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【コミカライズ進行中】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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Episode.71


『自分を選ばなくても、彼女の想う人と結ばれてほしい』


皇帝に言った言葉は本心だ。あの夜会のように、ミネルバを大切にせず、互いに想いもないような相手と婚姻を結ぶことはあってはならない。


(でも、願わくば、……俺を選んで欲しい)


バルコニーの扉を開くと、先ほどまで結い上げてあった蜂蜜色の髪が解かれており、風にふわりと舞っている。空色の瞳はシリルを見つけると細く柔らかく微笑んだ。


(良かった。彼女を望まない相手の元へ行かせずに済んで)


一歩近づくたび、ミネルバの表情が戸惑うように曇った。緊張と焦燥感で自分がどんな表情をしているか分からないが、あとずさるミネルバを見る限り、人相が悪くなっているのは間違いない。


恐がらせたくないが、引くわけにも行かない。シリルは大股でミネルバに近づいた。ミネルバの髪が風に揺れる。(いざな)われているようだ。


流れる髪を手で掬い、そのまま抱きしめたい衝動を抑えてシリルは立ち止まった。ポケットから小箱を取り出す。


(前世を思い出す前の俺も、きっとミネルバに好意があった)


だからこそ、アレックスの振る舞いが気に食わず、めったに出ない夜会に顔を出したのだろう。


貴族社会での好意の告げ方は性に合わない。この世界での求婚の仕方にも詳しくない。

シリルは小箱を開き、ミネルバの前で片膝を付いた。


「ミネルバ・アウグスタ嬢。俺と婚約してください」


ミネルバの蒼い瞳が困惑で揺れている。あの夜会の日、シリルが魅入った強い意志は今は写っておらず、迷子の子供のように揺れていた。何がこんなに彼女を不安にさせるのかと思わず憤りそうになり、はたと思いついた。


(俺か……)


シリルはゆっくりと言った。

「ミネルバ、貴方が好きです。出来るなら、貴方の相手に俺を選んで欲しい」


途端にミネルバの瞳が見開き、揺れた。涙を滲ませているが、先ほどまでの弱々しさはない。


「わ、私も……シリル様が好きです。婚約、承ります」


ミネルバらしい、業務連絡のような返事だった。しかし蕩けそうな目で微笑んでいるし、頬も紅く染まっている。シリルの心は一瞬で満たされた。

零れる涙を早く拭いたくて、ミネルバの頬を片手で包む。ミネルバがシリルの手に自分の手を添えて微笑んだ。シリルは胸中で悪態をつく。


(くっ……!子爵の許可を得るまで何もするまいと思っていたのに)


無邪気な誘惑にあらがえるはずもなく、ふっくらとした唇に自分の唇を重ねた。


(一度だけ)


初めての口づけは短く、一度で終わるなんてとても無理な事だった。シリルは自分の意志の弱さを胸中で叱咤しながら、二度、三度とミネルバの唇を塞いだ。









――四度目のキスでミネルバは音を上げた。懇願するように声を出し、手をつき出してシリルと自分の間に空間を作る。


「シ、シリル様……もう息が」


初めてのことなので、どうやって息をすれば良いのかも分からない。ミネルバが息を整えていると、頭上からため息が聞こえた。


(呆れられたのかしら?)


舞い上がっていた気持ちが急降下していく。すると、頭上から絞り出すような声が聞こえた。


「すみません‥‥!手を出さないようにと思っていたのに、我慢出来ませんでした」

シリルが申し訳なさそうに呟く。


キスの事なら、我慢などする必要はない。ミネルバは慌てて言った。


「そんな。私も嬉しかった‥‥ですし」

言ってみて、キスが嬉しかったと伝えることがこんなに恥ずかしい事とは思わなかった。


ちらりとシリルを見ると、紫暗の瞳が蕩けそうに細くなり、嬉しそうに微笑んでいる。


(あ……伝わったみたいね)


シリルが思い違いをするより、自分が恥ずかしい思いをするほうが何倍も良い事にも改めて気づく。


シリルの腕が伸び、ミネルバを抱きしめた。女性にしては背が高いミネルバだが、シリルが前に立つと完全に隠れてしまう。ミネルバはシリルの腕にすっぽりと包み込まれた。

シリルは腕を解こうとはせず、ミネルバの髪を掬いながら言った。


「髪はどうしました?なぜ解いたのですか?」

「あ、今日はもう邸宅に戻るだけでしたし……」


そこまで言い、少し思案してミネルバは言い直した。


「本当は、以前シリル様に髪色を褒められたので、降ろした方がたくさん見てもらえるかなと……」


先ほどの気付きから、正直に言ってみた。すると今度は長いため息が頭上から聞こえた。


「――はぁ……」


今度は気持ちは急降下しなかった。シリルの頭が項垂れるようにミネルバの肩に置かれると、腕の力が少しだけ強くなった。


「何だそれは、可愛すぎる……!」


シリルが呻くように呟いた。  







ここまで二人のじれじれを見守っていただけて感謝しております。


ついに二人が……くっつくまでに70話を費やしました。


次回のepisode72.で本編をとりあえずお終いとさせていただきます。また二人のその後など、また投稿するかもしれません。その際には、活動報告でご連絡いたします。


そしてなんと、なんと、コミカライズが決まりました。

応援してくださった読者さまのおかげです。本当にありがとうございます。動くシリルやミネルバに会えます。また詳細は決まり次第ご連絡します。


とにかく嬉しい。感無量です。

コミカライズも嬉しいし、皆様にご報告が出来ることも嬉しい。


また明日、同じ時間に投稿します。



短編を新しく投稿しました。↓

こちらも見ていただけると嬉しいです。


【友人の婚約者で私の幼馴染は言う。「病弱な幼馴染がいるから」え?私の事じゃありませんよね?私は貴方を殴り飛ばせるくらい元気ですけど。】

https://ncode.syosetu.com/n3163mq/



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― 新着の感想 ―
やっとですね〜!ここまで楽しく読ませて頂きました。明日も楽しみです。そしてコミカライズ、おめでとうございます!!詳細のご報告、楽しみにしています!
あれ?子爵がいない? つまり、ミネルヴァに任せる、許すよってことでいいのかな。 おめでとうございます。 ライナスの邪魔も入らなかったことだし。 記憶が戻る前から好きだったっていうところになんだか感動…
はぁ…♡ とうとう…♡♡ シリちゃん♡ミネちゃん♡ おめでとう☆☆
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