59.波に浮かぶ花びら
(父が動いている……っ!)
正直、イリスは父のアデス公爵に期待はしていなかった。
正義感や道徳心でエラン殿下に従ったとは思えない。
(でも、ということは――勝ち目があるということ?)
ただ、父は損得にはうるさい。
勝算もなしに現れるほど愚かではないはずだ。
(……ルミエ様も……!)
多分、伝言が届いたのだ。そして決断された。
あの広大な大公の庭も、外が揺らいでいる今なら破ることができる。
全てが、王都にある全てがイリスの知らないところでも動いていた。
「アデスもだと!? 恩知らずめが……!」
大公は怒りをあらわにして、イリスを睨みつけた。
「あいつはお前がここにいることを知らんらしい。俺が命じれば、即座に死ぬ運命にあるというのにな」
「……父も覚悟の上でしょう。元より、私は大公様の手にあったのですから」
ここで弱みを見せてはつけ込まれる。最悪はイリスが死ぬことではない。
(私なんて、どうでもいい。このクーデターが成功しさえすれば)
覚悟はとっくにできている。
イリスの決意を秘めた目に、大公への恐れはなかった。
「ちっ……後方の状況は?」
「なにぶん前進しているさなかですので……押されております。いかがなさいますか……?」
ここで初めて、大公は即答しなかった。
押し黙って考え続けた。
数十秒経っても、大公は目を怒らせたまま答えなかった。
「きゅーん」
ミラが鳴いても動かない、誰も。
雪がさらに強くなっているような気さえして、イリスは息を飲んだ。
「後方は防ぐだけにしろ。王宮を押さえるのが最優先だ」
大公から苛立ちを感じるものの、彼はそれを抑制していた。
ここからはほんのわずかな差が命運を分けると理解しているのだ。
まもなく、王宮側から伝令がやってきた。
「申し上げます――! 反逆派から真偽不明の噂が飛び込んでおり、そのために前線が混乱しております!」
「なんだと? どういうことだ」
伝令をそばに寄せて、大公だけが報告を聞く。
大公のほぼ隣にいるイリスは数単語だけを聞くことができた。
「……陛下……塔……自害……」
「……!」
(まさか? いえ、でも……!)
横目で大公の様子をうかがうと、彼も目を落ち着きなく動かしていた。
「…………」
大公の喉が何度も動き、言葉を飲み込んでいるようだ。
「今のタイミングで? 少し、待て」
「し、しかし……!」
「待てと言っている!」
大公の軍の後方では戦闘が起き、前方のクリフォードがいる場所でも大変なことになっているようだった。
隣で聞いているイリスの頭も爆発しそうだが、大公はさらなる情報に晒されている。
(私は――……)
「前に出るべきではないでしょうか」
「……口を開くな」
大公がイリスを睨みつける。
が、イリスは止まらなかった。むしろ大声で直言した。
「陛下が亡くなったのなら、国中が大混乱です! 早々に状況を確かめるべきかと!」
「黙れ!」
大公が激怒するが、その前に周囲がざわめき始めた。
「陛下が――!?」
「ど、どういうことだ?」
動揺が波のように走っていく。
大公が腰から拳銃を抜いて、イリスへと突きつけた。
「小娘、調子に乗るなよ!」
「撃つなら撃ってください!」
イリスは一歩も引かなかった。
「今、失われつつある命に比べれば私の命なんて……! 大公閣下の決断で数千、数万の命が左右されるのです! さぁ、陛下がどのような状態なのか、ご説明ください!!」
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