第14話 聖女の光は、誰のものでもありません
火脈から熱を奪う器具を止める仕事は、二日後に始まった。
王は寝台にいた。立ち会えないことを悔しそうにしていたが、国の仕事は彼の寝室まで運ばれてきた。
技師の報告を聞き、必要な人を任せる。
塔へ戻ることは、先生が許さなかった。
大臣の石には、黒い部品があった。
火脈の中のものと同じ印。王都の工房で注文され、交易の保守品として国境を越えていた。
運んだ人と、取り付けた人が別々に説明した経緯が合い、取付けの記録にも名前が残っている。
王都から来た器具の技師は、自分の上司に命じられて流れを一方へ変えたと話した。
その技師も使節に同行していて、昨夜の事故で腕を痛めていた。
リリア様が傷を塞いだ人の一人だった。
蓄えられた力を一度に戻せば、竜の国の火脈が荒れる。
王都の儀式場にも、熱を抱えた石が残っている。
先に、双方で少しずつ熱を逃がす必要があった。
止め方を考えたのは技師たちで、力の流れを感じられるのがリリア様だった。
私は、彼女の体が冷えすぎないよう薬を用意した。
作業をする部屋は、町の地下にあった。
私は小さな椅子を石の横へ置き、先生と彼女の指を確かめる。
白い光が、共鳴石の中を流れた。
王都の技師とこちらの技師が、順番を声に出す。
両国の石が、通信の光で互いの状態を知らせていた。
「ここで、少し待ってください」
リリア様が言った。
すぐ進めれば、仕事は早く終わる。
でも、器具が持ちこたえなければ、向こうの人も傷つく。
誰も彼女に、聖女ならできると言わなかった。
光が落ち着くのを、皆で待った。
大臣は、その場に連れてこられていた。
勝手な調整で国の治療を奪うのかと抗議した。
リリア様は、彼を見なかった。
「できる治療を、私の力で続けます。借りた熱を返すことと、病人を捨てることは、別にできます」
光が、少しずつ細くなる。
こちらの水路の熱は、逆に落ち着いた。
青灯草の葉が、白から青へ戻る。
技師が、それぞれの器具を確認した。
最後に、黒い部品が抜かれた。
大きな音は、しなかった。
熱を奪っていた仕組みの終わりは、細い光が一筋消えるだけだった。
私はリリア様の手を布で包み、椅子に座ってもらった。
彼女は、ふうっと長く息を吐いた。
「自分の光に、戻りました」
その指先には、小さな光が残っていた。
先生が、休んだあとなら使ってよいと言った。
彼女は笑った。
人を救う力が減ったのに、初めて嬉しそうだった。
カシアン殿下は、その報告を聞く席へ来た。
竜の熱を利用して儀式を拡大する計画を、知らなかったとは言わなかった。
薬園を縮小しても困らないと、国の医官へ命じたことも認めた。
それでも、病人を治して国を豊かにするためだったと繰り返した。
竜の国の外交官が、昨夜の患者の数と、危険に陥った巣の数を読み上げた。
誰がその豊かさの代価を払ったのかを、確認するためだった。
使節は、国境の窓口を通じて帰国することになった。
器具の改造と事故についての記録は、両国の担当者が保管した。
王都でも調べが進み、国王はカシアン殿下を継承候補から外した。
国務大臣は職を解かれ、無断の流用と人を危険へさらした責任を問われた。
儀式をやめた街には薬の需要が残り、薬園が再び開かれた。
そうした知らせは、一度にではなく、冬の間に少しずつ届いた。
私との婚約も、正式に解消された。
使節が帰る朝、殿下は私へ声をかけかけた。
私は立ち止まった。
彼は、戻れと言わなかった。謝りもしなかった。
私は礼をして、診療所のほうへ歩いた。
そこでは、ククが初めて、ユリア、と私を呼んだ。




