第7話 レイヴ潜入
レイヴの新歓説明会は、駅前のダーツバーで開かれていた。
幹部は四人。代表の京極、副代表の羽田、会計の沼田、渉外の九鬼。全員四年で、就活も終わって暇を持て余した、日焼けと時計だけ立派な連中だった。奥のソファでシャンパンを開けている様子から、参加費の行き先はだいたい察しがついた。
俺と皆川は、新入生のふりをして受付に並んだ。俺を見た瞬間、受付の男の目の色が変わり、三十秒後には京極本人がソファから出てきた。
「君、名前は? ……ゴウちゃんね。ウチ、絶対楽しいから。ね、連絡先──」 「先に会費の説明しろよ。年会費、イベント費、それと"強化合宿費"? 内訳は」
京極は一瞬固まり、それから「細かいことはいいじゃん」と笑った。細かいことを聞かれて笑う奴は、百パーセント後ろ暗い。営業二十四年の統計である。
その日から、俺のレイヴ潜入が始まった。方針は単純だ。連中が女に使ってきた手口を、そっくりそのまま連中に返す。
誤読の法則、初の意図的運用である。
京極には「代表って大変だろ。お前だけ苦労してねえか」と労い、羽田には「お前が実質回してるよな、この組織」と持ち上げ、沼田には「金の管理してる奴が一番偉いんだよ、世の中は」と囁き、九鬼には「お前だけは他の三人と違うと思ってた」と言った。全部、営業の定型文だ。「あなただけは特別」──保険でも車でも、これで売れないものはない。
二週間で、幹部四人は全員、「ゴウちゃんの本命は俺」と確信した。
そして「あなただけは特別」と言われた男たちが次にすることは、決まっている。特別である証拠の、開示だ。京極は運営の内情を自慢し、羽田は京極への不満を漏らし、九鬼は「合宿の本当の中身」を匂わせ、そして会計の沼田は──酔った勢いで、スマホの会計データを見せびらかした。
「ゴウちゃんだから見せるけどさ、ウチの年商、ヤバいよ」
年商。サークルの会計を年商と呼ぶ時点で終わっている。俺は感心したふりで画面を覗き込み、記憶した。参加費の総額、幹部への「分配」、そして毎月、外部の同じ口座への送金。宛名は──株式会社アプロディーテ。
聞いたことのない会社だった。このときは、まだ。
(第7話・了)
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