裕をもって牽制できる距離だ。矢束から一本矢を出して弓に番え、振り絞る。
「リウェン・アロー!」
青白い矢が男に向かって風を切りながら進む。
男は咄嗟に【ステップ】で横に逃げるが、矢は逃げた男の後を追うように不自然に曲がりながら飛んで行く。
男は弓の軌道を見極めて盾で攻撃を防ぐ。
その隙を狙って男の足を狙って弓を放つが、ギリギリのところでジャンプして矢を避ける。
男はそのまま空中で体勢を崩しながらも【ランベルト・スラッシュ】を放つ。青い十字の斬撃が高速で飛んでくる。
攻撃範囲は十字の青い斬撃部分のみなので、左斜め後方にステップで躱す。
男の着地地点を狙って設置型の下級土属性魔法【バルッシュ】を唱える。この魔法は範囲内の地面を細かい砂に変える魔法で、一見地味だがMP効率も良く詠唱が短いので結構優秀だ。
狙い通りの場所に男が着地すると、砂に足を取られ男の動きが明らかに鈍くなったのが分かる。
その一瞬の隙を見逃さずに最高攻撃力のアーツを放つ。
「ウィリング・アロー!」
放たれた矢は青い螺旋を描きながら、男の右胸に向かって飛んで行く。
男は無理やり体を逸らして避けようとするが、砂に足を取られて上手く避けられないと悟り盾で防ごうとするが僅かに矢の方が早かった。
ガリガリと男のHPが減っていき男のHPバーを削りきる。
周りを警戒しながら一息つこうとすると、不意に【警戒】のアラームが鳴る。
この【警戒】は不意打ちなどの、視覚外などの攻撃に対してアラームが鳴るスキルだ。
生物の気配などを察知できる【気配察知】のスキルに相手がかからないことから、不意打ちの相手は何らかの隠密スキルを使っていると思う。
思い切って後ろを振り向きながら、腰の短剣を抜く。
「残念、ハズレ」
後ろからあざ笑うかのような男の声が聞こえ、首元に冷たい物が付きつけられる。
いつの間に後ろに回り込まれたの?【気配察知】では確実に後ろに居たはずなのに。
「流石の有名人さんも、案外楽にやれそうで拍子抜けだな」
「…こんな卑怯な真似しといて、よく言うわね」
「ははっ、まぁそうかもなぁ。でも、今は負け惜しみにしか聞こえないぞ」
まぁ、今の状況ではそうかもしれないけど…コソコソ隠れて相手が弱るのを待ってから後ろからざっくりやるなんて、卑怯な事は嫌いなのよね。
と言っても、相手の方がかなり有利なのも事実だし、迂闊に動くとやられる。
「後ろのが動く前にやらせてもらうからね…じゃ、バイバイ」
ただやられるのも癪だ。太もものスローイングナイフに手をかけた所で不意に後ろの気配が遠のくのを感じた。
その直後に目の前に黒い影が下りてくる。
真っ黒の忍装にド派手な真っ赤なマフラーを靡かせる人影だった。
影が振り向くと、水色のショートヘアーに綺麗な青い目の童顔の私よりも一回り身長の小さな女の子だ。
「…助かったわ、ありがとうクサナギ」
「ふむ…お礼は形でね」
「はいはい…それより、まだ終わってなわよ」
クサナギの後ろには黒いコートを着た男が立っている。顔はフードと口元まで覆っているマフラーで確かめられない。
弓を構えようとすると、クサナギが前に立って阻む。
「ここは…私がやる」
「…まぁ、それは良いんだけど」
なぜか知らないけど、クサナギの背後にメラメラと炎が見える気がした。
いつも表情の変化が乏しいが、長く一緒に居ると何となく雰囲気で気分が分かるようになったんだけど…多分今怒ってる?
