第15話 お父様には、今は帰らないと伝えました
母の手紙は、種の箱と一緒に届いた。
私が王宮へ行く前に植えた、睡果草の種。
母が取り置いていたものだ。
箱の中に、父の便箋も入っていた。
私は母の手紙を先に開いた。
生きていると知って、安心しました。
あなたの部屋の本は、捨てていません。
薬草をしまう棚も、そのままです。
それから、王宮の納入の仕事について書かれていた。
薬園を縮める措置に、父は今まで賛成していた。家の仕事が別の儀式の器具へ移ると期待したからだ。
その器具が人を傷つけていたと知り、父は納入の役を退いた。
畑を貸していた村の薬師と一緒に、国内の薬を作る場所を整えるという。
私を連れ戻すために同じ仕事を用意したのではない。
向こうで続ける仕事を、自分で選んだらしい。
父の便箋は、短かった。
娘の薬師としての仕事より、王宮との縁を先に考えた。
帰るように言う前に、どんな仕事をしていたかを聞くべきだった。
そのことを謝りたい。
母が私へ種を送りたいと言ったので、父は箱を用意した。
私は、すぐには返事を書けなかった。
父を嫌いになりたかったわけではない。
でも、謝罪を読んだ日に家へ帰れば、もう全部よくなったことにされる気がした。
それを決めるための時間は、私にもあってよいはずだった。
その朝、レオニス様が温室へ来た。
歩くことは許されたが、まだ竜の姿で飛ぶのは禁止されている。
王が歩いていると、皆が薬を飲んだか尋ねるようになった。
本人は少し困っていた。
「今日も、苦かった」
「ちゃんと飲まれたなら、よかったです」
私は鉢に水をやった。
彼は、母の種の箱を見た。
私は手紙のことを話した。
「会うために帰るのは、まだ難しいです」
「ここに呼ぶこともできる。君が望むときに」
呼ぶ。
私の生活が、こちらにあるなら、家族に見に来てもらえる。
帰って詫びるための道しか知らなかった私には、その考え方が新しかった。
返事は、その日に書いた。
今はヴェルナの薬園で仕事を続けたい。
冬の移動は体に負担なので、母には春に来てもらいたい。
父の謝罪は読んだ。でも、まだ時間がほしい。
本を捨てないでくれて、ありがとう。
最後の一行は、二人に向けて書いた。
私は便箋を封じてから、王へ言った。
「春にも、ここにいてよいですか」
「許可は出ている」
彼はそう答え、すぐに言い直した。
「いてほしい。私も」
温室は暖かかった。
私の顔だけが、もっと暖かくなる。
土を確かめるふりをして、彼のほうを見た。
レオニス様も、私を見ていた。
「私も、いたいです」
ここで働きたいと言うのとは、違う声になった。
彼が近づき、私の頬に触れてよいか聞いた。
私は頷いた。
指先は、もう冷たくない。
彼の掌に頬を寄せると、青灯草が鳴った。
私は少し笑った。
「この花、今は静かにしてくれませんか」
彼も笑った。
花の音のせいで、言うはずだったことを忘れそうになる。
でも、忘れても、もう一度ここで話せる。
私はそのことを嬉しいと思った。




