101.あっちとこっちで?
しかしディーターの提案は早速暗礁に乗り上げる。
検証をすると言っても、何を手掛かりに始めたら良いのか、誰もわからない。
そもそも、低価格魔法道具のパーツを作り上げたときに、ある程度の検証は済んでいるのだ。
「俺の推測だが、嬢ちゃんの世界の材料と魔石粉を混ぜると、それが魔力の増幅装置になるんだと思う。ワーカード王国産の粘土は魔術使用に耐えきれずにパーツが割れた。そのため、嬢ちゃんが作ったからという仮説は恐らく成り立たない。一番良いのは、ワーカード王国内の魔女に嬢ちゃんの世界の材料を使って同じように作ってもらうってのだろうが、あまり建設的ではないだろうな」
皆で考え込んでいる中、ナールがそう呟く。
確かに、ナールの提案が一番だろう。結珠以外の魔女が同条件でパーツを作って同じ効果が得られれば、恐らくは日本の材料が原因であるというのが明らかになる。
しかし、その材料を扱わせるにはある程度信用のおける相手でなくてはならない。ディーターたちにも何人か心当たりはあるが、もしもそのせいで結珠の存在が公になってしまったらと思えば、そのリスクは大きすぎる。
「その提案は少々問題がありそうだな」
「だろう? だからもう嬢ちゃんの世界の材料と魔石粉を混ぜて作ったものは魔力増幅装置となるという前提で物事を考えてもいいんじゃねぇかなと思う」
男二人のざっくりとした意見に、女子二人は苦笑した。
「そんな乱暴な感じで良いんですか?」
「そう言われてもなぁ……。俺としては、嬢ちゃんが散々確認していたことに近いんじゃねぇかなと思っているんだが」
「私が確認していたことですか?」
いきなりそう言われても結珠には心当たりがない。
首を傾げているとナールが説明をしてくれた。
「あれだ、あれ。魔力は魔術を使用したら、大気中に溶けてそれが魔石になるっつー話だ」
「ああ! でもそれが魔石粉パーツと一体何の関係が?」
確かにその話は散々した。けれど、それが今の話にどう繋がるのか、いまいち良くわからない。
しかしディーターはぴんときたらしい。なるほどと顎のあたりを撫でた。
「え? 師団長さんはその説明でわかったんですか?」
「わかったというか、ナール殿の仮説は要するに、店主の世界の材料と魔石粉で人工魔石を作り出した状態になっているということじゃないのか?」
「人工魔石!?」
ディーターの発言に、結珠はびっくりしたような声を上げた。
「人工魔石か……そう言われるとしっくりくるなぁ」
「自分で言って、妙に納得してしまったが、恐らくそうだろう。ただ、粉状の魔石でかつ他の材料との混ぜ物なので、本物の魔石ほど魔力に対する容量はない。だからこそ、小さな魔石を補助する程度の魔力しか込められず、魔力増幅装置となるのだろう」
「…………」
頭の良い人の会話ってこんな感じなんだ! と結珠は感心しきりだ。自分では絶対に思いつかなかった。
でも言われてみれば、その仮説はしっくりくる。仮説を脳内で反芻してふと思いついた。
「ということは、魔力を注いで対象物を大きくすれば、粉状の魔石は塊になる?」
「それは間違いではないだろうが、魔力をもって強制的に石を作り出すということだ。どれだけの魔力を必要とするのかわかっているのか?」
「どれくらい必要でしょうか?」
「場合によっては、命の危険性すらありえそうだが」
「え!? そんなに!?」
思いついたことを言っただけだったが、まさかそんな命の危険性すらありえるほどの魔力が必要だったとは。渋い顔をしているディーターをまじまじと見てしまう。
「それはそうだろう? 例えば、このかんざしを君が言う通りの大きさの杖にしたとしよう。この杖そのものが魔石だ。それだけの大きさの魔石は、本来何年もかけて魔力が蓄積されて作られるものだ。それを一瞬にして作ろうものならば、一体どれだけの魔力が必要となる?」
「あ……そうですね」
それもそうだ。人の頭のサイズくらいで国宝級だ。形状は杖であっても丸めたら恐らくはこぶし大くらいにはなるはずだ。国宝魔石ではなくとも、こぶし大ほどの容量があれば、十分にとんでもないクラスの魔石に分類されるはずだ。
