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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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Episode.57


二日間の休日が明けて、ミネルバはいつもより早い時間に邸宅を出た。


刺繍を施したハンカチーフをジェシーに見てもらい、渡しても問題ないとのお墨付きを貰った。『大事なのは気持ちです!』と言っていたのは気になるが。更に街でシリルに似合いそうなカフスボタンも購入した。


(やっぱり高価なドレスのお礼に謎の花のハンカチーフだけというのもね……)


ぬかりはない。

気に病んでしまうから、早くに済ませてしまいたい。ミネルバは朝一で渡してしまおうと騎士科の教室へ向かった。




騎士科の教室を覗くと、奇妙な光景が広がっている。いや、奇妙と言うのは語弊がある。いつもと違う光景だ。シリルが生徒達に囲まれている。

シリルの机に集まる生徒は、シリルに熱心に話しかけ、シリルは困ったような、はにかんだような表情で答えていた。ときおり笑い合っている。


(シリル様、いつのまにあんな人気者に?)

女生徒が集まるのは何度か見てきたが、男子生徒に囲まれている姿は初めて見る。シリルの時折見せる面倒見のよさそうな微笑に、ミネルバはしばらく魅入っていた。



「あちゃ。朝から囲まれてるなあ」


ふいに背後から声がして、ミネルバはびくりと身体を揺らせた。ミネルバの背後に立った人物はシリルより大きく、壁のように感じる。背が高すぎて思い切り見上げないと顔が確認できない。不躾だろうか?と思案していると、頭上から声をかけられた。


「あれ?アウグスタ嬢?」

覗き込むように顔を近づけられ、ミネルバは思わず一歩下がる。見たことのある顔だ。

「ヴァルクス令息」

ミネルバが名前を呼ぶと、ケイルアンはにこっと人懐こい笑顔で微笑んだ。


「シリルに用ですか?」

「えっ」


アレックス以外でシリルを呼び捨てにする人物を初めて見て、ミネルバは動揺した。その隙にケイルアンが大きな声でシリルを呼んでいる。呼ばれたシリルは怪訝な顔をして、ケイルアンを見ると席を立った。


「大人気じゃないか」

こちらに向かってくるシリルに、ケイルアンは親しげに声をかける。

「体術訓練からずっと聞かれる。師範は誰かと」

シリルもそれを受け入れ、飾らずに答えていた。


近くまで来て、シリルはミネルバに気付いたようで目を丸くした。

「ミネルバ?どうして一緒に…」


どうやらケイルアンの巨体でミネルバが見えなかったようだ。一緒に来た訳ではないのだが、シリルの表情が不快そうに歪む。シリルのその表情に、ミネルバは心臓がひゅっと縮まったように感じた。


「いや、待て待て。一緒に来てない。ここでアウグスタ嬢がシリルを待ってたから呼んであげたんだろ」

「なに?」

シリルの表情が緩んだ。ミネルバはほっとして言った。

「突然すみません。お渡ししたいものがありまして」


「男の嫉妬は見苦しいなあ」

「お前の図体がミネルバを隠してたからだろう」

ケイルアンの軽口にシリルが睨みを利かせて返す。そしてミネルバに向き直り、気まずそうに口を開く。


「ちょうど俺もミネルバに聞きたいことがあって…場所を変えましょう」





ミネルバはシリルの斜め後ろを歩いた。隣に並ぶのはなんとなく憚られる。こうして廊下を歩くだけでも、シリルに向けられたたくさんの視線を感じる。


シリルがアカデミーに復帰して、まだ半年も経っていない。しかしアカデミーの生徒にはシリルに一目置くような、畏敬の眼差しを向ける生徒もいる。


(やっぱりアレックス様とは違う。シリル様は次期公爵として国を担って行くんだろうな)


ふとシリルが足を止めて顔だけこちらへ向けた。


「どうしました?」

ミネルバが首を傾げると、少し気恥ずかしそうな顔をしてシリルが言った。


「あ、いや。ちゃんと付いてきているか気になって。歩くのが早かったですか?」


気遣ってくれるシリルを見て、じんわりと嬉しさが込み上げてきた。少し歩を進めて隣に並ぶ。隣から視線を感じたので、見上げてにっこりと微笑った。シリルがまた目を丸くする。


「シリル様?」

「あ、ああ。えっと」

シリルが辺りを見渡す。すぐ近くにベンチがあったので二人はそこに座った。



「アウグスタ邸に皇室から招待状が届いてませんか?第二皇子の誕生パーティーの招待状です」


第二皇子の名に思わず身構える。そういえばドレスショップユズリエでシリルに第二皇子が言っていた。


「いいえ。来ておりません。アレックス様との婚約も白紙になりましたし、うちはそもそも子爵家です。皇室主催のパーティーに今後呼ばれることはないかと……」


第二皇子との婚約も保留にしてもらっているし、個人的には断る心づもりでいる。アウグスタ邸に招待状が届くことはないだろう。


ミネルバがそう答えてもシリルは尚も思案している。しばらくして唸るように言った。


「うーん……皇妃がこれで引き下がるとは思えなくて……何かあればすぐに言ってください」


シリルの真摯な紫の瞳に(綺麗だな…)と見惚れつつミネルバは無言で頷いた。










読んでいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
あー(・o・)…シリル君…ちゃんと本人に告ってないのに…呼び捨てちゃうんだ…… (わかる?けど…可愛ぃもヘタレも飛び越してwちょっと狡いと言うか…卑怯だょ~♪本人に内緒で外堀埋めまくって…ソコちゃんと…
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