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104/104

104.日記に助けを求めて



 結局、皆で大笑いした日から次の打ち合わせの日程は八日後となった。

 結珠も時間に余裕が出来たので、丁寧に仕上げ作業を進めた。


「出来た! 会心の出来では!?」


 出来上がったミニチュア杖をまじまじと見る。

 シルバークレイの方は銀一色ではあるものの、ところどころで魔石粉が光っていて、何とも言えない良い色合いだ。

 ポリマークレイの方も、かつて結珠が幼少期に夢中になったアニメの魔法少女が持っている杖によく似たパステルカラーの杖の完全ミニチュア版といった感じだ。こちらも混ぜた魔石粉のせいか、キラキラしている。


「こっちのポリマーのやつ、日本で売るにしてもラメパウダー混ぜると良いかも」


 このキラキラ具合がとても可愛い。こういったものを好きな大人女子にも受けそうだ。

 とりあえず新作が出来た記念にと、スマホで写真を撮ってみる。SNSにアップするかは、打ち合わせ次第。失敗したら次の新作として紹介しても良いだろう。

 魔石をはめ込んだ腕輪も出来ている。こちらはシルバークレイで作ったもののみだ。シルバーにもパステルカラーにも似合うようにデザインしたので、少し凝っている。

 自分の腕にもはめてみたが、さほど重くないので大丈夫だろう。


「あとは成功するか……だよねぇ。何か不安だなぁ……」


 ちゃんと大きくなるか、そして魔術が使えるか。少し不安になる。

 そもそも自分の杖として作っているが、周囲から魔女と言われる自分が果たしてどうやってこの杖を使うのか。

 試しにディーターかジュジュに杖を大きくしてもらう? それとも自分が呪文を唱えたら何か変化が起きるのだろうか。

 勢いでここまで来てしまったが、少し立ち止まって考えると不安だらけでしかない。


「は! おばあちゃんの日記! 何か書いてあるかも……」


 出来ることが増えてきたのだ。祖母の日記にも何か新しく読める項目が増えているかもしれない。

 結珠は日記を手に取って開いてみた。


「あ! 読めるところ、増えてる」


 今まで白紙だったページに文字が浮かび上がっている。と言うことは、何か新情報があるかもしれない。

 結珠は日記を読み始めた。




 結珠がこのページを読めるようになっているのは、恐らく結珠の中の魔力が高まっていることでしょう。

 正しいことはわかりませんが、店を始めた頃よりも結珠の魔力量は増えているはずです。出来ることも増えているかもしれません。

 もしも誰か協力者がいるのであれば、その方に助力を仰ぐのも良いかも。




「魔力量が増えている……?」


 祖母の日記にはそう指摘されているが、結珠はいまいちピンと来ない。

 正直に言ってしまえば、魔力を感じることが出来ないので、増えていると言われてもさっぱりだ。そもそも魔法道具に魔力を込める方法もいまだによくわかっていない。

 預かって店に置いておけば、二~三日で魔力が満たされている。そして何か体調不良になるということもない。

 そのため、結珠は自分自身のことを魔力版の充電装置のように思っている程度だ。

 電力のように魔力が常に用意されていて、自分が電力で店が充電器と思えば、電力も目に見えないものだしな……と自分を納得させている。

 でも魔力量が増えることによって日記に読める部分が増えているのあれば、認めざるを得ないだろう。


「魔力が増えたとして、何か新しく出来ることって何だろう?」


 魔女は魔法道具を作る存在だ。そんな魔女が出来る新しいこととは?

 まったく見当もつかないので、続きを読んでいく。




 おばあちゃんは、魔女としての自分が少し怖くもありました。それは祖父から直接魔女の在り方について聞いていたからかもしれません。

 あの人は、自分が魔法使いであることを誇りに思っていたようでした。けれど、自分のせいで様々な均衡が狂ってしまったことも後悔していました。

 そして私にそれを正してほしいと言い残して亡くなっていきました。

 そのときの私は、何故そんなことを押し付けるのだろうかと、反発したものです。

 だから、積極的にワーカード王国の方たちと関わることを心のどこかで拒んでいたのです。魔法道具を売って、恩恵に預かっていたにも関わらずにね。

 結珠はどうなりたいですか?

