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虐げられた公爵令嬢、女嫌い騎士様の愛妻に据えられる~大公の妾にさせられたけれど、前世を思い出したので平気です~  作者: りょうと かえ
1-4 運命の冬

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57.流転

「……否定は、しません」


 イリスははっきりと言った。

 クリフォードはイリスを大切にしている、と思う。


 その事を疑ったことはない。


 大公の目が細まる。


「変わったな」

「えっ……?」

「昔のお前はそんな目をしていなかった。あの公爵の娘にしては……」


 そこで激烈な発砲音が王宮から響いてきた。


 背筋の凍る発砲音が連続し、それがずっと続く。


 これまでとは比べ物にならないほどの射撃戦のようだった。


「――っ!」

「敵の反撃か……!」


 大公がイリスから目線を外し、王宮を睨みつける。


 まだ発砲音は続いている……多少は小さくなったようだけれど。


「きゅー……」


 ミラも不安そうだった。


 クリフォードは無事なのだろうか。

 イリスには祈ることしかできない。


 まもなく、伝令がやってきて大公へ報告を始めた。


「申し上げます! 先陣が敵の反撃を受けました!」

「状況は!?」

「クリフォード様の獅子奮迅の活躍により、敵は大打撃を受けております! 一方、先陣の損害は軽微とのこと!」


 おおおっと歓声が上がる。

 報告の最中、王宮からの発砲音が止まった。


 それもさらに大公側の士気を高める。


「ただ、殿下のお姿はなかったとのこと。先陣は慎重に前進するとのことです!」

「……ううむ」


 大公が顎に手を当ててじっと思考を巡らせていた。


 雪はさらに吹きすさんでいる。


 このまま雪が降り続ければ、さすがに戦闘どころではなくなるのかも。


「本隊を急ぎ前進させる! 緒戦の勝利を確実にし、王宮を制圧しろ!」

「ははっ!」

「クリフォードには殿下の捕捉を最優先にしろと伝えろ。必ず見つけ出すのだ!」


 大公の目が欲望にギラつく。


 自分の子であるクリフォードの力を疑ったことはなかったが、ここまでとは。


 王宮の制圧と殿下の捕縛が迅速にできれば……勝利としてはあまりにも大きい。


 もはや陛下の保護など、どうでもよいとさえ言える。


 本隊が前進するにつれて、濃厚な硝煙の臭いにめまいがしてきた。

 さらには血と埃の臭い。戦場、命を奪う場の臭いだ。


(……クリフォード……)


 覚悟をしていたはずなのに。


 でもこの命を奪い合い、国が傾いて倒れそうな瞬間の現実に心が傷つく。


 クリフォードは本当にこの最前線にいるのか。いて、無事なのか。



 王宮内のハヤブサの塔で、ローンダイト王は酒盛りを続けていた。


 しかし興は尽きつつあった。


「……何も見えんな」


 雪はなお降り、全てを塗り潰す。

 

 王宮でもっとも高い塔の上からでも雲と雪しか見えない。


 王は退屈していた。全てに。


 塔の下がうるさく、人の足音が近付いても何もする気が起きなかった。


 扉が開けられ、エランとその兵が踏み込もうとしてもローンダイト王は何もしなかった。


「……エラン、貴様にしては大胆だったな」

「兄上、なぜここに?」


 ハヤブサの塔は高いだけで何の備えもない。立て籠もるのにはあまりに不適切だった。


 エランにとってもハヤブサの塔に王が籠るのは予想外であった。


 王は低く笑う。


「ここからなら、騒動がよく見えると思った。期待外れだったが」

「…………」


 理解できない。だが、これがエランの兄の王なのだ。


「大公は諦めないようだがな。どう収拾がつくかどうか、見ものだ」

「兄上には選択がある」


 エランは厳しい表情を浮かべていた。


 どうしようもない暗君の兄ではあるが、王は王だ。


「おとなしく投降するか」

「断る」


 王は嘲笑った。


 弟はどこまでも真面目な人間だ。王というよりもただの官僚。


「お前に俺がどうこうできるのか?」


 そこで王は目を剥いた。

 エレンの背後に、よく見知った顔が現れたからだ。


「……クリフォード」

「殿下、お下がりを」


 クリフォードは拳銃を手にしていた。


 大公の軍に支給された、一般の兵よりも高性能の最新式の拳銃。


「全ての罪は私がお引き受けいたします」

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