第二十二話 とある休日
一章のうちにリアルの登場人物全員出したいと思い、リアル編重視で書いていきます。
「いただきました!」
「はい、お粗末様」
皿を洗っていると、朱里が食べ終わった皿を持ってくる。
今日は休日だが朱里は部活動がある。今も部活用のユニフォームをきて準備している。
朱里は休日の部活の時は一時間早く家を出て、軽く走ってから部活に行く。またく、その無駄な体力をアリスにも分けてやってほしいよ。
「あお兄、今日は来るの?」
「あぁ、家の事終わったらな」
俺も何でか分からないが、よく運動部のマネージャー的な感じで呼ばれる事がある。勿論、各部活にはマネージャーは居るんだけど。
俺が部活に入っていないからってこともあるが、なんか俺が居ると男女共に燃えるとの事だ。それで、今日は陸上部に呼び出されたんだが、きっとあいつの相手だろう。
「んじゃ、先に行ってるね~」
「おう、車には気を付けろよ」
「わかってるっすよ!」
元気に部活動に向かう朱里。家にはまだ寝坊助が二人いるが、せっかくの休日だしもう少し寝かせてやるか。
残りの皿を洗い終わり、二人分の朝食にラップをかけて掃除と洗濯を終わらせる。
「さてと…俺も支度して行くか」
♦
ママチャリに乗って、学園に向かう。
学園には陸上競技場があり、土曜日には陸上部が練習したりする。たまに公式の大会などにも利用されるので、かなりしっかりしたものだ。
正門から入り、校舎を通り過ぎて並木道を少し行くと立派な佇まいの建築物が見えてくる。
競技場の前には数台の自転車が止められている。その自転車の脇に自転車を止めて、開いている入り口から中に入る。
中から賑やかな声が聞こえてくる。やはり今日は男女の陸上部が合同で練習をやっているようだ。
競技場のトラックを一生懸命走る男女。男子は南側の直線で、女子は北側の直線でそれぞれ練習をしている。
俺の入った入口は西側で、丁度両部の顧問の先生が居たので軽く挨拶をして女子の陸上部が練習している北側のトラックに行く。
「はい、記録取りますから中等部一年から並んでね~」
「秋保」
「ん?おぉ、あおくんじゃまいか。今日も呼び出しくらったんだね~、ご愁傷様」
俺が声をかけたのは片山秋保だ。二年一組で鈴の親友の子で、黒髪のホワッとした天パーが特徴の、明るく悪戯好きだが誰とでも分け隔てなく話すので男女共に人気がある。しかも、俺を男として扱ってくれる数少ない女子でもある。
秋保はいろんな部活のマネージャーを兼任しているので、休日に呼び出しがかかる俺は会うことが多くなり、秋保の性格も手伝ってすぐに仲良くなった。
「ん?そういえば朱里が居ないな…」
「おやおや~、朱里ちゃんの心配なんて、とっても妹思いのいいお兄ちゃんですねぇ~。それとも、たわわに実った果実が揺れるのを見たいのかなぁ~?」
「はいはい、そうですねー」
「はぁ、まったく…あおくんはからかいがいにゃ~。朱里ちゃんなら外コースの走り込みだよ。朱里ちゃんは典型的な長距離タイプだからね~」
まぁ、そうだろうな。朱里は短距離では普通位の速さだからな…いや、もしかしたら普通よりも遅いぐらいだろう。なんせでかいからな。
なので、いろんな場所で開かれるフルマラソンな大会に出ては驚異的なタイムをたたき出している。しかも、年々早くなっているのだから恐ろしい。
「「あおちゃん~」」
「「あおちゃん先輩~」」
秋保と話していると、タイムを測るために並んでいた女子たちが俺に気が付いたらしく声をかけてくる。まぁ、悪い気はしないんだけど、男扱いされないのもどうかと思う。
「おぉ、部活がんばれよ~」
