↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/18

第3話 毒草を捨てなくてよい朝

「ずいぶん、きれいね」


窓辺の青灯草を見て、ネラ先生が言った。

私は花の部分に覆いをかけた。

今朝には、芽が小さな花まで伸びていた。青い釣り鐘が、一つ。


「人には毒があります。部屋に置くのは」

「知っているなら、表示と覆いをつければいい。きれいなことまで、隠す必要はないわ」


先生は紙を一枚置いた。

草の名前、使う部位、育て始めた日。急速に育てたので、薬の材料として使う前に確認が必要と書く。

私の魔法は、成長を早める。

薬効が一定になるかは、土や種にもよる。きれいに育ったことと、安全に使えることは同じではない。


午前中、私の持っていた種を全部見てもらった。

八種類。人には毒性があるものばかりだ。

母が小さい頃に、庭の花を咲かせようとしても枯らしてしまう私へ、別の種を持ってきてくれた。

それが赤い睡果草だった。

初めて育った草を見て、父は顔を曇らせた。

伯爵家の娘にふさわしい魔法ではないと。

母は鉢を厨房の外へ移し、触るなという札を出した。

その草で、近所の老馬の痛みを和らげる薬を作った。

私が薬師を目指したのは、その日からだった。


先生は、一種類ずつ用途を聞いた。

私は知っているものだけ答えた。竜に使った経験は、ククの一度だけ。

知らないものは、知らないと言った。

先生が、そのほうが早く教えられると言ってくれた。


薬園は、山の斜面にあった。

温室の中には、人用と竜用の鉢が分けて並んでいる。

金色の髪の女性が、土の袋を運んでいた。

鱗はない。人間だった。


「リタです。温室の世話をしています。あなた、青灯草を持ってきてくれたんですって?」

「少しだけです」

「少しを増やすなら、私の仕事と一緒ですね」


彼女は新しい土を開けた。

私も小さな鉢を運んだ。貴族の娘がその袋を持つのかと、聞かれることはなかった。

代わりに、腰を痛めない持ち方を教えられた。

この温室へ熱を送っているのは、地下の火脈だという。

湯の水路と、巣を暖める空気の道が、石の壁の中で繋がっている。


「ここまで温かいのに、子竜が冬鱗に替わるのですか」

「朝晩の山は寒いもの。少しずつ慣れるはずだけど、今年は、うまくいかない子が多いの」


リタさんが、窓を見た。

山には、まだ白いところがない。

冬が本格的に来る前から、子竜が熱を溜めている。

私はそのことを、覚えておくことにした。


昼に、ククを見に行った。

眠っていた子竜が目を開け、私の鞄を覗こうとする。

そこに青い花があるのを覚えているらしい。


「はな」

「まだ、触れません。薬を作るときに見せますね」


子竜は、わかったという顔ではなかった。

でも、舌を引っ込めた。

私は先生へ訊ね、覆った鉢を少し遠くへ置いた。

ククは安心したように、目を閉じた。


その夜、滞在の申請をした。

治療に協力する薬師としての仮滞在。賃金と部屋のことは、薬園の責任者が説明した。

亡命を希望するなら、別の窓口で事情を聞くという。

私は戻れない理由を、明日話すと決めた。


窓辺の花が、かすかに鳴った。

戸が叩かれ、レオニス様が入ってきたときだった。

青い釣り鐘が、風もないのに揺れる。

彼は一瞬、花を見て、それから私の顔を見た。


「この花は、君が育てたのか」


私は頷いた。

褒められるのか、捨てるように言われるのか。

彼の次の言葉を待つ間、私はまだ、王宮にいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。