第二十三話 とある休日 Ⅱ
ブンブンと、風を着る音をさせてバットを振る。振っているバットは中に鉄の芯を入れた特別性の重い木製バットだ。
今日は悪友の深谷とRDOをやる事になっているんだが、あいつが部活の練習があるらから午後からになると言ってきたのだ。どうせなら俺も体を動かそうと思い、素振りをやりながら陸上部の練習終わりを待っている。
あいつも不良みたいな見た目のくせして、部活に出るとか真面目な奴だと思う。
「さてと…もうそろそろ迎えに行くかな」
素振りで抉れた地面をトンボで慣らして、部室で制服に着替えてから陸上競技場に向かう。
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競技場に入ると、陸上部がクールダウンをやっていたり雑談している。どうやら練習は終わっているようだ。
深谷の目印のボサボサの頭を探すが、不思議な事に一向に見つからない。
「なぁ、少しいいか?」
「はい?…あぁ、功先輩。どうしたんですか?」
「深谷どこに居るか知ってるか?姿が見えないんだけど…」
「あぁ~~、今かなり機嫌悪いっすよ?」
しょうがないので男子部員に聞いてみると、西側の更衣室に居るとの事だ。でも、機嫌が悪いって何だ?部員の雰囲気から相当機嫌が悪いらしいが。
とにかく、聞いた更衣室に行く事に。
男子更衣室のドアは半分開いているが、中は窓が無いからかかなり暗い。ドアを開けて中を覗くと人影が見えた。
手探りで壁にあるスイッチを押すと、少し時間をおいて電気が点く。
「…深谷、その頭どうしたんだ?」
「……うっせぇ、ほっとけ」
深谷は更衣室のベンチに寝っ転がっていた。しかし、いつもと雰囲気が違うと思ったら、ボサボサに伸ばしていた髪の毛がサッパリと切られていたのだ。しかも、普通に似合っていた。
「なんだ、イメチェンか?」
「ちげぇよ……あぁ~~、むっかつく!」
「何イラついてんだよ」
「アイツだよ。銀…葵だよ」
「…話が見えないんだが?」
渋々ながら事の顛末を話してくれた。
葵との100m走の勝負で負けたのが気に入らなかったらしく、再度勝負を持ちかけたらしい。その時に『どうせやるなら、何か賭けるか』と言われたので、負けた方は勝った方の言う事を何でも聞くと言う事にしたらしい。
勝負内容はトラック一周分の400mで、葵がハンデとして一番外のレーンで走ることになった。
ここまで馬鹿にされたら、負けるわけにはいかないと意気込んだはいいが…
「んで、有り得ないくらいの差でぼろ負けしたと…でも、なんでお前の頭がサッパリしてるんだよ?」
「………暑っ苦しいからだとよ」
あぁ、やっぱりか…実は、俺も同じ理由で伸びたら葵に切ってもらってるからな。何より、タダだし早いし結構いい感じに切ってくれるから便利なんだよな。
「…ほんとムカつくぜ。あんなチビなのに、何処からあんな力出てんだよ」
「まぁ、葵の事は割り切ったほうが良いぞ。あいつはそういう生き物だと思った方が気苦労が無くて楽だぞ」
「はぁ、幼馴染のお前が言うんだ。これからはそうするよ」
「うん、素直でよろしい……ところで、その葵は何所だ?」
「あぁ、反対側の女子更衣室だぞ」
女子更衣室…それは決して男が入る事の出来ない、女の領地。
「……俺さぁ、たまに思うんだけど。葵って本当に男か?」
「……確認したことねぇし。する気もねぇよ…てか、幼馴染のお前の方が詳しいだろ」
「いや、葵の裸って見た事ないし…」
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最後の女子部員の髪の毛をカットする。この子はそこまで伸びてなかったので、邪魔になりそうな所だけ軽く鋏を入れる。
「はい、できたよ」
「あおちゃん先輩、ありがとうございます」
地面に散らかっていた髪の毛は、部員の女の子たちが手際よく片付けてくれる。俺も鋏を拭いて、軽くさび止めを吹いて専用のロッカーにしまう。
競技場から出て、近場の木陰に座る。
「ふぅ、疲れた…」
「あおくん、おっつ~」
秋保が俺が座っている後ろから、キンキンに冷えた缶ビールを出してくる。
「あぁ、ありがとう。やっぱり仕事終わりにはコレだよな……じゃねよ!?」
「あはは~、ノリいいにゃ~。大丈夫、ラベル変えただけだから、中身は普通のスポドリだよぉ」
「無駄に凝った悪戯するんだな…」
悪戯っぽい笑顔を浮かべて、俺の隣に座る。
秋保も同じ偽ビールを飲んでいる。俺もカシュっという音を立てて開け、少し疑いながら飲む。
本当に中身は普通のスポーツドリンクだ。キンキンに冷えていて、すっきりした甘さが渇いたのどを潤してくれる。
「あおくんってさ、何でもできるんだね」
「ん?……そこまで何でもできるわけじゃないよ」
「またまた~。さっきは男子のエースを軽くあしらうし。今だって、女の子の髪の毛カットしちゃうし」
「まぁ、人間やろうと思えば大体何でも出来るもんだよ」
実際、俺だって初めから何でもできたわけじゃない。失敗だって山ほどしたし、出来なかった事も山のようにある。
「あ、そうだ。四連休って何か予定有る?」
「ん?特に皆で何処か行こうとかは無いかな…それがどうした?」
「ふっふっふ~、じゃ~ん」
変な笑いをしながら大きなスポーツバックを取り出す。
あぁ、なんか分かった気がする。
「連休中、家に泊めてくんないかな~」
「一応理由を聞こうか」
「だって、暇なんだもん」
やっぱりか…この秋保って奴は何の脈略も無く、こんな事を言う奴なのだ。一年弱しか付き合っていないが、嫌というほど経験したからな。
「でもなぁ、親御さんが…」
「あおくんの家に泊まりに行くって言ったら、あっさりOKしてくれたよ?」
おい、いいのかよ!?いくらこんな奴でも一人娘をホイホイ男の居る家に泊めていいのかよ…それともあれか、日ごろの付き合いで信用してもらってると考えるべきなのか。
秋保の実家は商店街で肉屋をやっていて、よく買い物で利用しているのでご両親とも顔馴染みだ。
「俺に断られると思わなかったのか?」
「おあくんは断らないでしょ?それに、いざとなったら鈴に頼むし」
「はいはい、負けました。泊まるのは良いけど…連休中の宿題は終わらせろよな」
「……うん」
なに、その間は。かなり心配だけど…まぁ、ずっと遊んでるわけじゃないだろうし、勉強の時間を取ればいいか…いいよな?
「話は聞かせてもらった!」
「誰かの気配がすると思ったら、お前かよ」
振り向くと爽やかな?笑顔を浮かべている竹と、その横で面白くなさそうな顔をしている槐が居た。
「俺らもいいか?」
「お前らなぁ……はぁ、もう好きにしろよ…」
こうして、三泊四日のお泊り会が開催されるのであった。




