103.パステルカラーの杖
「それで、どんな仕上がりになったのかしら?」
食事を始めてから少しして、ジュジュが結珠の作った杖がどんなものか気になったのか、そう聞いてきた。
「ちょっと待ってて。昨日焼いたばっかりだから、完成ではないけど」
「ユズ! あとでいいのよ」
食事中なのだから、言葉で説明してくれれば良かったのにとジュジュは結珠を引き留めたが、それよりも結珠が立ち上がって作業スペースから物を持ってくる方が早かった。
結珠はシルバークレイとポリマークレイで出来たミニチュア杖を両方持ってきた。
「こんな感じなんだけど」
「あら? 二つあるけれど……?」
「うん。材料で何か違いが出るかと思って。こっちは銀細工で、こっちは魔石粉パーツで使った粘土と同じもので作ったの」
「見ても?」
「もちろん! よく見てみて!」
そう言って、ジュジュに二つとも手渡す。シルバークレイの方は研磨する前の少しくすんだ感じの銀。ポリマークレイの方は、何というか派手な色合いだった。
「これ……すごい色合いね。どういうこと?」
「すみません……張り切りすぎました……」
「張り切ってどうしてこうなるんだよ」
ジュジュの手の中を見たナールも若干呆れている。
「だって! 私が知っている魔法の杖ってこんな感じの色合いなんだもん!」
二人が派手だと言ったポリマークレイ製のミニチュア杖は、どう見てもアニメに出てくる魔法少女が持っていそうな杖の色合いだ。
パステルカラーで構成された、いかにもといった杖である。
ポリマークレイは自分の好きな色に出来るのだからと、ネットでその手の画像を参考にしてせっせと作った。正直に言ってしまえば、シルバークレイの方よりも手間がかかっている。
小さい分、色変えしてパーツを作るのが大変だったのだ。でもその分、理想通りのミニチュア杖が出来たと思っている。もしもこの杖作りに失敗したとしても、もう少し形を変えて、ネックレスチャームとして日本のお客さん向けに販売しようかと思える品だ。こういう魔法少女っぽいものは売れ筋だ。
「相変わらずユズの世界はよくわからないわね。でもまぁこれが良いのならば良いのではないかしら?」
「まぁ……嬢ちゃんが持つんならいいんじゃないか? あの師団長サマが持つにはちょっと可愛らしすぎるかもしれんが」
ぽつりとそんなことを言ったナール。ついうっかり魔法少女の杖を持ったディーターを想像してしまう。
あの美形が可愛らしい魔法少女の杖を持って、魔術を使う。キラキラエフェクトがかかって……とアニメのような映像を思い浮かべて、結珠はあまりのおかしさに飲んでいたワインを喉に詰まらせた。
「げほっ! ぐっ……! げほげほっ!」
「やだ! 大丈夫!?」
「ぐっ……だって……ナ……ルさっ……げほっ! へんなこと……言……うから! げほっ!」
何度も咳を繰り返す結珠の背中をジュジュがさする。
言い出した当の本人であるナールは目を白黒させていた。
「俺は、単に可愛らしすぎるって言っただけだぞ?」
「いや……その、あれって私の世界では魔法を使える少女が持つ杖を参考にして作ったもので……」
「魔法が使える少女? それって嬢ちゃんがずっと言ってる、変身して戦うってやつか?」
「そうです。この杖みたいな色合いの衣装で、髪色も変化したりして……」
結珠の説明に、ジュジュとナールもそんなディーターを想像したらしい。黒の魔術師団のローブがパステルカラーになったり、髪の色が金になったり……。そんな彼が杖を振り回して魔術を使う。
次の瞬間、二人とも噴き出した。
「ユ……、ユズ! 酷いわ! 想像しちゃったじゃない! ぷっ……!」
「待て……やめてくれ! そんなこと考えさせないでくれ! 次に師団長サマに会うときに、顔見たら連想しちまうじゃねぇか!」
二人とも肩を震わせて笑っている。酒も入っているせいか、感情のふり幅がいつもよりも大きいらしく、しばらく笑いが止まらない様子だった。
自分はむせて苦しんだのだ。二人もしばらく笑っていればいいと、結珠は少しふてくされた気持ちでジュジュが買ってきてくれた串焼きの肉を串から外してフォークに突き刺した。
「別に師団長さんが使うわけじゃないんだから、どういう形でもいいじゃないですか! それに私のところではそういうの人気あるんです!」