「私でも…あんなに密着したことないのに!!」
「そこなの!?」
いきなり声高に叫んだかと思うと、一瞬消えたかと思うほどの速度で一気に男の懐に潜り込む。
そのまま腰の直刀を逆手に抜き、アッパーのように切り込む。
男はワンテンポ動くのが遅れたが、ギリギリの所でステップで躱す。
「いきなりかよ、まったく、最近の女はこれだから」
「煩い…私のものに汚い手で触った。これ即ち死刑」
クサナギはステップで少し後ろに下がりながら、懐から手裏剣を取り出し男に向かって投げる。
男はその手裏剣を巧みな短剣捌きで全て打ち落とす。何者かも分からないが、動きに無駄もないしかなりの実力者のようだ。
「おっす。どうだ」
「はぁ、なんだも何も見たまんまよ」
声をかけてのんびりとやって来たユウキは少し疲れた様子だ。
ご自慢の片手剣は所々刃こぼれしてるし、盾に至っては持っていなかった。
「ずいぶんやられたわね?」
「全くだ、いくらなんでも多すぎて疲れたぜ」
そう言いながら呑気に胡坐をかいてクサナギの戦いを見つめる。
確かにユウキに挑んだ数は多くて、この試合の五分の一はユウキに挑んで負けただろう。
「へぇ~、結構やるもんだな」
「そうね…多分相手はアサシンだと思う。動きが早いし反応速度もかなりの物よ」
「だも、相手が悪かったな…てか、何でキレてるんだ?」
「…さあね」
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『さ~て、どうやら最後の戦いのようですね!』
『みたいだね。ロビンちゃんと勇者君は見てるだけみたいだし、今戦っているどっちかだね。ボリボリ』
『あの、何食べてるんですか?』
『さっき売り子の可愛い子が売ってた、ポップコーン・バニラキャラメル味だよ。ボリボリ』
『…さ、さあ。もうすぐ決着が着きそうですよ!』
男が投げナイフを構えながら走る。
「影結び!」
クサナギが動こうとするが、足が地面にぴったりとくっ付いているようで動けない。
よく見ると足に影から黒い腕みたいなものが伸び、両足をしっかりと拘束している。
男から放たれるナイフを苦無で撃ち落とすが、投擲の熟練度が高いのか制度が良い投擲で嫌らしい位置に投げられて馬鹿にできないダメージになっている。
そのまま男は低い姿勢で飛ぶように迫るが、短剣が届く直前に拘束が解けたのか何とかステップで後ろに避ける。
男はそのままさらに踏み込んでアーツを放つ。
「シャープエッジ!」
「迅閃!」
男のアーツに合わせてアーツで相殺するが、相手の方がステータスが高いのか削りダメージを受ける。 アーツの硬直はクサナギの方が若干早く解け、回し蹴りを男の腹に叩き込む。
蹴りで若干男がよろけるのを見て、腰に着けた忍袋から赤い小さな玉を取り出す。
その玉を握りつぶし、筒状にして口元に持っていく。
「火遁!」
筒状にした手から勢いよく炎が噴き出し男を包む。
「発動が早いな、まったく厄介だな。」
いつの間にかクサナギの背後に回り込んでいた男が、面倒そうに言いながら短剣を構える。男はダメージを負っていないように見える。
クサナギが振り返るがすでに男はアーツ発動の直前で、青く光る短剣がクサナギの胸に突き刺さる寸前だ。
「残念…氷遁!」
クサナギが指を鳴らすと男の足元に転がっていた青い六角中の石から、大きな氷柱が突然生えてくる。
男はその氷柱に打ち上げられ空を舞い、何が起きたか分からない顔をしながらもその目は一直線にクサナギを捉えていた。
「風遁」
何かの葉っぱのようなものを指に挟んで、指を銃のようにすると無数の葉っぱが渦を巻きながら落ちて来る男を追撃する。
男は成す術もなくそのまま渦に飲まれ、勢いよく壁に体を打ち付ける。
追撃しようと走ろうとしたときに大きなアラームが鳴る。




