100.魔法使いの杖を作りたい!
ついに100話達成しました!
まだまだお話は続きますので、引き続きよろしくお願いいたします!
結珠の告白に、ジュジュは手に力を込めた。結珠の手をぎゅっと握る。
「やっぱり、あなたのための魔法道具になりそうね」
「私のため……? ジュジュさんたちのためではなく?」
「ええ。あなたがあなたらしくいられるために作るの」
「私らしく……」
誰のためでもない、結珠のためだけの魔法の杖。
「でも……魔術師のために作らなくていいの?」
「魔法道具の使用対象者をひとりに絞ることは別に悪いことではない。そこから改良を重ねて万人向けに落とし込んでいけばいい。まずは君の杖を作って、そこからワーカード王国の魔術師仕様にしていけばいいだろう?」
ディーターも反対しなかった。高位貴族に囲まれて言葉少なめのナールを見ると、ナールも頷いた。
「別にいいんじゃねぇか? 最近の魔女たちは自分たちで魔術が使えないから、新しい魔法道具を作れねぇ。でも嬢ちゃんが新しいものを自分用に作っちゃいけねぇなんて法律もねぇ。やるだけやってみろ」
三人ともとことん付き合うといった表情だ。
結珠は三人の顔を見渡して、泣き笑いといった表情を見せて頷いた。もう一度決意をし直す。
「私、魔法の杖を作りたいです! 私のための魔法の杖!」
「ええ、作りましょう!」
「いいだろう、俺も協力する」
「もうこうなったら乗り掛かった舟だ! 俺もやってやる!」
結珠の宣言に、ジュジュもディーターもナールも、笑って頷いた。
「それで? 君は一体どんなも魔女に変身するんだ?」
ディーターに問われて、頭の中で魔法少女のような恰好をした自分を想像した。
アラサーには痛すぎる状況に、思わず叫んだ。
「しません!! 変身しない魔法の杖を作ります!」
「ぶっ……!」
結珠の叫びにディーターが噴出した。からかわれたことに気付く。
「笑うな!!」
師団長もこういう冗談を言うのだと気付いたのは、その日彼らが帰ったあとだった。
■□■
「さて、気を取り直して。具体的に杖で魔女になるというのは、何を想定している?」
カオスになりかけた状況を整理するために、お茶を淹れ直して場の空気を変えた。
再びの話し合いだ。
話し合いのリーダーは、魔法道具の知識も豊富なディーターとなった。
「そうですね。とりあえずは魔力の流れが見えるようになりたいかなと」
「確かに見えないのは致命的だな。ワーカード王国の魔女や魔術師は魔力が見えるものが大半だ。稀に見えない者もいるらしいが、苦労しているとは聞く。君ほどの魔力の持ち主で見えない魔女であるという方が珍しい」
そうなのか。やっぱり結珠は特殊らしい。
「とりあえず、杖を作るにあたって、解決すべき問題がいくつかある」
「どんな問題でしょう?」
「まずは魔石。最初からある程度の大きさの杖を作るのであれば、それに見合った大きさの魔石があるのが望ましい。そういえば、これは君の言う魔法の杖を模したものだと聞いたが?」
そう言いながらディーターがポーチから取り出したのは、かんざしだ。それも結珠が祖母に言われて作った魔法の杖を模したもの。
「あー! それ! 私がおばあちゃんに言われて作ったかんざし!」
「え? これを作ったのは君なのか?」
「はい。まだおばあちゃん……いえ、祖母が生きていたときに、指定されて作ったものです。まだ当時は魔法道具を作っているってわかっていなくて。ただ、デザインや使う石も指定されて作りました。これが魔石だったって知ったのは、私が店を継いでからです」
「自覚のない頃からこれほどの魔法道具を作ったというのか……?」
「こわっ……」
ジュジュはその話を聞いていたので、特に驚いていないが、ディーターは初めて知った話に驚いている。ナールも驚いたらしく思わず漏れた声に慌てて口をふさいだ。
「話が逸れたな。それで、この大きさでは駄目なのか?」
かんざしなので大体二十センチくらいの長さだ。確かにそれでも良い気がする。
「ちょっと小さいかもしれません。もう少し長くても良いかも」
もう少し長めと考えて、結珠はちょっと待っててくださいと三人を背に作業スペースへと向かって三十センチ定規を持って戻る。
「これくらいあるとしっくりくるかもしれません」
ディーターに定規を手渡した。受け取って定規を眺める。
「これは物差しか?」
「はい、ご存じでしたか?」
