102.どの材料が正解?
とりあえず物がなくては始まらないと、結珠が杖部分の試作品を完成するまで、次回の打合せはお預けとなった。
「えーっと、ポリマークレイとシルバークレイ以外に使えそうな材料……」
結珠はノートパソコンを開いて、何か材料はないかと検索をかける。魔石粉を混ぜて作るとなれば、どうしても粘土系に偏ってしまう。
それに素人が扱える材料という制限がつく以上、そんなに都合の良い材料が転がっているわけでもない。
「普通のアクセサリーパーツが使えないのは痛いなぁ……。いっそのこと普通のパーツを魔石粉を混ぜたレジンでコーティングしちゃう? いや、難しいよねぇ……。うーん……」
これといって珍しい材料は存在していない。
「もういっそのことワーカード王国の金貨を溶かして魔石でも混ぜてやろうか……」
そんな物騒なことまで考えて、金が溶ける温度まで調べ始めてしまったが、どうにも現実的ではない。
大きくなったときの重さを考えると、プラスチック素材が一番だが、長期間使うのは耐久性の部分でも問題がある。
「やっぱりシルバークレイが現実的かなぁ……」
色々と軽くて便利な材料はたくさんがあるが、個人で作るというのはどれも実行するには難しい。簡単に材料が手に入って作れるものといえば、シルバークレイが妥当だろう。
試作品では色々な材料を使ってみるのは悪いことではない。
けれど、もしも結珠の杖が成功して、ワーカード王国の魔術師仕様へと組み替えていくことになった場合、簡単に作れないのであれば、結局同じことの繰り返しとなってしまう。
「師団長さんには悪いけど、ポリマークレイとシルバークレイの二種で試してみよう。他の材料は素人には扱えないのは事実だし」
こうして、結珠は二種類の杖の元となるパーツを作った。
■□■
結珠がパーツを試作している間、ナールがちょくちょく顔を見せに来ていた。
ジュジュとディーターは任務が立て込んでいるらしく、時間に融通のきくナールが結珠とワーカード王国側の連絡係となってくれているらしい。
身に着ける杖部分のパーツのデザインをああでもないこうでもないと意見を出し合いながら決めていたが、結局杖をそのまま小さくしたものにした。
結珠は「鍵が杖に変化したりもあるんです」と言ったが、ナールからは「単純に大きさを変えるって話だったんじゃねぇのか? 形状が変わるって結構な魔術だぞ」という答えに、泣く泣く諦めたのだ。
そもそも最初から状態を複雑にしても仕方がない。単純な状態から始めるのが良いと言われ、それもそうだと思い直した。
杖もあとから魔石をはめる部分を考えてデザインしなくてはならず、結構細かい作業となって、結珠は自分が言い出したこととはいえ、結構苦労していた。
「魔石をはめ込む……どこの部分にしよう」
「誰でも簡単にはめ込める場所の方がいいぞ。多分腕輪が一番楽だ」
「腕輪が一番楽? どうしてですか?」
「杖の軸にこう……がぽっとはめればいいだじゃねぇか。腕輪がはめる軸が、人の腕か杖の軸かの違いなだけだろう?」
店に置いてあったバングルを手に取って、ナールが実演をしてくれる。
確かに、理にかなっている。
「ということは、杖の持ち主の腕の太さと、大きくなった杖の軸のサイズは同じようなサイズ感が良いってことですかね?」
「そういうことになるな。人の腕の方が少し細いくらいでいいんじゃねぇか? じゃないと遊びがない分、人の腕は締め付けられて圧迫感が増すぞ」
「ああ、そうですね。じゃあ私の腕よりも多少太いくらいの大きさになることを想定して……」
大体十倍くらいの大きさになることを想定して考える。
結局杖の長さは大きくなったときに七十センチくらいになるように想定している。大きくなったときに多少重くとも七十センチくらいあれば少し大きめの長傘くらいの長さだ。屈まずに地面に杖をつける。
なので、身に着ける小さいサイズは七センチくらいのものを作る予定だ。
連日悩みながらようやくデザインを決める。ナールにもデザイン画を見せたら、悪くないと褒められた。
「ん。いいんじゃねぇか?」
「そうですか! やったー! じゃあ明日から実際に作ってみます」
「どのくらいで出来そうだ?」
「んー。そうですね……。デザイン通りに作るまでにとりあえず三日くらい欲しいですかね。それから乾燥させて焼いて仕上げをしていくから……十日は欲しいかなぁ?」
本来であればそこまで時間はかからないが、細かい作業になりそうだし、同じデザインでポリマークレイに材料を変えたものも作らなくてはならない。それに店もある。
十日でも少し時間が足りないくらいだ。
「わかった。じゃあ七日後にもう一度ここへ来るから、その状況次第で師団長様たちの予定を聞いてくる。次の打合せの日程を決めようや」
「わかりました!」
「あと、嬢ちゃん。頼みがあるんだが……」
「何ですか?」
「この前買ってきてもらった酒がもうなくなった。次に来るときまでに用意してくれねぇか?」
「え? もう飲んだんですか!? 結構な量ありましたよね!?」
「うまくてなぁ……つい」
飲みすぎたと、ナールは頭をかく。
結珠は呆れつつも、酒屋へ注文しておきますと約束をした。
約束の七日後。店が終わる頃の時間にナールはやってきた。ジュジュも一緒だった。
「ジュジュさんも! いらっしゃい!」
「こんばんは、ユズ。どう? パーツは作れたかしら?」
「うん。結構上手く出来たよ! 焼きまで終わってるから、あとは削ったりして仕上げをするところかな?」
シルバークレイ素材もポリマークレイ素材も、昨日焼きを終えたところだ。
今日はナールが来ることがわかっていたので、作業はお休みで、明日以降に研磨していく予定だ。
「ナールさんだけだと思ってたから、夕飯足りるかな?」
閉店近くに来ると言っていたので、夕飯は用意してあったのだが、結珠とナールの二人分だ。
ナールは酒も良く飲むが、料理も結構食べるタイプだ。それなりの量はあるが、三人となると少し足りない気もする。
「大丈夫よ。私も突然来たし、色々串焼きを買ってきたの。これを足してもらえる?」
ジュジュは持っていたバスケットを結珠に手渡す。バスケットのふたを開けると何本もの串焼きが入っていた。
「わぁ! いっぱい! サラダはこれからでも増やせるし、十分足りると思う。ありがとう、ジュジュさん!」
「いいえ、突然押しかけちゃってごめんなさいね」
「平気平気! じゃあ、串焼きが冷めないうちに、まずは夕飯にしよう! お店も閉めちゃうね」
閉店時間には少し早いが、店内に客は誰もいない。結珠はさっさと店を閉めて、夕飯の準備をする。
「あ、ナールさん! お酒買っておきましたよ! 今何か飲みます?」
「おう! 飲むぜ! 果実酒もうまいが、やっぱり嬢ちゃんの琥珀酒が一番だ」
ウイスキーという名前に馴染みがないためか、酒の色からナールはウイスキーを勝手に琥珀酒と呼んでいる。特に不都合もないので、そのまま好きに呼ばせている。
簡易キッチンのコンテナボックスに入れておいた酒瓶を一本取り出して、ナールへ渡した。
「とりあえず一本。持ち帰り分は別にありますから、帰るときに忘れないでくださいね」
「忘れるもんか! 酒だぞ、酒! 忘れるわけがねぇ!」
何よりも好きな酒を忘れて帰るナールは確かに想像がつかない。
こうしてやいのやいの言いながら、三人の食事会は以前と変わらない空気で始まった。




