第17話 青い花のそばで、花嫁になりました
春に母が来た。
国境までは荷馬車。そこから、使節の竜が運んでくれた。
父は一緒ではなかった。村の薬園の仕込みが重なり、母を先に送りたいと便りに書いてあった。
会わないことを責められなかったので、私も残念だと正直に書けた。
次の機会を考える余地が、二人の間に残っていた。
母は、着くなり薬園へ来た。
王への挨拶より先に私の顔を見て、頬へ手を当てた。
「ちゃんと食べているのね」
「はい。焼き芋も、たくさん」
母が笑った。
私は母を抱きしめた。
王都を出た朝、手紙しか残さなかった。そのことを謝った。
母は、知らせてくれればもっとよかったと言い、それから、生きていてよかった、と続けた。
二つの言葉を、同じ腕の中で聞いた。
レオニス様との結婚についても、話していた。
王の家の仕事と、薬園の仕事の時間を分けること。
私が診療をするときにも、ネラ先生たちの方針を守ること。
王の体のことを私だけへ押しつけないこと。
夫人や家臣と何度か相談し、できることを決めた。
慣れない作法は、教わる。
まだできないことは、そのように言う。
正式な求婚は、庭だった。
青灯草の鉢のそばに、レオニス様が立っていた。
何か立派な贈り物を持ってくるのかと思ったら、小さな箱だけだった。
開くと、青い石の指輪がある。
花の形ではない。薬の覆いに引っかかりにくい、低い石だ。
「君がこれを使えるか、リタに聞いた」
「お仕事の間は、外すかもしれません」
「外していい。私は、君の手を飾りだけにはしたくない」
私は指輪を見た。
次に、彼の目を見る。
花が鳴っていた。
でも、それが答えを決めることはなかった。
「ユリア。私と結婚してくれるだろうか」
私は、はいと答えた。
一度言ってから、彼の手を取った。
「あなたと、暮らしたいです」
指輪が、指に収まった。
私が王都で婚約したときには、家の人が大きさを決めていた。
今度は、事前に私が自分で確かめたものだった。
彼は私を抱き寄せた。
私は腕を背へ回し、額を胸へ置いた。
ここにある熱を、もう町の火脈へ全部あげてしまってほしくなかった。
婚礼は、庭と広場に分かれて行われた。
二人の誓いを聞くのは、家族と、薬園の方たち。
そのあと、町の広場へ行く。
青灯草は毒があるので、覆いのある鉢で飾った。
子供が触れる場所には、青い布の花を置いた。
リタさんが縫ってくれたものだ。
ククは、母親と一緒に来た。
白いリボンをつけられて、気に入らなさそうに前脚を上げている。
私がしゃがむと、頬へ鼻をつけた。
「ユリア、はな」
「はい。今日は、花の服です」
子竜はよくわからない顔で、リボンを噛んだ。
サーヤさんが慌てて止める。
王が笑い、私も笑った。
リリア様からは、小さな灯りが届いた。
自分の魔力だけで作った、夜に読み物ができる明るさの石。
彼女は今、人の国の小さな診療所で働いている。
できる治療を続け、器具へ誰かの力を無理に集めない。
それが、彼女が自分で選んだ仕事だった。
その夜、私は灯りを窓辺に置いた。
レオニスが隣へ来る。二人きりのときには、陛下と呼ばないことにした。
「今日は、苦い薬はないのか」
「夜の分は、あります」
彼は大きくため息をつき、私が出したカップを受け取った。
私は笑った。
婚礼の日にも、薬を飲む。
明日も元気でいてほしいと思う相手と、そのカップを並べられる。
今夜の私には、それがとても贅沢なことだった。




