第8話 花は、火脈の下で鳴いていました
火脈の見回りには、リタさんと一緒に行った。
温室へ送る熱が減っている。どこか一つの留め具だけが悪いのか、もっと下から弱くなっているのかを確かめる。
私は薬園で使う、熱に敏感な草の鉢を持った。
青灯草には王の魔力で鳴る癖がある。でも、火脈へ近づくと、王がいなくても葉の裏の色が変わる。
先生が、それで測れる範囲を教えてくれた。
音だけで判断しないため、火脈の技師も器具を持っている。
町の下の通路は、石の匂いが濃かった。
足元には細い水路。壁の向こうを、熱い空気が流れる。
私たちは分かれ道ごとに止まり、器具と葉の色を確かめた。
三つ目の分岐で、青灯草が鳴った。
細い、不揃いの音だった。
「ここだけ、葉が白い」
私は鉢を壁から離した。
近づけると白くなり、離すと青みが戻る。
技師が留め具を開け、石の蓋を外した。
中に、見覚えのある白い結晶があった。
共鳴石。
竜の国から、王都へも輸出している石だ。
双方の器具の間で魔力をやり取りし、暖房や荷運びを助けるもの。王宮の薬園で、私も何度か見ていた。
でも、こちらの石の中心には、黒い金属が差し込まれている。
竜の技師は、こんな部品は許可していないと言った。
「向こうへ、流れたまま戻らないようにしてある」
彼は器具を見た。
輸出した石の組と、この石が繋がっているなら、火脈の熱は王都へ奪われる。
単に外してよいのか、私は尋ねた。
「向こうに溜まった魔力が戻ることがある。止める準備が必要だ」
私は、夢の中のリリア様の部屋を思い出した。
白い光が、床にこぼれていた。
あれが治療の光なのか、溜まりすぎた熱なのか、夢ではわからなかった。
国の調査に、私は王宮で見た器具のことを伝えた。
初めて設置したのは、聖女様の大きな儀式を始める前。
薬園の温室にも、同じ仕入れの部品が使われていた。
その製造の印を、私は見覚えている。
技師が印を写し、取付けに関わった人を調べに行った。
私は見たことしか話せなかった。
そのかわり、見たことを曖昧にして、殿下のせいだと決めつけるのもやめた。
夕方、王が診療所へ来た。
外套を脱ぐ指に力がない。
額へ触れてよいか聞くと、彼は少し驚いて、許してくれた。
人の姿でも、手首の内側は冷たかった。
「魔力を、足したのですね」
「巣が冷える前に」
ネラ先生が彼を椅子に座らせた。
成竜は熱が外へ奪われると、中心の火が逆に強く燃えることがあるという。
ククとは違う。
幼い竜は新しい鱗が開かない。大人の竜は、身を守ろうと熱を作りすぎる。
同じ青灯草をそのまま使っては、さらに火を弱めてしまう。
私は別の薬を先生と準備した。
王は黙って飲み、カップを返した。
「苦いな」
「人には、毒です」
「味まで、毒にしなくてもよさそうだが」
思わず笑った。
彼も笑って、それから椅子に深く座った。
「今日は、少し休んでも」
彼が言った。
先生が、少しではなく一晩と答えた。
私は窓を閉め、外の水路の音を聞いた。
王が眠らずに働かなければ暖まらない国を、私はよい国だと思いたくなかった。
彼が眠っても、皆が眠れるようにしたかった。