女子の黄色い声を後ろに聞きながらムサイ男子の方に向かう。
男子の方はすでに記録を測り終わっているようで、皆だらだらと雑談している。その中で一人だけ走り込みをしている男子部員が居た。
身長は高めで、中肉中背だ。長めの黒髪はだらしなくボサボサだ。だらしない感じとは裏腹に、その走るフォームはかなり綺麗でしかも早い。
「9秒86…うん、いいタイムだよ」
ほぉ、なかなか早くなったな。確か今の公式の100mの世界記録は9秒55だったはずだ。高校生でこのタイムなら将来は世界記録を塗り替えるんじゃないかな。
「早くなったじゃないか、槐ちゃん」
俺が呼ぶと眼光鋭く俺を睨む。この目つきの悪いのは深谷槐だ。二年三組で竹の悪友というやつで、何でか俺を敵視している困ったちゃんだ。
まぁ、俺の知り合いの息子でもあるから、会う度におちょくったのも敵視する理由の一つかもしれない。
「…銀チビ!今日こそお前に勝つぜ!もう二度とちゃん付けなんてさせねぇ!」
「ん?疲れているだろ?今日は止めといた方がいんじゃないか」
「うっせぇ、今日は絶好調なんだよ!ほら、やるぜ!」
こんな口が悪く寝つきの悪い男だが、先ほどのタイムからも分かる通り陸上部のエースだ。今までの公式大会でもすべて優勝している。
でも、槐が今陸上部のエースをやっているのも俺のおかげだろう。
俺が入学したての頃に、俺が槐ちゃんをからかって追いかけっこをした時に、槐の走りの才能を見た三年の男子陸上部部長にスカウトされたのだ。
初めは嫌がっていたが、練習して俺に勝ちたい欲の方が勝って今に至ると。
今の槐の原動力の一つは俺に勝つ事だ。だからたまに俺が連中に付き合うのだ。まぁ、槐が俺に勝つのはまず無理だろうけどな。
「おい、銀チビ。その格好でやんのか?」
「ん?そのつもりだけど?」
俺の服装はジーパンにTシャツのかなりラフな格好だ。もちろん、運動には適さない格好なのは自覚している。
「舐めやがって…ぜってえ勝つ!」
「まぁまぁ、そう力むなよ槐ちゃん」
槐がスターティングブロックに足をセットし、クラウチングスタートの構えを取る。俺もクラウチングスタートの構えをして合図を待つ。
パン!と空地を震わせて乾いた音が鳴る。その音と共に槐がブロックを思いっきり蹴って前のめりに加速する。段々と加速していきまるで弾丸のように風を切って走る槐。
俺はそれを見ながら、ゆっくりとスタートする。
加速し続ける槐…全身のバネをフルに生かし、力強く地面をける。俺はその姿を見ながら加減をして隣に並ぶ。槐は俺の方を見ないが一瞬顔をゆがませる。きっと本気の走りで俺に追いつかれてるのがムカついたのだろう。
残り20m…少しペースを上げて槐を追い抜く。しかし槐も諦めてなく、さらにギアを上げて俺に食い下がってくる。
「ハァハァ…くっそ~~~」
「HAHAHA」
走り終わって大の字に倒れこむ槐を見下ろしながら、アメリカンな乾いた笑いを送る。
「くそ、ムカつく笑い方しやがって…」
「まぁ、少しは早くなったな。フォームもかなり綺麗だし、最後の食い下がりはびっくりしたぞ。それにタイムも更新したしな?」
「うん、今のタイムだけど。9秒82だったよ。ちなみに葵ちゃんは9秒20だったよ」
「たっく、おめぇは世界記録上回ってる走りしたのに、何で呼吸一つ乱れてねぇんだよ…」
「まぁ、俺だからな」
「くっそ。次はぜってぇ勝からな!」
「はいはい、頑張れよ」
大の字にくたばっている槐の髪の毛をクシャクシャにして遊ぶ。槐はされるがままに髪の毛をいじられる。全力で走ってクタクタだから反撃もできないでいる。
やっぱり槐はイジリがいがあるな。親父同様にな。




