第二十七話 お泊り会 Ⅳ
「はぁ?なんか言ったか?」
「で、ですから。貴方が横入りしたって」
「あぁ?証拠はあんのかよ、証拠は!」
「だ、だから…」
のんびりと、おっさんの家から拝借した「鍛冶の基礎」という本を読みながら列に並んでいると、後ろの方から何やら言い争う声が聞こえてきた。
声のする方を覗くと、ガタイが良く装備も整っている、如何にも強そうな数人の男達と、革装備の小さい青年とそれよりももっと小柄な白いローブ姿の女の子が見えた。
話の内容から、男たちが青年たちの所に横入りしたのだろう。しかし、青年達に賛同する声は聞こえず、周りのプレイヤーは見て見ぬ振りだ。
「はぁ…ゲームの中でぐらい、面倒事にはあんまり関わりたくないのになぁ」
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「キャ!」
突然後ろから女の子の小さな悲鳴が聞こえた。後ろを振り向くと、先ほどまで僕の後ろに並んでいた白いローブの女の子が、列からはみ出して地面に倒れこんでいた。そして、僕の後ろには大柄な男達が微笑を浮かべて並んでいた。
この男達が女の子を押しのけて列に割り込んだのは明白だ。しかし、女の子の後ろに並んでいる人達は何も言わない。それどころか、目を逸らし何事も無かったかのように並んでいる。
倒れている女の子に手を貸して起き上がらせる。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます」
女の子は綺麗な緑色の目に金髪のボブカットの、十二、三歳ほどの女の子だ。目には涙をためているが、泣かないように我慢している。
こんな小さな女の子の涙を見て、何も言わない訳にはいかない。
「あの!」
「あぁ?なんだガキ」
「何だじゃないですよ。この子を押し退けて横入りしましたよね?」
「はぁ?なんか言ったか?」
並んでいる男達のうち、一番前に居た一際大柄な男が威圧的に答える。
「で、ですから。貴方が横入りしたって」
「あぁ?証拠はあんのかよ、証拠は!」
「だ、だから…」
大柄な男の後ろに居た数人の、仲間らしき男達も詰め寄ってくる。そんな状況になっても、周りの男達さえも見ぬ振り。まったく…これだから、男ってやつは。
列を整理するはずの「銀剣騎士団」の人達は見当たらない。こんな時に居ないなんて、運が悪いとしか言いようがない。いや、もしかしたらそれを狙っていたのかもしれない。
そう考えると、つくづく嫌らしい奴らだ。
「だから、この子が僕の後ろに並んでいたのは見て知ってますし、他の人だって見ているはずですよ!」
「あぁ?お前の見間違いだろ。なぁ、そうだろお前ら!」
「おう、俺たちはしっかり並んでたぜ」
「そうだ、お前の見間違いじゃねえのか、ガキ」
男達は口々にそんな言葉を吐き出す。
僕は女の子の後ろに並んでいたはずの、少し気の弱そうな男の人に近づく。
「貴方は、見ていましたよね?」
「いや、俺は…何も見てない」
「…こんな奴らにビビっているんですか?」
男の人は明らかに怯えている風だ。確かに男達の方が強そうで、数も多いがここは安全地帯でHPは減らないのだ。だから、怯える理由が分からない。
男の人が不意に僕に耳打ちしてきた。
「君、あの男達が誰だか分からないのかい?」
「強そうではありますけど…」
「彼らは大型ギルドの「猛獣の牙」のメンバーだ。しかも偉そうなあの大男は幹部クラスだぞ」
そう言われ、再度男達を眺める。
男達の腕には赤い腕章があり、そこにはオオカミのような獣の絵が描かれている。大男の腕の腕章は他の男達とは違い、銀色の腕章だ。
確か、この腕章はギルドのマークを入れてあるギルド腕章だ。ギルド内での位により色が変わり、ギルドマスターが金、サブマスターが金と銀、幹部クラスが銀、普通のメンバーが赤だ。
「なぁ?分かったら関わるのは止せ。あのギルドは黒い噂もあるんだ」
「…だからって、悪いのは彼らです!」
僕は一歩前に出て、大男を睨みつける。
「大きなギルドに属しているからって、何をやっても良い訳じゃありませんよ。ギルドの権威を盾にこんな事をするなんて、恥ずかしくないんですか?」
「…この餓鬼が。良い気になりやがって!」
「!?」
