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第16話 竜王様と、空の上で約束をしました

二月十三日の朝、私は薬園で目を覚ました。

窓の外には、雪が残っている。

首に手を置いた。

夢の中では、今日、この首を失うはずだった。

鐘が鳴る。薬を煎じるための水が、廊下を運ばれていく。

私は寝台から降り、厚い靴下を履いた。

何も起こらない朝を、こんなに待ったことはなかった。


割れた夢見石は、小さな箱に入っていた。

私はそれを開けず、棚へ置いた。

道を避けた先には、別の危険も、別の仕事もあった。

今日、生きているのは、危険が全部なくなったからではない。

誰かと一緒に、越える方法を選べたからだ。


午後、レオニス様が庭へ呼びに来た。

ネラ先生から、短い飛行の許可が出たという。

私にも外へ出る時間ができていた。


「まだ、梯子より高いところは苦手か」

「最初の一度しか、空を飛んでいませんので」

「今度は、目を開けてみないか」


私は頷いた。

彼の竜の姿に、薬園の人が鞍を載せる。

帯を確かめ、肩掛けを巻く。

登る前に彼が振り返った。


「怖くなったら、言ってくれ。山を越えずに戻る」


私は黒い鱗へ手を置いた。

最初の空では、王都から逃げることしか考えなかった。

今日は、町を見たいと思っていた。


飛び立つと、水路が細い銀色になった。

屋根の雪が、砂糖を振った菓子のように見える。

竜の巣は丸く、温室は光を返している。

私は目を閉じずに見ていた。

怖くないわけではなかった。帯の上の手に、力が入る。

でも、彼の翼が開くたび、自分が運ばれていることを信じられた。


山の途中の平らな場所へ降りた。

遠くの雲の切れ目に、王都のほうの平野が見えた。

あちらには、薬園で働く人も、母も、リリア様がこれから戻りたい診療所もある。

全部を敵にしなくても、私はここを好きになれる。


レオニス様は人の姿へ戻り、私の帯を外した。

自分で降りるまで、手を出しすぎないよう待っている。

私は最後の一段だけ、手を借りた。


「今日、夢の日付なんです」


話すと、彼は静かに私を見た。


「朝まで、怖かったか」

「少し。今は、あなたとここに来られて嬉しいです」


私は山の風へ顔を向けた。

薬園で火脈を直し、何日も人の話を聞き、薬を作った。

彼と焼き芋を分けた午後まで、その一つだった。

それを続けたいという希望は、まだ口にしていない。


「私は、あなたが好きです」


言葉は、雪の上で小さく聞こえた。

彼の目が、すぐに私へ戻った。


「あなたが王だから安心する日もありました。でも、今は、苦い薬を嫌がる顔も、ククを受け止める手も、また見たいんです」


王は、長く息を吐いた。

白い息が、空へ消える。


「私も、君が好きだ。国のためだけなら、もっと上手に君を褒められたと思う。でも、今は、明日もここにいると聞きたい」


私は笑って、頷いた。


「明日も、います」


彼は近づき、私の額へ唇を触れさせた。

驚いて目を閉じた。

夢の中では、最後に刃の影が落ちたところだった。

今は、彼の髪が少しだけ触れている。


薬園へ戻ってから、私は王の家を管理する夫人へ会いに行った。

花嫁候補に名を載せたいと伝えた。

魔力の相性だけでなく、私自身が彼と暮らすことを考えたいから。

夫人は頷き、祝いの言葉の前に、聞いておきたいことはあるかと尋ねた。

私は薬師の仕事を続けたいと答えた。

王の体も、国の子竜も、私一人で背負わない形で。


窓の外では、黒竜がもう一度翼を伸ばしていた。

私を連れ去るためではない。

今日、二人で飛んだ風を、彼も覚えているように見えた。

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