57.流転
「……否定は、しません」
イリスははっきりと言った。
クリフォードはイリスを大切にしている、と思う。
その事を疑ったことはない。
大公の目が細まる。
「変わったな」
「えっ……?」
「昔のお前はそんな目をしていなかった。あの公爵の娘にしては……」
そこで激烈な発砲音が王宮から響いてきた。
背筋の凍る発砲音が連続し、それがずっと続く。
これまでとは比べ物にならないほどの射撃戦のようだった。
「――っ!」
「敵の反撃か……!」
大公がイリスから目線を外し、王宮を睨みつける。
まだ発砲音は続いている……多少は小さくなったようだけれど。
「きゅー……」
ミラも不安そうだった。
クリフォードは無事なのだろうか。
イリスには祈ることしかできない。
まもなく、伝令がやってきて大公へ報告を始めた。
「申し上げます! 先陣が敵の反撃を受けました!」
「状況は!?」
「クリフォード様の獅子奮迅の活躍により、敵は大打撃を受けております! 一方、先陣の損害は軽微とのこと!」
おおおっと歓声が上がる。
報告の最中、王宮からの発砲音が止まった。
それもさらに大公側の士気を高める。
「ただ、殿下のお姿はなかったとのこと。先陣は慎重に前進するとのことです!」
「……ううむ」
大公が顎に手を当ててじっと思考を巡らせていた。
雪はさらに吹きすさんでいる。
このまま雪が降り続ければ、さすがに戦闘どころではなくなるのかも。
「本隊を急ぎ前進させる! 緒戦の勝利を確実にし、王宮を制圧しろ!」
「ははっ!」
「クリフォードには殿下の捕捉を最優先にしろと伝えろ。必ず見つけ出すのだ!」
大公の目が欲望にギラつく。
自分の子であるクリフォードの力を疑ったことはなかったが、ここまでとは。
王宮の制圧と殿下の捕縛が迅速にできれば……勝利としてはあまりにも大きい。
もはや陛下の保護など、どうでもよいとさえ言える。
本隊が前進するにつれて、濃厚な硝煙の臭いにめまいがしてきた。
さらには血と埃の臭い。戦場、命を奪う場の臭いだ。
(……クリフォード……)
覚悟をしていたはずなのに。
でもこの命を奪い合い、国が傾いて倒れそうな瞬間の現実に心が傷つく。
クリフォードは本当にこの最前線にいるのか。いて、無事なのか。
◆
王宮内のハヤブサの塔で、ローンダイト王は酒盛りを続けていた。
しかし興は尽きつつあった。
「……何も見えんな」
雪はなお降り、全てを塗り潰す。
王宮でもっとも高い塔の上からでも雲と雪しか見えない。
王は退屈していた。全てに。
塔の下がうるさく、人の足音が近付いても何もする気が起きなかった。
扉が開けられ、エランとその兵が踏み込もうとしてもローンダイト王は何もしなかった。
「……エラン、貴様にしては大胆だったな」
「兄上、なぜここに?」
ハヤブサの塔は高いだけで何の備えもない。立て籠もるのにはあまりに不適切だった。
エランにとってもハヤブサの塔に王が籠るのは予想外であった。
王は低く笑う。
「ここからなら、騒動がよく見えると思った。期待外れだったが」
「…………」
理解できない。だが、これがエランの兄の王なのだ。
「大公は諦めないようだがな。どう収拾がつくかどうか、見ものだ」
「兄上には選択がある」
エランは厳しい表情を浮かべていた。
どうしようもない暗君の兄ではあるが、王は王だ。
「おとなしく投降するか」
「断る」
王は嘲笑った。
弟はどこまでも真面目な人間だ。王というよりもただの官僚。
「お前に俺がどうこうできるのか?」
そこで王は目を剥いた。
エレンの背後に、よく見知った顔が現れたからだ。
「……クリフォード」
「殿下、お下がりを」
クリフォードは拳銃を手にしていた。
大公の軍に支給された、一般の兵よりも高性能の最新式の拳銃。
「全ての罪は私がお引き受けいたします」
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