第7話 未来を知っていても、次の夢は見られません
戻ってきた石は、二つに割れていた。
私が預けたときには、一筋の亀裂だけだった。
調べた方が壊したのではない。内側の力が尽きると、そうなる石だという。
「夢見石です」
竜の歴史を調べる老婦人が、机へ小さな箱を置いた。
古い石の図が、別の紙にある。
乳白色の中に、薄い羽のような筋。母がくれたものと同じだった。
「危険な未来が持ち主へ迫ったとき、一度だけ、その先の道を夢として見せるものです」
実際に三か月を戻ったのではなかった。
私が最後まで歩くはずだった道を、寝ている間に見てしまったのだ。
王宮の器具に大きな力が集まったことで、石が働いたらしい。
昔、人の国へ渡した石の記録が残っているという。
「では、次にどうすればいいかも、わかるのですか」
私は尋ねた。
老婦人は首を振った。
「あなたはもう、あの夢の道から離れました。今から何が起きるかは、私にも石にもわかりません」
私は箱へ手を伸ばした。
石は冷たく、軽かった。
首が残っているのは、奇跡の力が続いているからではない。
自分が馬車を選び、北門で足を止め、子竜へ触ったからだ。
その先も、自分で選ぶしかない。
部屋を出ると、レオニス様が庭で待っていた。
石について聞きに来たのは、私のほうだった。
一人で聞きたいと伝えたら、彼は外で待ってくれた。
「先のことは、もうわからないそうです」
「怖くなったか」
私は頷いた。
未来を知っていれば、正解を選べると思っていた。
三か月後の処刑だけを避ければ、一生幸せなのだとも。
そんな簡単な道は、なくなっていた。
彼は、私の横へ座った。
「今まで、あの国でずっと怖い夢を見ていたのだな」
私は、悪役令嬢と呼ばれたことを話した。
薬園の草をリリア様の部屋へ置かないように言ったら、聖女を邪険にすると噂された。
毒草の危険を説明したつもりなのに、彼女の治療を妨げたと思われた。
私が口を開くと、夢の中の人たちは何かを確かめるより先に、役を決めていた。
レオニス様は石の箱を見た。
「私にも、君の三か月後を保証することはできない。だが、私の国で罪を問うときには、君の話を聞く。それは約束できる」
夢の中では、話を聞いてもらえなかった。
私はその違いを、胸の中へ置いた。
その夜、ククの熱がまた上がった。
私は駆けつけ、ネラ先生へ道具を渡した。
冬鱗へ替わる子は、一度よくなったから終わりではない。体の小さな変化で、また熱を溜める。
先生は薬を調整し、母親に休むよう言った。
私は子竜の横へ座る。
「あおい、はな」
眠い声がした。
昨日なら、きっと治ると言ったかもしれない。
私は薬の匂いを確かめ、ククの脚を包み直した。
「今、ここにあります。先生と、よくなるように手伝います」
子竜が、私の袖を握った。
私はその手を外さず、椅子を近づけた。
次の夢を待つより、今この子の呼吸を聞いていようと思った。




