第5話 毒草の薬師にも、焼き芋は売ってくれます
初めて町へ出た日は、リタさんが案内してくれた。
薬園の外を一人で歩いてよいのかと聞くと、許可が必要なのは戸の鍵を借りることだと笑われた。
亡命の申請は受け付けられ、調べている間も外出できる。
私が王都へ逃げ戻るのを心配されているわけでもなかった。
階段を降りると、市場があった。
大きな肉の串と、小さなパンの串。人と竜で量が違う。
屋台の客が背中に翼を出したので、私は道を空けた。
リタさんが、大丈夫、風除けにしただけ、と教えてくれた。
「竜の姿になるのは、誰でもできるのですか」
「竜族なら。人族にはできない。だから、道の上で急に大きくなるのは、町では嫌がられる」
禁止の札もあった。
大道での変身は、荷の搬入時のみ。
私はそれを見て笑ってしまった。
恐ろしい竜の国にも、荷運びの揉め事があるのだ。
焼き芋の屋台で、二つ買った。
私が渡した銀貨は王都のものだったが、使えた。
店主は鱗のある年配の女性で、薬園へ来た新しい人かと聞いた。
人間でも、仕事があるならいてよい、と。
それは歓迎の言葉で、同時に、何もしなくても皆に好かれるわけではないという意味でもあった。
私は熱い芋を受け取り、ありがとうございますと答えた。
リタさんは、人と竜の間に生まれた子ではないという。
両親とも人間で、父親の温室の仕事について町へ来た。
国境のこちらで育ったから、竜が怖かった記憶があまりない。
「でも、鱗のある人を見たら、何でも平気だと思わないでね。あの串を私は全部食べられない。竜でも、食べられない人がいる」
私は頷いた。
人間という言葉一つで、私とカシアン殿下を同じにしてほしくない。
そういうことなのだろう。
薬園へ戻る途中で、レオニス様と会った。
家臣が二人ついている。私は礼をしようとして、芋を落としかけた。
彼が先に手を伸ばし、包みの下を支えた。
「どうだった、町は」
「焼き芋を、買えました」
答えが幼すぎた。
でも、薬でも毒でもないものを自分で買って、人前で食べたことが、その日は一番嬉しかった。
彼は、笑わずに聞いてくれた。
「温かいうちに、食べるといい」
「半分、いかがですか」
彼の家臣が、少しだけ動いた。
見知らぬ食べ物を王へ渡してよいのかと、私は手を止めた。
レオニス様は屋台を見たあと、包みの中へ視線を戻した。
「いつも買っている店だ。もらっても?」
私は芋を割った。
金色の中身から、湯気が上がる。
彼は半分を受け取り、普通にかじった。
私たちは市場の隅で、焼き芋を食べた。
「昨日、塔にいらっしゃいましたね」
「水路が冷えたのか」
「少しだけ。あなたが、火脈へ魔力を送ったと聞きました」
彼は芋の包みを畳んだ。
月に一度だった補いが、この秋から週に二度になったという。
子竜の不調も増えている。竜医と、火脈を扱う人たちが調べている。
「私にも、わかることがあるかもしれません」
私は言った。
彼は私の手を見た。今朝、青灯草を育てた指先には、細い赤みがある。
魔力を流し続けると、熱が籠もるのだ。
「仕事の時間に、ネラと相談してくれ。今は、芋が冷める」
私は残りをかじった。
熱い。
でも、痛い熱ではなかった。
彼が横にいると、今日の自分を、明日の役に立つものだけにしなくてよい気がした。