大男がいきなり背中の大剣を抜いて切りかかってきた。まさか、街中で武器を抜くとは思わなかったので反応が遅れた。
町の中ではHPは減らないが、逆に言えば減らないだけだ。攻撃されれば痛みを感じるし、武具の耐久も減るのだ。
目を瞑り、腕を上げて顔を守る。
しかし、思っていた痛みも感触も無い。恐る恐る目を開けると予想外の光景が目の前にあった。
灰色のマントの小さな人が、大男の振り下ろされる大剣を自分の剣の剣先を、大剣の刃に突き立てる事で止めているのだ。
大剣の線の刃を剣先の点で止めている…こんな芸当ができるなんて。
「穏やかじゃないね。街中で武器を抜くのはルール違反だよ、大きい人」
マントの人の声は若い女の子のような子だ。しかし、凛としていて真っ直ぐな言葉だ。
一方の大男は自分の攻撃が止められたことに驚いているのか、目を見開いてマントの人を見ている。
「あぁ、俺も武器を抜いているか…まぁ、如何せん背が低いからね、こうでもしないと彼に当たってたし…正当防衛って事で」
「こんの…チビがぁ!!」
大男は一度剣を引いて、再度横薙ぎに剣を振るう。大男の大剣は刀身が長めのもので、横薙ぎに振るわれると僕の横に居る女の子にも攻撃が当たってしまう。
一瞬、僕は女の子を庇おうとして女の子を引き寄せたが、そんな僕の考えは杞憂だった。
マントの人のは大男の大剣の腹を、剣を逆手に持ち替えて柄で打ち上げて攻撃を止め、その隙に無防備な腹に蹴りを入れていた。本当に一瞬の出来事で、僕も目を強化していなかったら見えなかっただろう。
大男が体をくの字に曲げて、飛んでいく。
しばらくその場の時間が止まったかのように、静まり返った。
「で、まだ騒ぐんなら相手するけど?」
「……」
マントの人のその一言で、我に返った男達がぞろぞろと大男の飛んで行った方に駆けて行く。
その瞬間に周りから大きな拍手と、歓声が沸き起こった。まったく、都合のいい人達だ。自分では何もやらないくせに、こんな時だけ調子の良い事を…
「あ、あの。ありがとうございました」
「え?……あ!ご、ごめん」
ふと、腕の中から声を掛けられて、女の子を抱き寄せていたのを思い出し少し焦りながら離れる。
女の子の目にはすでに涙は無く、少し頬を赤くして僕を上目遣いで見ている。そんな顔をされるとこっちも恥ずかしい。
「い、いや。僕は何もやってないよ…それよりも、あの人にお礼言ったほうが良いよ」
「あ、はい」
女の子はテトテト駆けていき、マントの人に何回もお辞儀をしていた。
少しすると女の子とマントの人が僕の所にやってくる。
「あの、さっきは危ない所をありがとうございました」
「いや、別にそんなに畏まらなくてもいいよ。困っている人を見ると、放っておけない…まぁ、癖みたいなものだよ」
先ほどの戦闘でも分かっていたが、かなりの実力者だ。今でさえも隙が無い。
「あの、僕はマコトです。良ければフレンド登録してもらえますか?」
「ん?良いよ。俺は…アオだ。よろしくな」
「あの、あの。わ、私はアイリです」
それぞれの簡単な自己紹介をして、フレンド登録をしてもらった。こういう時の出会いは大切にしたいし、人柄も良く強い人と知り合いになるのは、めったに無いチャンスだろう。
フレンド登録を終える事に、ガチャガチャと音を立てながら数人の鎧姿の人達が来た。
鎧の上からつけている腕章は兜が描かれている。そして、一番前に居る男の人の腕章は金色だった。
「君達、この辺で何か騒ぎが起こったって聞いたんだが…どうやらもう片付いているみたいだな」
「えぇ、この人が」
そう言ってアオさんを見る。アオさんは何も言わずに、男の人を見上げている。
男の人は背が高く、金色の短めの髪に鋭い赤い目をしている。そして、銀色に光る軽鎧を身に着けている。
「そうか…いや、どうもありがとう。妹を助けてくれて」
「…妹って」
「お、お兄ちゃん。遅いですぅ」
そう言ってアイリが男の人の手を握る。
お、お兄ちゃんって。まさか…
「あぁ、自己紹介が遅れたね。私は「銀剣騎士団」の団長…ギルドマスターをしているレイジだ。今回は妹のために騒動に巻き込まれたとか…本当にすまなかった。そしてありがとう」
そう言って深々とお辞儀をした。
まさか、RDOで一番有名な人にお礼を言われる事になるなんて思いもしなかった。




