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平凡だった私が生まれ変わったら森の神様に好かれ龍人に愛される物語  作者: 茜雫桂香


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望んだ真実と拒んだ真実

あと、三年。

あの日からフィリアの姿を見なくなって一週間が過ぎた。

相変わらず、優しいリリィは傍でたくさんの事を教えてくれるし、微笑みかけてくれる。

それでも、曇った心は日に日に重くなり、黒くなる。


(あと三年も…いらないんじゃないかな)

最近そんな思考に陥る。

そもそも、この世界にいる理由が私には分からなくなっていた。

何の役にも立てず、フィリアにも嫌われてしまっているなら…もうエルディオンの元へ行った方がいいんじゃないか。


午前の教養を終えて、昼食の準備をしに向かったリリィがいない間。

自室のバルコニーで景色を眺める。庭園はたくさんの花が咲き乱れ、暑い日差しが、噴水の水面をキラキラ輝かせる。

平和な日々なのに、ちっとも幸福感を得られない。


しばらく景色を眺めていると、視界に陽光に照らされて艶めいているブロンドが入る。


(あの人は?!)

パルフィ公爵家の時に見た。女性。味方なのか、敵なのか分からない。

誘拐を助けている素振りを見せながら、牢から出る手助けもしてくれたのは、彼女だ。

今なら分かる。牢で彼女が巻いたものは、――植物の種だ。


私を見ているのか、ピンクの瞳がじっと見据えている。

居ても立ってもいられず、屋敷を飛び出した。


門の前までくると、やはりあの日の女性が、今日も高いヒールを履いて、全身を覆う外套を纏って立っていた。


「はぁはぁ、貴方は、あの時の」

慌てて来たため、肩で息をしながら問いかける。私を見る瞳から敵意を感じないものの、感情を読み取れない。

何とか息を整え、言葉を続ける。

「あの時は、助けていただいて、ありがとうございました」

そうお辞儀をすると、小さなため息が聞こえる。


「お人好しね」

凛とした芯の通った声に、呆れた感情が乗っていた。

顔を上げて眉を下げると、じっと見つめられたまま、彼女は続ける。


「また、閉じ込められてるの?」

「あ…」

私達の間には、暑い季節だというのに、凍って開かなくなった門がある。

言葉に詰まっていると、彼女は言う。

「どうしたい?…ここから出たい?」


「…貴方は、どうして私を気に掛けるんですか?」

私の問いに、さも当然だと言わんばかりに

「それが、私の使命だからよ」

そう告げ、掌を私にかざす。


「どきなさい」

彼女の言葉に、横にずれる。

それと同時に大きな音と風が舞う。


ドオオオオオオン

硬く凍っていた門が木っ端みじんに砕けた。

驚きで瞑ってしまった瞼を上げた。


「…早くしないと来るわよ」

そう手を差し出され、反射で手を掴んだ。


すると地面に印が広がる。

ふわっと体が浮いた感覚がした時、遠くからリリィの声が聞こえた気がした。



▽▼▽



「大丈夫?」

光に包まれて、眩しく閉じた瞳を開けると、私を覗き込むピンクの瞳の彼女がいた。

「あ、はい」

辺り見渡すと、知っている場所だった。


「ここ…」

そう言葉を続けようとした時、温かな風が頬を撫でる。


「ディリティ?…なぜここに来た」

聞きなれた声が、耳に届くと同時に、何度目かの景色が視界に広がる。


様々な色の花が咲き乱れ。高原の中央には一本の大樹が天へ向かって伸びていた。果てしなく高く、空を突き抜けるように。足元はやわらかく温かい。

花の香りが満ちるその場所で、どこからともなく鳥のさえずりが響いていた。

そうエルディオンがいる場所だ。


戸惑ったエルディオンの声が響く。隣に立っていた彼女は、表情一つ変えないまま話し出す。

「…なんだか、そうした方がいい気がしただけよ」

そして、私へ視線を移すと

「ここはね、秘境の森、大地と生命の根源。そして――貴方の生まれた場所」


「私の…生まれた場所?」

その言葉に思考が一瞬止まる。


「おい、ディリティ。私を無視して話を進めないでよ」

エルディオンは怒ったように言うも、ディリティと呼ばれた彼女は構うことなく続ける。


「私はディリティ。貴方の守護者であり、監視者でもあるの」


「えっと…」

戸惑いが大きく言葉が出ない。その様子を気に留めることなくディリティは話を続けるし、エルディオンは、諦めたように沈黙する。


「貴方はニュムペー族の生き残り。――そして私も。

エルディオン様が私達に加護を分けてくださり、ここまで眠っている事ができたの。――」


そこから話してくれた過去は、壮大で自分の事だと実感するには、あまりに神秘的で偉大過ぎて、どこか他人事のように聞いていた。



ニュムペー族は、大地の妖精と龍人族が恋に落ち。子を成したところから歴史が始まった。

つまり――ニュムペー族は妖精と龍人族のハーフということ。