「それに一度大きくなった魔石をどうやって元の大きさへ戻す? 魔石粉を混ぜたパーツを巨大化する際には、魔石へ凝固しないように考えながら対象物を大きくし、かつ魔力増幅装置のままであるということを考えなくてはいけないだろう」
「どんどんと難しい話になっている気がしますね」
「ああ」
ディーターの説明に、ジュジュは苦笑した。対照的に結珠は項垂れている。
「えー。じゃあどうしたらいいんですかね?」
「そうだな……。そこが解決出来たら、恐らく君が作りたい杖になるのではないかと思うが……」
問題点は洗い出せたが、解決策はどうにも思い浮かばない。全員でうなっていると、ナールが何やら閃いたらしい。
「なぁ、嬢ちゃん」
「なんでしょう?」
「全部が大きさを変えなきゃいけねぇものなのか?」
「全部が? えっと、どういう意味でしょう?」
ナールの問いの意味がわからず、質問を繰り返して逆に結珠が問いかける。
「だからよう! 杖の軸となる部分だけ大きさを変えて、魔石部分はそのままの大きさのものを杖が大きくなってから杖に着けるとかよ、出来ねぇかな?」
杖部分だけサイズを変えて、魔石は大きさを変えない。
ナールの意見にはっとする。
「それは、ありかも! 要するに、低価格魔法道具の魔石と魔石粉パーツの関係性を逆にするってことですよね? そこそこの大きさの魔石を腕輪パーツとかで持ってて、杖を大きくしたあとに魔石を杖に装着する! ありです! あり!」
創作の魔法使いたちは、途中でパワーアップアイテムは出てきて、それを従来の道具に取り付けたり形状が変わったりなどあった。それを最初からやったと思えば、ナールの意見はありだ。
魔石の伸縮を考えなくて良いし、魔石粉パーツ部分に該当する杖だけ考えれば良い。
結珠が興奮したようにありだと言えば、ディーターもジュジュも感心したように頷いた。
「確かにナール殿の言う通りだな。魔石の大きさを変えないのであれば、考えなくてはならないことがひとつ減る」
「ですよね!? そもそも後からはめ込むタイプの杖も存在していたのを忘れていました! 何が何でも一体化したものを大きくしたり小さくしたりって考えてたので、盲点でした!」
自分の好きな作品のアイテムばかり頭の中で思い描いていたので、組み合わせて使うものをすっかり失念していた。
「では、ものは試しだ。まずは店主が試作品となるパーツをいくつか作ってみて、実際に大きく出来るかどうか試してみてはどうだろうか。大きさを変えることは多分そう難しいことではないだろう。だが、実際に魔石を付けたものと一体化させて、本当に魔法道具として使えるものになるのか。そこが鍵になる」
「そうですね。じゃあ、試しにいくつか作ってみたいと思います」
「材料はどうするんだ? 低価格魔法道具のパーツと同じものを使うのか?」
「ポリマークレイは向かないだろうなぁ…。シルバークレイが第一希望ですけど、大きくしたら重量が出そうだし、どうしよう……」
樹脂だのシルバークレイだの、ワーカード王国の三人にはわからない単語が飛び出て、首を傾げるばかりだ。
「すまない、店主。どういう材料だ?」
「あ、ごめんなさい。ポリマークレイというのは低価格魔法道具のパーツに使用した白い粘土のことです。原材料は……ワーカード王国にはないものでしょうから、正直に言ってしまえば説明の仕様がないです」
「そうか。だったら仕方がないか。あと、シルバークレイとやらは?」
「シルバークレイは、通称銀粘土です。銀の粉を粘土にしたもので、成形して乾燥させたあとに焼くと、銀素材のアクセサリーになります」
「銀の粉の粘土? ネイルリングもそれで作ったって言ってたわよね?」
「うん、そう! そのときは魔石粉はシルバークレイには混ぜなかったんだけれど。混ぜたらどうなるかな?」
ネイルのときは、ネイルチップのラメ素材の代わりに魔石粉を使用した。そのため、魔石をはめ込んだリングには混ぜなかった。
今回初めてシルバークレイに混ぜてみるので、その効果は未知数だ。
「一応、材料の違いによる検証も必要だろう。低価格魔法道具のパーツで使ったというポリマークレイでも作ってみてくれ」
「はい、わかりました」
そう返事をしつつ、結珠は他にも良い材料はあるだろうかと考え始めていた。
その昔の……某あの方が歌って踊ってくっつけて……的な動画が脳内を駆け巡ったのは言うまでもない。(笑)