 おばあちゃんと同じように深く関わることを拒み、魔法道具を淡々と売ってお金を稼ぐことを望みますか?

 それとも、あなたらしく未知のことへも挑戦していきますか?

 どちらを選んだとしても、それはあなたの選択です。おばあちゃんが出来なかったことを、あなたに押し付けるつもりはありません。

 もしも信頼出来る仲間が出来たのならば、あなたが思うように進んでみてください。

 進むことを選んだのならば、ひとつ呪文を授けましょう。

 これは祖父から教えられた呪文です。きっと結珠の助けとなるでしょう。

 正しく使ってくれることを望みます。




「呪文……?」


 そこには、見慣れない文字で何かが書かれていた。


「あれ、この文字って……」


 どこかで見たことがある。少し考えこんで、これはワーカード王国で使用されている文字だと気付いた。

 店の値札などは、店の機能でワーカード王国の文字に翻訳されて置き換えられるのだが、この日記の文字は変換されない。

 ということは、意図的にこうなっていると考えるのが正しいだろう。


「何て書いてあるんだろう。英語とも違うから全然読めない……」


 英語ではなくとも地球上の文字であれば検索可能だが、異世界の文字だ。どちらかと言えば象形文字のように見えて、予測も出来ない。

 結珠は絵を描くような要領で、紙に呪文の文字を丁寧に書き写していった。

 次の打ち合わせで、ジュジュかディーターに読んでもらえばいい。そのためには間違えては正しく読んでもらえないはずだ。

 時間をかけて書き写す。恐らく間違いはないはずだ。二つを見比べて確認をする。


「よし、大丈夫そう」


 紙を折りたたんで、ミニチュア杖たちと一緒にしておく。

 打ち合わせは明日だ。

 今回も閉店時間頃に皆が来るらしい。夕飯を一緒にしようということになっているので、明日の料理の仕込みでもしようかと作業スペースからキッチンへと場所を移動した。



  ■□■



 貴族でもあるディーターは平民の料理など食えるか! みたいになるのかと思っていたが、案外そうでもないらしい。

 任務で遠征することもあるので、野営も日常茶飯事であるらしく、貴族だからこんなもの食えるか! とも言っていられないとのことだ。

 そのせいか、おいしいものを食べたいという気持ちは大きいらしく、ディーターは結珠の出す料理にも興味深々だ。


「これは何だ?」

「それは……ビールの煮込みですね」

「ビール?」

「あー、ええっと……エール? いや、麦芽酒? 麦で作った発泡酒が私の国にはあるんですけれど、それを使って煮込んだ料理です」

「へぇ、酒!」


 酒と聞いて反応を示したのはナールの方だった。ディーターは相変わらず、煮込み料理をじっと見ている。


「お酒の成分は煮込んでいる間に飛んでいると思います。このビールというお酒で煮込むとお肉を柔らかくする効果があるんです。それにコクも出ておいしいですよ」


 甘味を出すために、普通のビールではなく黒ビールで煮込んでいるので、いい感じに仕上がっているはずだ。

 ナールとジュジュはウキウキとした様子で他の料理が並ぶのを待っている。


「あ、冷めないうちにどうぞ。もう一品持ってきたら私も座るから」

「いや、その程度ならば待っていよう」

「すみません。すぐ持ってきます」


 結珠は慌ててキッチンの冷蔵庫からシャルキュトリーの盛り合わせを持ってくる。生ハムやサラミ、チーズとブドウ、ドライフルーツを色々乗せた大き目のボードだ。


「おまたせしました! まずは食事にしましょう!」


 こうしていつものように食事からスタートした。



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