そして何故か、ニュムペー族は龍人族にしか心惹かれなかったという。

龍人族もニュムペー族も生涯一人を伴侶とし、幸せに、穏やかに秘境の森とフィシオロゴス国で生活していた。


浄化と回復の力しか持たず、武力を持たないニュムペー族を守り抜いていたのがフィシオロゴス国の龍人族だという。


しかし、大きな戦争で住処にしていた秘境の森は瘴気に塗れ、朽ち果てた。


最後の力で、私達はニュムペー族の妖精の源を種に変え、エルディオンへ託した。

その際、エルディオンは赤子だったディリティも一緒に眠らせ、いつか芽が出た時に、守護者、そして監視者としてつけようと考えた。


ニュムペー族では瞳の色で妖精の力が色濃く残っているか見分けていた。

妖精の力とは――大地に愛される魂と浄化の力。

暖色であればあるほど、その力は強く。大地に愛され、どんな瘴気も怪我も病も治せる。


そして――ニア。貴方は赤い瞳をもって生まれた。


最も強く、濃い力を持つ。

私達は力を使うのに詠唱はしない。その代わり歌を歌うの。



ただ、ニアはまだ歌えない。

それは、エルディオンが封じているから。

あまりに強い力を持つニアの歌を幼い内に開花させたら、体が持たないのと、また大きな戦争が起こる。


なので、ニアの力を封じる為に、生まれてすぐに、ある契りを交わしたの。

十六歳になるまで歌を封じる。その代わり、エルディオンの加護を授かった。


それが――人の心を読める力。


ディリティも貴方の守護者となる為に、水属性の魔力を加護としてエルディオンから授かった。



たくさんの情報の中で、少しずつ、点が線になっていく。

「まって、じゃあ十六歳で死ぬというのは?」

その言葉に、ディリティは目を細め、大樹を睨みつける。


「十六歳になると、歌えるようになるわ。その代わり、人の心は読めなくなる。

それと…お願いがあるの」

鋭い視線から、また無表情になり、私へ視線を戻す。


「秘境の森を完全に浄化してほしい。私達の住処を取り戻したいの」

その瞳は初めて熱をもっている。


「浄化が終わったら、…貴方は私と共に、この森を守りましょう」

返事をする前に、今まで沈黙していたエルディオンが話しかけてくる。

「ちょっと、それを決めるのは――」

反論するディリティに畳みかけるように、エルディオンは続ける。


「貴方はフィシオロゴス国にいても幸せそうに見えないもの。

だったら私とディリティと共に此処で過ごせばいい。――私の伴侶として」


「は、伴侶?」

その言葉に驚くと続けて言う。

「理解しやすいように伴侶と言ったけど――神の私からすれば、性別や種族などないもの、

ただ…それほど強く大地に愛されし者は、もはや私とそう変わらない存在。

私と同化し、大地を愛し守りぬいてゆけばいい」


「ど、同化っていうのは…」

「…エルディオン様は目の前の大樹に魂を宿し住処にしているの。だから…同じね。魂を大樹に移すのよ」

ディリティは先程までとは暗い声色で話す。

「でも、それは、ニアが決める事よ」

「もちろん。強制はしないわ。それでも…よく考えて、現状の貴方は幸せなのかどうか。

私と一緒なら、穏やかで平和なこの大地で時に身を任せながら過ごせるわ」


(現状の私が幸せなのか…どうか)

視線が足元に落ちる。色とりどりの花が風で揺れ、肌に優しく触れる。


「…時間がないわね」

ディリティは空を見上げながら、ぽつり呟く。そして私に一言告げると、突然目の前から姿を消した。


「――少し、懲らしめてくるから待ってって」


「え、ディリティ…」

残された私は、ただ、立ち尽くす。

するとエルディオンは警戒を滲ませた声で告げる。


「今、奴らが動き出しているの。残り三年まで己の身を守り抜いて」

「奴等って?」

「私達も、正体を掴めていないの。それでも悍ましい瘴気が作り出されてる」

「おぞましい…瘴気」

「ええ、必ず貴方を狙ってくる。

それまでは、余り面白くはないけど――ガラディオス家の若造に守られるのが一番安全かしらね」

その言葉に思わず息が止まる。


「フィリア?」

「ええ、あの若造は代々ニュムペー族を守り、愛してきた家系だからね」

「じゃあ、フィリアにも…ニュムペー族の血が流れてるの?」

その問いに、少しの沈黙の後エルディオンは教えてくれた。


「藍色の瞳は、完全に龍人族の血しか流れていないと思うわ。

元々、ガラディオス家は強い魔力量と濃い龍人族の血を受け継ぐ家系だったからね。


それに――ガラディオス家でニュムペー族と伴侶になった者はいなかったはず」


その言葉に、胸が締め付けられた。

フィリアは濃い龍人族の血筋。――龍人族にしか惹かれないのかもしれない。


たくさんの情報と自分の感情の整理に時間がほしかった。

その会話を最後に、私は押し黙ってしまった。


慰めるように、優しい風が頬撫でてくれていた。


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