第5話 親友決裂
学祭問題は、こじれにこじれた。
戸田派(大会推進)と巻島派(まったり死守)に部員が割れ、例会の卓は口実になり、盤上では駒より感情がぶつかり合った。原因の何割かが俺にあるらしいことは、もう認めざるを得なかった。二人とも、議論の途中で必ず俺を見るのだ。「熊沢さんは、どう思います?」と。俺の一言で戦況が動く。火薬庫の火とはこのことだった。
俺は決めた。今度は退部では逃げない。逃げたら軽音の二の舞だ。壊れる前に、直す。
だが俺が動くより先に、事態が動いた。
「巻島。お前がその路線を譲らないなら──決闘だ」
例会の夜、戸田が宣言した。ボドゲ研における決闘とは、部の創設時から伝わる紛争解決手段で、指定ゲームの三本勝負、敗者は全面的に従う、というものらしい。子供か。だが二人は本気だった。幼稚園からの親友が、盤を挟んで完全に敵になっていた。
「種目は交渉系。『ディプロマシー系変則三人戦』。三人目は──熊沢さん、あなたに入ってほしい」
は? と言う間もなく、巻島も頷いた。「それがフェアだ。熊沢さんなら、どちらの味方もしない」
どちらの味方もしない第三者。その認識だけは正しい。正しいが、お前らが決闘に至った理由の何割かは、俺がどちらの味方かわからないことだろうが。
決闘は三日後、学祭前最後の例会で行われることになった。部員全員が観戦を表明した。皆川あさひまで「面白そうなので」と観戦に来ることになった。
決闘前夜、俺は一人、アパートで缶ビールを開けた。若い身体はアルコールにめっぽう弱く、一缶で天井が回る。回る天井を見ながら、考えた。
交渉系ゲームの三人戦。二人は俺を取り合う。俺の同盟の申し出を、二人とも疑わずに受けるだろう。つまり、この盤面は俺が完全に支配できる。
──支配して、どうする?
どちらかを勝たせれば、部は勝者の色に染まり、敗者は去る。俺が勝てば? 部外者同然の新入りが親友二人を踏み台にしただけだ。どの結末も、ボドゲ研は壊れる。
缶を握り潰して、俺は答えを決めた。勝ち筋も負け筋もない。なら、盤の外で勝つ。営業二十四年、契約書の外で決まらなかった商談はない。
(第5話・了)
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