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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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Episode.8


アウグスタ子爵は五十を過ぎたばかりの初老の男だった。遅くに産まれた末子であるミネルバを溺愛している。ミネルバの才能にいち早く気付き、適切な教育を受けさせた。

その甲斐もあり、ミネルバは十歳になる頃には子爵と共に領地経営や事業に口を出していた。


子爵領の乾いた土地に強い薬草の開発。希少な香辛料を育て始めたのもミネルバの提案だ。さらに使いようのなかった土地で羊毛産業を始めた。羊毛からなるアウグスタの織物は、帝国の産業をも潤わせている。



そうなると他領でもミネルバの名は知れ渡る。アカデミーに首席で合格してからは、貴族家からの求婚が殺到した。

皇帝からも然り。アウグスタ子爵も、娘が可愛いとはいえ、子爵風情が皇命を無視できるはずがない。子爵はいずれ公爵夫人になり、ミネルバの才覚を発揮出来るなら‥‥と泣く泣く了承したのだ。


その結果が破棄(これ)である。



夜会の詳細は会場にいた知人に聞いた。


皇城で開かれる夜会。何故か婚約者であるアレックスがエスコート出来ないと言うものだから、子爵がエスコートをするつもりだったのだ。しかし急な商談がはいり、同行出来なかった。


(まさか夜会で婚約の破棄を申し出られるとはな)

思い出しても腹立たしい。顔には出さないが、ミネルバも相当辛かったに違いない。


その窮地を救ったのが、目の前に座るこの青年。アレックスの双子の弟、シリル・ラウザーだという。


(先触れもよこさず、いきなりの訪問とは‥‥随分と舐められているようだ)

帝国に二つしかない公爵家の令息だ。兄の元婚約者とはいえ、子爵家程度は礼を尽くすに値しないと言うことだろうか。


(何より、目の前に座るこの男‥‥本当に十六歳なのか?)

子爵はシリルを見据えた。シリルは子爵と目が合うと、横柄さもなく、子爵を見下した態度もなく、かといって狼狽える訳でもない。少し目を細め、優雅に微笑むだけだ。

後ろに立つメイド達の心から悲鳴が聞こえそうである。


(兄のアレックスは、みるからに横柄な態度だったがな)

子爵は視線を逸らし、カップに手をかけた。


横柄さも、傲慢さも感じられないが、不思議と重厚な雰囲気がある。

(十六歳の青年に、貫禄を感じるとは‥‥)



「アウグスタ子爵」

名を呼ばれ、子爵は顔を上げた。


「どうしましたか?お茶がお口に合いませんか」

「いえ、その‥‥」

急に言葉に詰まる様は、少しだけ幼く見えた。


「ご令嬢は、まだいらっしゃらないのですか?」

少し頬を染めたその表情で、初めて年相応に見えた。


(なんだ?その表情(かお)は‥‥まさか、本当に?)


どう見ても娘に好意のある態度だ。子爵は少し動揺した。夜会の騒動中に、シリルがミネルバに婚約の申し込みをしたと聞いたが、何かの間違いだろうと思っていた。

(なんとも、厄介な事だ)

婚約者であったアレックスの方は、ミネルバに何の興味もなさそうだったと言うのに。


(次男に継承権が移るかもしれないというのも、本当なのか‥‥?)


ラウザー公爵家はしばらく荒れそうだ。そんな家にミネルバを送る事はしたくない。



「ラウザー令息、娘はもう少し支度に時間がかかります」

子爵が言うと、シリルは肩を落とした。

「そうですか‥‥」


「それで、ラウザー令息。どのようなご用件で我が家へ?」


アウグスタ子爵はシリルへの対応を変えた。このまま待たせてみても一興だと思っていたのだが、これは早々と本題に入り、帰ってもらった方がいい。




「‥‥‥‥‥」


子爵の問いに、シリルは少し思案した。

『改めて、兄の愚行の謝罪に来た』と言うつもりだったのだが、それでは子爵が納得しそうにないからだ。


シリルは内心舌打ちをした。他の意見をちゃんと聞くべきだった。


貴族社会での先触れなしの訪問が、これほどタブーに近いものだったとは。

アウグスタ子爵邸に着いてすぐに後悔した。使用人達は慌てふためき、とりあえず応接室に通されたものの、小一時間待たされた。

待ち時間は苦ではなかった。むしろミネルバを待つ時間と考えれば幸せを感じたくらいだ。そうして、小一時間待たされ、部屋に入って来たのはミネルバではなく、苦い顔をしたアウグスタ子爵だったのだ。


(俺は今日、ミネルバに会う事が出来るのか‥‥?)


子爵の、シリルを見定めようとする視線に気後れしてしまう。無理に笑顔を作ってはいるが、それもそろそろ辛くなってきた。


「従者の方には、謝罪の為とお聞きしましたが」

「ええ。そのつもりです」

ぐだぐだと考えていると、子爵が問い詰めるように言った。仕方なくシリルも口を割る。


「ですが謝罪はミネルバ嬢に直接したいのです。子爵家に対しての不義理については、兄に直接させようと思います。私は私の罪‥‥‥弟として何か出来る事があったはずなのに、それが出来なかった事を謝りたいのです」


ミネルバ嬢の前に、子爵にシリルの誠意が伝わらなければミネルバに会わせてもらえそうにない。シリルは一言一言、考えながら口を開いた。





読んでいただき、ありがとうございます。


最初は子爵視点、途中からシリル視点になっているのですが、分かりにくかったら申し訳ありません。いつも視点の変え方に悩みます。



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― 新着の感想 ―
なんか、主人公が急に馬鹿になった感じが凄く興醒め。
気に入った物語ゎ(๑╹ω╹๑)反復拝読♡ >『アウグスタ子爵は五十を過ぎたばかりの初老の男だった。』 現在16歳↑↑↑享年35歳?…精神年齢的にゎヒロインのパッパと同年代w? 意外に(*`艸´)《…
あらら(o゜Д゜ノ)ノ子爵家ゎ運営も上手くいっていて!ミネルバちゃんの評判も勿論良い! ー なのに!娘の不当な扱われ方に!お義父さんゎ公爵家に激オコだ! ー 頑張れ(*´∀`*)尸"シリル君!
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