第9話 新歓BIGパーティ
当日のクラブは、音と光と酒で満ちていた。
新入生は百人超。フロアの奥のVIP席で、幹部たちが「リスト」の女子たちに手際よくシャンパンを注いでいく。手際がいいのは、毎年やっているからだ。今年で最後にしてやる。
二十一時。京極がマイクを握り、「本日のスペシャルゲスト!」と俺をステージに呼び込んだ。予定通りだ。メインに呼ばれる件は、京極と羽田が殴り合いかけた末、京極が勝ち取ったらしい。ご苦労なことだ。
俺はマイクを受け取り、フロアを見渡して、営業スマイルで言った。
「どうも。──さて皆さん、パーティの前に、会計報告の時間です」
背後の大型スクリーンに、皆川が仕込んだスライドが映し出された。参加費の総額。幹部四人の「分配額」。強化合宿費の実態。そして過去の被害相談の件数。数字は嘘をつかない。フロアのざわめきが、音楽を飲み込んでいった。
「今日の参加費五千円、内訳はこうだ。酒代八百円、箱代千二百円、残り三千円は──そこのVIP席の時計になる。新入生諸君、帰りたくなったら出口はあっちだ。会費の返金は受付で。原資はあるんだよ、なにせ"年商"だからな」
京極がステージに駆け上がってきた。「てめえ、ゴウ、裏切りやがったな!」 「裏切る?」俺はマイクを切らずに言った。「お前らが毎年、酒で潰した子たちに言う台詞じゃねえだろ、それは」
フロアから、誰かの拍手が聞こえた。一つ、二つ、それから、雪崩になった。
新入生は流れるように帰り、返金の列ができ、動画は皆川の手で「然るべき窓口」──大学の学生課、消費者センター、そして酒類提供の管轄署──に送られた。レイヴは一週間で消滅した。幹部四人は就職の内定先に「ご報告」が行ったとか行かないとか。知らん。自業自得だ。
*
打ち上げと称して、皆川と二人、大学近くの古い喫茶店でクリームソーダを飲んだ。若い身体は、こういうものが素直にうまい。
「完勝でしたね、クラッシャーさん」 「もうその呼び名でいい気がしてきた」
笑っていた皆川が、ふとスマホを見て、顔色を変えた。
「熊沢さん。……株式会社アプロディーテの蝶野美沙、経歴が出ました。うちの大学のOGです。在学は──」
差し出された画面を見て、俺はクリームソーダのグラスを、静かに置いた。
卒業年度、俺の一つ上。所属、軽音サークル・ジャンクビート。
旧姓、綾瀬美沙。
──二十八年前、俺の青春を壊した女の名前が、そこにあった。
(第9話・了)
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