58.罰
ローンダイト王は自らの快楽と興味の中でしか生きられなかった。
結局のところ、人の生きる意味はその程度だと考えていたからだ。
先王たる父は心労の末に死んだ。やせ細り、枯れ果てて。
だから……恐ろしかった。
王の地位がもたらす責任から逃れ続けなければいけなかったのだ。
それがようやく終わる。楽しみは尽きていないが、幕は引かれた。
銃口で狙われながら、ローンダイト王は笑った。
「クリフォード、お前がエランとともにいることに驚きはない。だが、お前はそれでいいのか」
「陛下、汚名など些細なことなのです。今を生きることに比べれば」
「殊勝だな」
クリフォードはどこまでも穢れのないまま罪業を引き受けようとしていた。それもエランのためにか。
いや、あの哀れな公爵の娘のためにか。
「俺は他人の為には生きられん。それが俺とお前の違いよな」
「まさしく」
「俺は死後の世界なぞ信じていない。墓はいらん」
エランが厳しい目をしながら、言った。
「さすがにそうはいきませんよ」
「……なら、今日という日を記念して酒を造れ。あの世にいる俺が笑って飲めるように」
「御意に」
クリフォードが引き金を引く。
弾丸はまっすぐローンダイト王の心臓を貫いた。
大口径の最新型拳銃だ。
衝撃で後ろに倒れたローンダイト王は、苦痛を感じる時間もなく、息絶えた。
「……ひとつ、終わった」
エランは呟いた。
それはこの場にいる全員の思いだった。
悪逆の王たるローンダイト王は死んだ。
「もう少し抵抗されるものかと思いました……」
クリフォードが拳銃を下げる。エランが首を横に振った。
「それはない。兄上は困難に立ち向かえない人だから。快楽しか追えない……特に酔っている時にはね」
エランは少しの悔恨もないようだった。すべきことをした、と。そのようにしか捉えていないようだった。
「これで大公の軍は死に物狂いで、王宮の俺を追ってくるだろう」
「……はい」
「君が懐柔した諸侯、各機関の兵もそろそろ出撃用意が整う頃だろう。ここからの一日が全てを決める」
クリフォードは頷いた。
わかっていたことだ。もう後戻りは出来ない。王は死に、騒乱は続く。
「この国の為ならば、どのようなことでも」
「ありがとう。いつか真実が明らかになり、君の手の血が清められんことを」
「もったいなき御言葉……どうか殿下、良き王となってください」
◆
「どうした、なぜ進まん!」
大公は激して王宮を見据えた。
せっかく前進を命じているというのに、歩兵が進まなくなってしまったのだ。
「申し訳ございません! 想像以上に残った敵の抵抗が激しく……!」
「くっ、最後の悪あがきをしおって……」
大公の手がかすかに震える。
何にしても時間をかけすぎるのは賢明ではない。王都は動揺している。
迅速に制圧できなければ、今後の権力を握るのに不都合が……。
いや、本当に恐れているのはクリフォードだった。
彼が同情心からにしても抵抗からにしてもエランを捕縛できなければ、とんでもないことになる。
「……前に出る!」
「閣下自らが!?」
側近の驚きをよそに、大公は眼前の王宮を睨みつけた。
振り続ける雪のせいで、目の前の光景は白く染まりきっている。
「クリフォードへの援護だ。ここが勝負所。危険は承知! なんとしても乱心した殿下を捕らえ、騒乱を鎮圧しなければならん!」
言って、大公はイリスに目をぎょろりと向けた。
「貴様も来い」
イリスに拒否する権利はなかった。
だが、感じていた。
この騒乱もまもなく決着するのだろう。どちらが勝つにせよ。
大公たちとイリスが部隊の前衛に移動しつつある、まさにその時。
「――閣下!」
「なんだ?」
「後方から敵襲です! 殿下にくみする者どもが……!」
大公が後ろを振り返る。
確かに怒号と銃声が迫ってきていた。
イリスは直感した。
これはエラン殿下の勝負手だ。今、殿下が戦局を動かそうとしている。
「蹴散らせ!」
「そ、それが……!」
「なんだ、早く言え!」
苛立つ大公に伝令が叫ぶ。
「ルミエ様のご実家も、アデス公爵様も……! 大公閣下の縁戚の方々も我々を攻撃しております!」
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