第11話 元婚約者は、竜の国まで迎えに来ました
使節が来る日は、雪が降った。
王都の王太子と国務大臣が、竜の国へ正式に訪れる。
リリア様の保護を知り、こちらへ渡された薬師についても説明を求めたいという。
私が彼らから渡されたことは、一度もない。
私は面会に同席したいと申し出た。
ネラ先生は止めなかった。そのかわり、途中で出てもよいと言った。
レオニス様は、入口に近い席を用意してくれた。
逃げ道まで用意された部屋で、私は初めて殿下の顔を見た。
カシアン殿下は、昔と変わらなかった。
白い軍服、胸の飾り。家族へ会いに来たような表情で、私の名前を呼ぶ。
「ユリア。ずいぶん長く、拗ねていたな」
私は返事をしなかった。
すぐ答えると、その言葉を受け入れた会話になる気がした。
竜の側の外交官が、私の滞在は本人の希望によるものだと説明した。
殿下は、伯爵家が心配していると言った。
「君の父上は、王都の納入を止められたくないだろう。帰って、一緒に謝ればいい」
私は、机の下で手を握った。
夢の処刑場でも、父は俯いていた。
家を守ることと、私を守ることが違うと思ったまま、最後まで。
「私は、婚約を終えたいと申し出ました。帰ってお詫びをするつもりはありません」
殿下の口元が動いた。
「聖女へ毒を近づけたことも、後悔していないのか」
「薬を選ぶときに、体の状態を確認する必要があります。危険な草を、理由なく部屋へ置くのは止めました」
リリア様が、隣で顔を上げた。
「私からも、伺います。どうして、私の部屋を外から施錠したのですか」
国務大臣のバルクが、静かに答えた。
聖女の安全を守るため。
彼女は、指の包帯を机の上へ置いた。
「危険だと私が言ったとき、儀式を止める許可はいただけませんでした。安全を決める人に、私が入っていなかったのです」
殿下は、彼女の言葉ではなく、包帯を見た。
美しく治っていない指を、隠してほしいような顔だった。
私はそれを見て、怖さより先に、長い疲れを思い出した。
見栄えのよい答えを出すために、私たちは何度体を後ろへ置いたのだろう。
共鳴石の話が出た。
竜の国の技師が、黒い金属の部品を示す。
王都へ送る熱が戻らないようにされている、と。
大臣は、正当な交易の補助部品だと説明した。
取付けを手伝った人が、使節とは別に調べを受けていると知らされても、顔を変えなかった。
「聖女がこちらへ来ている間、王都の器具は停止しているはずです」
竜の技師が言った。
それなのに、火脈の熱はまだ減っている。
大臣の指が、上着の胸元へ動いた。
そこに白い石が、少し覗いた。
私は立ち上がらなかった。
誰かが怪しいからと、手を伸ばす場所ではない。
ただ、技師へ視線を向けた。
彼も、その石を見ていた。
その日の話し合いは、そこで終わった。
使節の宿にある器具も、翌朝、立会いの上で確認することになった。
殿下は去り際、私へ言った。
「後で私のところへ来い。二人で話せば、君もわかる」
私は、いいえと答えた。
入口に近い席から立ち上がり、リリア様と一緒に医務室へ戻った。
今度は、戸を外から閉める人はいなかった。




