第12話 雪の夜、子竜の巣が冷えました
異変は、その夜に来た。
温室の水路が、一度大きく鳴った。
次に、湯気が薄くなった。
私はリタさんと戸を閉じ、鉢へ布をかけた。
予備の炉へ火を移す。薬園では、火脈が止まる場合の準備をしていた。
その準備を使う日が、本当に来たのだ。
下の町から、鐘が鳴った。
保護巣の温度が下がり、子竜を診療所へ移すという。
私は用意してあった薬の籠を持った。
ネラ先生は診察室へ行き、リタさんは温室へ残る。
私は二人の間で、必要な鉢を運ぶことになった。
診療所の戸が開くたび、雪の匂いが入った。
サーヤさんがククを抱えて来た。
子竜の足は冷たく、胸は熱い。
同じ症状の子が、ほかにもいた。
先生は呼吸と鱗の状態を見て、順番に薬を決めた。
私はその指示を書き留め、取り違えないよう一つずつ渡した。
「あおい」
ククが小さく鳴く。
私は、青い薬草の鉢を通路の棚に置いた。
診察を終えた子が、覆い越しに見える高さだった。
庭で風が鳴った。
レオニス様が黒竜の姿で、塔へ飛ぶところだった。
私は窓を開けかけ、先生の声で止まった。
「今は、冷気を入れない」
私は窓を閉めた。
呼び止めに行きたいと思った。でも、私がここを離れれば、薬を待っている子が一人遅くなる。
塔の仕事は、王と技師たちがする。
私は、自分の手を使った。
使節の宿でも、騒ぎが起きていた。
大臣が持参した石に、街の共鳴石が強く反応している。
問いを受ける前に器具を外そうとしたらしい。
制御されていた流れが開き、王都へ一度に熱が引かれた。
宿の職員が警備へ知らせ、技師が到着した。
私はその経緯を、薬を取りに来た人から聞いた。
リリア様が診療所へ入ってきた。
袖をまくり、手を握っている。
自分の光なら、傷のある人の処置を助けられると申し出た。
先生は小さな怪我の部屋を任せ、無理になったらやめるように言った。
彼女の指先の光は弱かった。
でも、雪道で転んだ人の擦り傷を一つ、きちんと塞いだ。
広場いっぱいに届かなくても、役に立つ光だった。
明け方近く、塔の上に黒い翼が見えなくなった。
水路の温かさは、少しだけ戻った。
私は安堵して、次の瓶を持ち上げた。
そのとき、庭から名前を呼ばれた。
「ユリアさん。竜医長を、塔へ」
レオニス様が、倒れた。
先生は診療を別の竜医へ引き継ぎ、私を呼んだ。
成竜の薬を持ってくるように。
私は棚へ走った。
青い幼竜用の瓶ではない。
根の薬。灰色の包み。先生と何度も確認したもの。
鞄に詰めながら、足が震えた。
処刑台の夢より、怖かった。
私が先を知らない道にも、失いたくない人がいる。
その人が、今、寒い塔にいる。
私は肩紐を掛け、先生の後を追った。
祈るための空には、まだ雪が降っていた。