「そうなのか?」
笑い終えたナールが酒を飲んで、さらに気持ちを落ち着けている。
それを横目に結珠はさっきの肉にかじりついた。ジュジュはまだ笑っている。
「まぁ、正直に言えば、子供向けの物語であることは事実です。でも子供の頃に「こうなりたい」って憧れたりするんですよ。それぞれ家庭の事情で欲しいものを親から買ってもらえなかった人が大人になって働き始めてから、自分のお金でこういうのを買ったりするんです。だからそれなりに需要があるんですよ」
「そういうものなのか?」
「ええ。おもちゃの扱いにはなりますけど。さすがに子供が持つものを大人が持っていると似合わなかったりとかあるので、大人向けのデザインに変えたりしますけどね」
「ほう……。よくわからんが、やっぱり嬢ちゃんの世界は豊かなところなんだな」
「そうね。爪のおしゃれといい、ドレスのデザインといい、平民にもそういったものが流通しているということは、とても良いところなのね」
ようやく笑いをおさめたらしいジュジュも会話に参加する。笑いつつも会話は聞いていたらしい。
「褒めてもらえるのは嬉しいな。私は自分の国が好きだよ。こうして好きなことも出来るし。だからこそ、せっかくの機会だから自分の好きなものを詰め込んだ杖を作りたいって思ったんだよね」
一度腹をくくったからには、遠慮はしたくない。
成功しようが失敗しようが、考えたデザインは無駄にはならないはずだ。ワーカード王国でダメならば日本で売る。それが出来るのは結珠の強みだろう。
でも、今まで作った魔法道具もそうだったが、そんなに失敗する気がしない。でも自分が思った方向とも違うものが出来そうな気もしている。
低価格魔法道具にしても、ネイルチップにしても、想像以上の効果が出ているのだ。もしかしたらとんでもないものが出来上がるかもしれない。
でもその前に、無事に小さい杖を大きいものにして、魔石付きのパーツをはめ込んで実際に魔術が使えるところまでいって、初めて成功となるだろう。
そのためにはまずはきちんと形にしなくてはいけない。
「残りの作業も頑張るぞー!」
酔った勢いもあって、結珠はこぶしを高く上げた。
「おう、頑張ってくれや! で、魔石を付けた腕飾りの方も出来ているんだろうな?」
「そっちも出来てます! もしも大きさ違ってはまらなかったら作り直しになりますけど!」
今のところ元の大きさの十倍になるのを想定して作ってあるので、その想定通りであれば問題はないはずだが、どうなるかはわからない。
これがアニメだったら、どちらかに合わせて伸縮するとかあるかもしれないが、現実はそう上手くいかないだろう。どうやっても微調整は必要なはずだ。
「それにしても……これって、ただ大きくするだけでいいのかな?」
「どういう意味?」
「いや、その……こういう杖を使える状態にするときって、特別な呪文があるのがお約束なんだよねぇ……」
「特別な呪文? それって、魔術を編み出すということ?」
「え!? 編み出さないと無理かな!?」
「それは……私にも初めての試みだからわからないわ。でもユズがそう思うのなら、あり得るかもしれない」
「おおっと! それは藪蛇だったかも……」
「師団長にお尋ねしてみましょう。昨日任務からお戻りだから、明日顔を合わせるの。ついでに次の打ち合わせのご予定も伺ってくるわ」
「お願いします」
とりあえずミニチュア杖を完成させるまであと最低でも三日は欲しいと結珠は自分の希望を告げた。
「多分師団長も遠征の後始末があるでしょうから、そうすぐには打ち合わせ出来ないと思うわ。大体七日後くらいを目安に打ち合わせしましょう。詳しい日程については、後日知らせるわね」
「はーい! お願いします」
「ナールさんもそれで大丈夫かしら?」
「ああ、問題ねぇ。何なら俺が魔女の嬢ちゃんへの連絡役を務めようか?」
「いいの? じゃあお願いしようかしら?」
ジュジュもまだそれなりに任務が立て込んでいるらしい。
こうして次の打ち合わせについてはナール経由で連絡を待つことになった。
パステルカラーの杖を持って、ポップな呪文で魔術を繰り出す師団長ディーターに笑いのツボを押された自業自得な結珠さん(笑)




