暴走する熱源
嵐は夜にかけて、さらにその狂暴さを増した。
温室のガラスを叩く雪の礫は、今や絶え間ない銃声のように響いている。エリスは制御盤の前に張り付き、刻一刻と下がる気圧計の針を、祈るような心地で見つめていた。その時、地鳴りのような振動と共に、温室の「心臓」が止まった。
ボイラー室から響いていたはずの低音が、唐突に消失したのだ。
「……嘘でしょう?」
エリスは制御盤を叩いた。主配管の蒸気圧を示す針が、目に見える速さでゼロに向かって倒れていく。
彼女はボイラー室へと駆け出した。冷気が、すでに血管の端々まで侵食し始めている。凍りついた鉄の床に膝をつき、彼女は手探りで予備の点火レバーを探した。
「第、四バルブ、閉。供給管、凍結。手順書通りに、予備火床を……っ」
指先が冷たい鉄に張り付く。無理に引き剥がせば皮が剥けるだろうが、そんな痛みすら感じないほどに指は白く強張っていた。何度レバーを引いても、火花は散るだけで、冷え切った燃焼室に熱が宿ることはなかった。
「動いて、お願い」
震える声で彼女は懇願した。手順書なら、暗唱できるほど繰り返してきた。あらゆる例外事態に対する想定は、羊皮紙の上に記述してきたはずだった。だが、目の前の冷酷な物理現象は、彼女の言葉も、理屈も、積み上げてきた努力も、すべてを無意味なノイズとして嘲笑っていた。
エリスは絶望の中で、おぼつかない足取りでアネモネの苗のもとへ戻った。一番繊細な、青い花の苗。彼女は迷わず自分のウールのベストを脱ぎ、その小さな鉢を包み込むように被せた。
「……第、七バルブ、開度ゼロ。恒常性維持、失敗」
薄いシャツ一枚になった彼女の肩を、容赦ない寒さが切り刻む。彼女は苗の横にうずくまり、もはや意味をなさない報告を自分自身に繰り返した。視界の端で、完璧に咲き誇っていた花々が、一分、一秒ごとに、その瑞々しさを失い、黒ずんでいくのが見えた。
死が、この箱庭を支配しようとしていた。
その時、再び扉が叩きつけられるように開いた。
「エリス! 無事か!」
雪の塊と共に、ルカが飛び込んできた。彼はソリも石炭も持たず、ただ吹雪を突いてやってきたようだった。
「ルカ……? 来ちゃダメ、ここはもう、終わりよ」
エリスは力なく首を振った。
「ボイラーが止まったの。私の、計算が間違っていた。何をしても、もう熱は戻らない」
ルカは返事をする代わりに、冷え切った主配管の前に立った。彼はその凄惨な状況を一瞥し、それから信じられない行動に出た。
彼は厚手のコートを脱ぎ捨て、凍りついた配管を、剥き出しの腕と体で抱きしめたのだ。
「やめて、何を……!」
「温めるんだよ。これくらいしか、俺にはできないから」
「無駄よ、一度も上がらないわ! あなたが凍えるだけよ!」
「はは、これでも俺、中央ボイラーの次に熱い男だって言われてるんだぜ」
ルカは歯を食いしばり、焼けるような冷気に顔を歪ませながら、場違いな冗談を飛ばして笑った。そして、しがみつこうとするエリスを優しく、だが断固として押しとどめる。
「それに、あんたがいなきゃ、外はもっと寒いんだ」
エリスの動きが止まった。
ルカの腕の中で震える熱。鉄と肉体が擦れる、生々しい摩擦の音。そして、彼の皮膚が凍傷に近い熱傷を負い始めている、焦げたような匂い。
エリスの頭の中にあった、整然とした羊皮紙の記録が、その瞬間に真っ白に燃え上がった。
エリスは気づけば、ルカの背中にしがみついていた。
嵐の咆哮を遠くに聞きながら、二人は言葉を失い、ただ一つの配管を抱きしめ続けた。
温室の静寂の中で、ルカの荒い呼吸音だけが、不規則なリズムで世界を繋ぎ止めていた。




