98.そんなこんなで顔合わせ
こうして、魔法の杖を作るプロジェクトが始まった。プロジェクトなんてかっこいい感じではいるが、実際の参加人数は四人だ。プロジェクトと言うには少々心もとない。
でも形から入るのが大事だと結珠は思っている。
この前の店での話し合いで、それぞれのスケジュールを出し合った。
結珠は出来れば昼間から話し合いたいと、店の定休日を提示した。ナールも採掘の旅から戻ってきたばかりで、特に予定はないらしい。しばらくはのんびりするつもりだったようで、一番忙しそうなジュジュやディーターの予定に合わせるとのことだった。
ジュジュたちも緊急の討伐要請などが入らない限りは比較的落ち着いたスケジュールのようで、すぐに四人の顔合わせの日程は決まった。
今日はその初回の顔合わせ日だ。
カウンターで話すには少々無理があるだろうと、大きく場所が使えるように商品を片付け、店の中央のテーブルを使えるようにした。
椅子はダイニングテーブルの椅子を三脚持ってきた。ナールだけはそのままナール専用椅子を使う。見栄えが悪いが新しく買っても収納場所に困るので、致し方ない。
準備を終えた頃に、ナールがやってきた。
「よう、嬢ちゃん。これ、焼き菓子だ」
「ありがとうございます! 私も用意はしてあるんですけど、これも出して良いですか?」
「好きにしてくれ」
ワーカード王国の焼き菓子も、日本ほど味のバリエーションがあるわけではないが、素朴な味で美味しい。
ナールから受け取った菓子を皿に盛った。自分が用意した分も同じ皿へと盛り付けて、テーブルへセッティングした。取り皿とカトラリーも忘れない。
自分だけならば手づかみで食べてしまうが、ジュジュとナールはそういうわけにもいかないだろう。
そろそろお茶の準備もしようかなと思い立ったところで、店の扉が開いた。ジュジュとディーターが入ってくる。
「あ……」
ディーターの姿を見た瞬間、結珠は緊張から固まった。ジュジュとの話の中では何度も名前が出てきていたが、こうして会うのは設計図の受け渡し以来だ。
どうしようかと思っていると、ディーターが結珠の前へと来た。花束を差し出してくる。
「え?」
「以前は申し訳ないことをした。お詫びだ。受け取ってほしい」
「え? ええ!?」
いきなりことについていけず、結珠はおろおろとジュジュを見る。目が合うとジュジュは頷いた。
「あ……ありがとうございます」
「招待してくれたこと、感謝する。今回は言いすぎないように注意したいと思う」
ディーターの物言いに、結珠は目を丸くした。どうやら彼も少し緊張しているようだった。
言いすぎないようにとは一体どういう意味だろうか。
結珠の至らない部分を指摘したくてうずうずしているということだろうか。
それはちゃんと反省しているのか? と少し疑問に思う。
けれど、目の前にいるディーターは真剣な表情だ。これが彼の地なのだろう。何事にも真面目なのかもしれない。
そう思うと少しおかしくなって、結珠はくすっと笑った。真面目で融通が利かない石頭だとでも思えば、あの言動も頷ける。どの世界にもそういう人間はいるのかもしれない。
ディーターは何故結珠が笑ったのか理解出来ないといった表情だったが、結珠は気にせずに花束を抱いて改めてにっこりとほほ笑んだ。
「こちらこそよろしくお願いします。えーっと、とりあえず私はこのお花を花瓶に活けてきます」
さすがにそのままにしておいては萎れてしまうだろう。薔薇にも似た立派な花が萎れてしまうのはもったいない。
大きい花瓶は居住スペースにひとつある。大急ぎでそれを取ってきて、とりあえず水を入れて花を活けた。見栄えよくするのは話し合いのあとだ。
どうぞ座ってほしいと促すと三人はそれぞれ席に着いた。結珠はお茶のために湯を沸かす。
「こちらは?」
ディーターが隣に座ったジュジュにナールについて尋ねた。
「こちらは、この店の専属魔石行商人のナールさんです」
ジュジュに紹介されてナールはぺこりと頭を下げた。
「ドワーフのナールといいます。魔術師団長様には申し訳ないが、お貴族様の礼儀がわからない平民です。無礼があっても許して頂きたい」
魔石行商人が珍しいのか、ディーターはジロジロとナールを見ている。さすがのナールもそんな様子に若干腰が引けている。
「魔石行商人! 俺は王立魔術師団の師団長、ディーターだ。礼儀など気にしなくていい。彼女たちに接するようにしてくれ」
「いや……それはちょっと……」
そう言われても、あとで不敬だ! なんて言われたら困ると難色を示すが、ディーターは笑い飛ばした。
「そんなことは言わない。俺の部下にも平民はいるし、気安いんだ。ここは王宮でもない。咎める人間はいない」