「物差しはわかるが、この材質は知らないな。木ではないだろう?」
しまった! プラスチック素材の定規を渡してしまったと気付いたときには遅い。
竹素材の物差しもあったのだが、そちらは一メートルもあるので、つい使い慣れている三十センチ定規を持ってきてしまった。
「材質は気にしないでください! というか、説明できない!」
こういうところは文化の違いがめんどくさい。化学素材など説明できるほど詳しくもないし、結珠にとっては当たり前にあるものだ。それをわからない人間にわかりやすく説明しろと言われても、結珠の頭では無理だ。
しかし、ディーターだけではなくナールも興味を示し始めた。
「師団長様や、俺にも少し見せてくれ」
「ああ」
定規がナールの手に渡る。ナールはくるくると角度を変えて定規をじっくりと検分した。
「この前の粘土といい、お前さんの世界には俺たちが見たこともない素材が色々あるな」
「粘土? どういう粘土だ?」
「低価格魔法道具のパーツだ。嬢ちゃんの世界の粘土に細かく砕いた魔石を練りこんで成型している。嬢ちゃんの世界の材料だからこそ出来た」
男二人、材料の話で盛り上がり始めた。ふとナールが気になることを言った。
「嬢ちゃんの世界の材料だからこそ、すごい魔法道具が出来るだろう? 今回もそういうのを使えばいいんじゃねぇか?」
「そういうのって、例えば?」
「それは俺にはわからん。そもそも嬢ちゃんの世界にどういう材料があるのか知らねぇんだからな。そいつを考えるのは嬢ちゃんの役目だ」
「もう!」
丸投げされて、結珠は呆れた。だが、確かにナールの意見は一理ある。
低価格魔法道具もネイルの魔法道具も、主に結珠の周囲に身近にある材料たちだ。そしてどれもワーカード王国には存在していない。
「そうか……。異世界の材料だから、ワーカード王国の魔法道具と違うのか。それは先代からか?」
「多分そうだと思います。よく祖母に頼まれて材料の買い出しに行ってました」
祖母に頼まれてアクセサリーパーツを買いに行っていたのは結珠だ。今も買う店は変えていないので、恐らくは同じはずだ。
「では、先日ジュジュが身に着けていた爪の魔法道具も?」
「はい。あれも魔石以外は全部私の世界の材料です」
「君の世界の材料と魔石とどういう風にして組み合わせて作り上げたんだ?」
「それは、魔石粉を混ぜて……。あ……!」
そうだ、魔石粉だ。
いまだにどういう作用になっているかはわからないが、この魔石粉の何某かのパーツを付けた魔法道具が、思わぬ威力を発揮している。
杖にもそれが応用出来ないだろうかと考える。
「魔石粉で杖用のパーツを作ってどうにか出来ないかな?」
「それは良い考えかもしれないわね!」
結珠の考えにジュジュが同意する。
しかしディーターが疑問を投げかけてきた。
「そもそもその魔石粉はどういった効果があるんだ?」
「えーっと、よくわかっていません。ただ、最初に使い始めたときに聞いたのは、魔石が使った魔力が溶けて出来たものだって」
「ああ。そうだ」
ナールが改めて肯定する。ディーターも知っている知識だったので頷いた。
「それで、魔石の加工をお願いしたときに削ったら出る粉状の魔石がもったいないなって思ったんです。だって魔力を込められるものでしょう? どんなに細かいものでもそれを使えば節約にもなるし、何か違った効果が出るんじゃないかなって、そのときはそう思って」
一番考えたのは、費用を抑えるためだった。別の材料と混ぜて少しでも節約出来たらという考えからだった。
今は違う。恐らくこの粉状のものが、別の効果を生んでいる。
ただし、ワーカード王国の材料との相性は悪い。結珠の世界の材料と合わせることで何かが起きている。それだけはわかっている。
そう説明すると、ディーターはふむと考え込んだ。三人はその様子を固唾をのんで見守る。
しばらくして、ディーターが顔を上げた。
「まずはその魔石粉とやらの正確な効果を検証する必要がありそうだな」
「正確な効果?」
結珠の問いかけに、ディーターも頷いた。
「ああ。俺の予想では、魔石粉が小さな魔石の魔力増幅装置になっている可能性が高い。それを応用すれば、杖作りの役に立つかもしれない」
「それは確かにそうかも!」
どうして今まで気づかなかったのだろうか。
ディーターの意見に、三人ははっと顔を見合わせた。
杖作りに光が見え始めた。




