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【コミカライズ進行中】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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Episode.70


青ざめた顔で皇妃が口を開く。

「陛下に進言するつもりかしら?」


「迷っています」

シリルがきっぱり言うと、皇妃はシリルを見据えた。


「アウグスタ嬢に懸想しているのだったわね。あの娘との結婚では、公子にとってなんの得にもならないでしょう」

「俺はそうは思いません」


「……」


皇妃は眉間に皺をよせ、しばし目を閉じた。そして諦めたように短く息を吐いた。


「……わかったわ。アウグスタ嬢からは手を引きます」


シリルは表情に出さぬまま、胸の内で安堵した。


「そうしていただけると助かります」



皇妃はもう一度書類に目を落として言った。


「この封書を破いても意味がなさそうね?」

「ええ。それは写しですから。原本はアレックスを暴くためにラウザー公爵へ渡してあります。……皇妃様の名を抜いて」


フンと皇妃は憎々しげに言った。

「抜かりのないこと」



「――だが、お咎めなしとはいかないな」

すぐ近くで声がして、皇妃はもちろんシリルも驚いて振り返った。


気配を感じなかった。皇帝がすぐ後ろに立っていた。


シリルと皇妃はすぐに頭を下げた。



「シリル。その封書、後で見せてもらおう。皇妃と取引をしてしまったのなら仕方がない。公爵に渡すつもりの、皇妃の名が抜かれたもので構わない」


「わかりました」

シリルは了承した。了承するしかない。


皇帝は皇妃を見下ろした。

皇妃は頭を下げている。よくよく見れば銀の睫毛が微かに震えている。だがその程度だ。皇帝の圧に、皇妃はただ耐えている。


「皇妃には当面の間、公務は控え、白銀宮での謹慎を命じる」


「はい」

皇妃は短く返事をして、カーテシーではなく深くお辞儀をした。そして踵を返し、回廊の奥へ歩いて行った。



その姿を見送り、シリルが頭を上げる。皇帝がシリルの隣へ立ち、腕を組みシリルを凝視していた。


シリルは一応念を押した。

「約束を反故にされては困りますので、原本のままお渡しすることは出来ません」


皇帝は頷く。

「それは分かっている。いや、何故この程度で留めたのか不思議に思ってな」


(なんだそんなことか)


「あまりやり過ぎると、仕返しを警戒せねばなりませんから」


皇妃の権力を完全にそぐことは不可能だ。クロイツ公爵家も侮っていい家門ではない。

『ミネルバから手を引く』その言質だけで今は充分だ。


「して、お前はまだアウグスタ嬢をあきらめていないのか?」

「もちろんです」

皇帝の問いに、シリルはいらいらと答えた。皇帝は頭を傾け、残念そうに言う。


「ふむ。考え直してはどうか?お前は一人でも公爵領を発展させれるだろう?アウグスタ嬢を必要としている令息はたくさんいると言うのに」


皇帝の口調がだんだんと揶揄うように変わる。


「陛下……それ以上、往生際の悪いことをおっしゃるならアウグスタ嬢を連れて国を出ますよ」


シリルが冷ややかに言うと、皇帝は笑った。


「はははは!この私を脅すとは。是非止めてくれ。優秀な人材を二人も失うのは辛い」


(たぬき親父め)

つかみどころのない叔父を、甥の目線で睨む。


ひとしきり肩を震わせて笑った皇帝はシリルの肩をたたいて行った。

「まあ今の会話はすべてアウグスタ嬢がお前を選べばの話だがな」


「いいえ。アウグスタ嬢が俺を選ばなくとも、彼女の想う人と婚姻が結べるよう計らってください」


シリルはそう言うと、皇帝の返事を待たず一礼した。

「では」


皇帝の前から去るには、あまりにも短い挨拶だが、先ほどの会話は甥と叔父の会話だった。多少の無礼は許されるだろう。



「ふむ。弟の方はマシに育ったようだな。クラベル」


去っていくシリルの姿を見ながら、皇帝は小さな声で、公爵家に嫁いだ亡き妹の名を口にした。







大ホールに戻り、シリルは会場を見渡した。柔らかに輝く金色が見つけられない。



「主」


ライナスの声に振り向く。――が、傍にミネルバの姿はなかった。


「ミネルバはどうした?何故近くにいない」

詰め寄るシリルに、ライナスが言いにくそうに口を開く。


「ミネルバ嬢ですが、先ほど遅れてアウグスタ子爵が到着されました。子爵はミネルバ嬢と早めに邸宅へ……」

「帰ったのか?」

シリルは落胆して肩を落とした。すかさずライナスが言う。

「いえ。帰ろうと子爵は提案したのですが、ミネルバ嬢は主を待ちたいと、そこのバルコニーにいらっしゃいます」


膝から崩れそうになるのをこらえ、ライナスを睨む。ライナスの言い方には明らかな誘導があった。

「そうならそうと言え。こんな時にからかうな」

相変わらずライナスにシリルの睨みは効かず、淡々と言葉を返される。

「こんな時だからこそです。落ち着いてください主。顔が引きつっていましたよ」


ライナスの言葉に、シリルは目を見開いた。


「自分より歳が上の男は、余裕がなくては。慌てている姿は幻滅するとヴェラが言っておりました」


ライナスなりに緊張を解そうとしたのだろうか。


「俺とミネルバの歳は同じなんだが」


いつものようにライナスに小言を返し、シリルはバルコニーへ向かった。







読んでいただき、ありがとうございます!


いいね、ブクマ、コメント等、いつもありがたく拝見しております。




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【幸せな10年でしたが、なかったことに致します。〜だから私に関わらないでください〜】


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こちらのお話も見て頂けると嬉しいです。


下の方のリンクからも見れるようになっています。

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― 新着の感想 ―
皇妃よりも皇帝のほうが・・・ 見極めて確認しているだけなんでしょうけど、からかいが過ぎるような。 さて、皇帝よりも大きな壁、子爵が待ってますね。
 やっと諦めた? 諦めた、よな?
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