「じゃあ……まぁ、善処します」
そこまで言われたらとナールもようやく頷いた。そもそも自分の礼儀もどこまで持つか怪しいので、良いと言われるのならば、多少は安心だ。
そこにようやくお茶を淹れ終えた結珠が戻ってきた。いつも使うティーセットよりも綺麗なものだった。こちらもディーターの登場にやや緊張気味らしい。
それぞれのカップにお茶を注ぎ、前へ置く。
「どうぞ。お口に合えば良いのですが……」
そう言って出したお茶は、この前奮発して買ってきた高めのお茶だ。二十グラムで六千円越えのお茶だ。何かのときのためにと買ってきておいて良かった。まさかこんなに早々に封を切ることになるとは思ってもみなかったが。
ディーターがお茶を飲むのを見守る。彼の喉が上下して、少し目を見開いた。
「うまい……。飲んだことのない味だが、非常に飲みやすくてうまい」
「……ありがとうございます」
緊張からか少し息を止めていた。彼からおいしいという感想を聞いて、大きく息を吐き出した。
続いてジュジュやナールもお茶を口にする。
「おいしいわ! 普段のお茶もおいしいけれど、これはもっと上品な味ね。もしかして、良いお茶?」
「わかっちゃった? 実は普段飲んでいるお茶より高級品かな」
「わざわざありがとう。おいしいわ」
「あ、よかったら焼き菓子も食べて! こっちはナールさんが持ってきてくれたものなの」
「やめてくれ……。街で売ってる庶民向けの菓子だ」
結珠も奮発して高い茶葉を使ってくれたのに自分は街で売っている菓子で申し訳ないとナールは言うが、ディーターがまず先に手を付けた。クッキーのような焼き菓子を手に取り、そのまま口へと運ぶ。
「こちらもうまい。俺もたまにこういう菓子を買う」
「ええ。こういう方が日持ちするの。遠征のときなどに持っていくのよ」
自分たちもこういう菓子を食べるのだと二人が説明をしてくれる。
「そうなのか? もっと良い菓子を食べているのかと……。ああ、いやすみません!」
「謝らないでくれ。貴族向けの菓子は日持ちしないものも多い。だからこういう菓子の方が食べることが多いんだ」
「なるほど……」
ディーターからの説明に、ナールも頷いた。まさかそういう事情があるとは思わなかった。
彼らも彼らで大変らしい。
「改めて、魔女にもお詫びする。俺はどうやら無神経な質らしい」
「いえ……もう気にしないでください。お酒もたくさんいただきましたし。正直に言えば、まだ師団長さんに苦手意識があります。でも私が作りたい魔法道具を完成させるために協力いただけると嬉しいです」
「ああ。俺に出来ることがあれば」
「大丈夫よ、ユズ! 師団長が何かやらかしたら、私が対処するし、その前にお店の防犯機能が働くでしょう?」
「そうだね! お店の防犯機能!」
「やめてくれ……。追い出されないように気を付けるから」
店の防犯機能のことをすっかり忘れていた。そうだ、もしも自分に害をなすようであれば、彼は即時撤退だ。
ジュジュにからかわれたのはわかるが、ディーターは内心焦っていた。せっかく結珠との雪解けなのに、追い出されてしまっては元も子もない。
しかしこうして冗談を言い合って、何となく硬い空気がほぐれてきた。
しばらくお茶を飲んで菓子を食べて雑談が続いたが、ようやく本題に入ることになった。
「さて、雑談はこの程度にして。それぞれ話は少しずつ聞いているかと思いますが、魔法の杖を作りたいと思っています」
「質問しても良いだろうか?」
「はい。どうぞ!」
ディーターから手が上がる。
「こちらの二人は君の考えを直接聞いているだろうが、俺はジュジュから間接的に聞いているだけだ。改めてどういったものを作りたいのか、詳細を聞かせてほしい」
「わかりました。私も資料を用意してあります」
話し合いまで数日の時間があったので、結珠も資料の用意をしてある。と言っても、絵だ。
文字は書いても互いに読めるかどうか定かではなかったので、何も書いていない。実物のかんざしの杖風の魔法道具と、アニメや漫画の杖をイラストに起こしてある。
それを描いて、コンビニで人数分コピーしてきた。その紙を三人へと配った。
ここで出てくる紅茶の価格は、実際に私が好きでよく買っている紅茶専門店の価格帯を参考にしています。
お茶も嗜好品なので、お酒同様に天井を見たら結構キリがないです。
ちなみに私はこんな価格は高くて手を出したことはないです。(笑)
あと、話は変わりますが、GWなので(?)、Xに結珠とジュジュの会話だけの小話を載せてみました。
今後もやるかもしれません。(きまぐれ更新的な)
X(旧Twitter):秋本 悠 @Yu_Akimoto




