第8話 内部崩壊
崩壊は、内側から始まった。俺は指一本触れていない。触れたのは、四人のプライドだけだ。
まず京極と羽田が割れた。「ゴウちゃんを新歓パーティの"メイン"に呼ぶのはどっちか」で揉めたらしい。メイン、の意味は考えたくもない。次に九鬼が、俺への点数稼ぎのために「合宿の写真データ」の存在を他の幹部に無断で仄めかし、口封じを巡って沼田と掴み合いになった。
LINEグループは罵倒で埋まり、下級生は愛想を尽かして離脱し始めた。組織というのは、上が金と女で繋がっていると、驚くほど脆い。会社でいくつも見てきた光景だった。
「順調ですね」皆川あさひが、ミステリ研の部室で報告書のようにノートをめくった。「でも熊沢さん、内輪揉めだけじゃ潰れきらないですよ。連中、新歓パーティは強行します。今年の"獲物"のリストももう回ってる。──うちのクラスの子、三人載ってます」
「わかってる。だから本丸はパーティ当日だ」
俺はテーブルに、この二週間の成果を並べた。沼田の会計データを写した数字のメモ。九鬼が仄めかした写真データの在り処。「強化合宿費」の徴収記録。そして毎月の送金先、株式会社アプロディーテの登記情報──代表取締役、蝶野美沙。
「この会社が上流だ。レイヴの"稼ぎ"の四割がここに流れてる。イベサーの箱の手配、酒の卸、それと……"キャスト派遣"。要するに、レイヴは末端のフランチャイズだ」
「よく調べましたね、登記まで」 「法人調査は営業の基本だ。──で、だ。皆川。当日、一つ頼まれてくれ」
俺は計画を話した。聞き終えた皆川は、ノートを閉じて、初めてニヤリと笑った。
「いいですね。ミステリ研的に満点の筋書きです。──ところで熊沢さん、一個だけ聞いていいですか。あなた、この手の連中に、ずいぶん昔から恨みがあるでしょう」
二十八年前の部室の匂いが、鼻の奥に蘇った。
「……昔、な。大事なもんを、こういうやり口で壊されたことがある」
皆川は、それ以上聞かなかった。優秀な探偵は、解決のタイミングを知っているものだ。
(第8話・了)
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