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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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Episode.56


――休日の昼下がり。ミネルバは真っ白なハンカチーフと刺繍糸の束を見つめながら、頭を抱えていた。




事の起こりは四時間前。

ミネルバは机の引き出しを開き、紫色の羽の付いた万年筆を取り出した。ゆらゆらと揺れるチャームを眺める。


「……」


贈り物をいただくと、お返しをしなければならないのが、貴族の性である。


街へ行った際に貰ったこの万年筆のお礼も迷って渡せていないというのに、高価なドレスのお返しなど見当もつかない。


ミネルバは衣装掛けに掛けられたドレスを眺めてため息をついた。何度見ても惚れ惚れする。細部までこだわったデザインで、胸元のレースには小さな水晶が施されている、華やかなドレスだ。下級貴族であるミネルバに着ていく場所はほとんどなく、大切に衣装掛けへしまってある。


(アレックス様の婚約者でもなくなったし、城で行われるパーティーにももう呼ばれる事はないでしょうね)


汚すことなく綺麗なままで残せることに、ミネルバはどこかほっとしている。


(問題はお返しよ。何がいいかしら。公爵家にないものなんてないだろうし)


アレックスから贈り物など貰った事もなかったので、お返しを贈る事もなかった。男の人に贈りものをするのも初めてのことだ。



「お嬢様、いらっしゃいますか?」

扉の外側からメイドの声がする。


「ジェシー。いるわよ入ってちょうだい」


メイドのジェシーはミネルバと歳が近く、アリアと同じくミネルバの良い相談相手だ。


「あら、お嬢様。またドレスを眺めてらしたのですか」

「ジェシー。良いところに来てくれたわ」



ミネルバがジェシーに助言を求めると、ジェシーは神妙な顔で頷いた。

「……なるほど。確かに今までアレックス様のせいでお返しなんてした事なかったですもんね…」


失礼な物言いはアレックスに対する不信感の表れだ。ジェシーはミネルバへの元婚約者の態度には常々不服に思っていた。


「おまかせください!妹が仕えているお屋敷に、同じ年頃のお嬢様がいるのです。殿方への贈り物で流行っているものは存じております」


「まあ。そうなの?」

良かった。頼もしいジェシーの言葉に安堵する。


「あ、ジェシーは何か用があったのかしら?」

「そうでした!旦那様がお呼びです。鉱山の件で少し確認したいことがあると」

「すぐ行くわ。執務室かしら?」

「はい。私はお嬢様が戻られるまでに準備しておきますね」


何を?と聞く前にジェシーは廊下を戻ってしまった。ミネルバはとりあえず父の執務室へ向かった。





父の用事が思ったより長引いてしまった。鉱山の採掘員の数人と話を詰めていると昼になり、ついでに昼食も摂り自室に戻ったのが昼過ぎだ。すると、机にメモと白い上質のハンカチーフ。刺繍糸の束と、植物図鑑が置いてあった。


メモには『令嬢たちで人気の贈り物は、伝えたい花言葉の花を刺繍したハンカチーフです』と書いてある。


「あ……」

ミネルバは真っ白なハンカチーフを見て怖気づいた。

実は刺繍は好きなのだ。無心になれるので使用人たちにイニシャルを刺繍したハンカチをプレゼントしたこともある。ピンと張った布に針が通る音も心地よくて好きだった。しかしいかんせんミネルバは絵が壊滅的だ。自分で絵を描いて刺繍することは出来ない。さらに花にも詳しくなく、花言葉など一つも分からない。

試しに植物図鑑を開いてみたが、花の絵は載っているものの、花言葉までは書いていない。


「困ったわ……」

しかし上質な白いハンカチーフを見て思案する。邸宅にこのようにいかにも刺繍して贈る用の物はなかったはずだ。ということは、ジェシーがわざわざ午前中に街へ買いに行ってくれたのだ。よく見ると刺繍糸もきれいな艶のあるものが揃えられている。


(この短時間で揃えてくれたのね)


ミネルバはとりあえず紙とペンを用意して植物図鑑を開いた。










「――で、出来たわ」


外は真っ暗で邸宅の人々も寝静まった頃、ミネルバのハンカチーフは出来上がった。

途中で気付いたのが、『伝えたい花言葉の花』を刺繍すると言うことは、やはり恋人か意中の相手に贈るときに使うものではないのか?と言うことだ。ミネルバにとってシリルは意中の相手ではあるが、それを悟られたくはない。

花言葉もやはり分からなかったので、一番見慣れている薔薇にした。



(何だったかしら。薔薇の花言葉。誠実?とかそんな感じだったと思うのだけど……求愛的な意味があったらどうしよう)


しかし出来上がった刺繍を見ると、ミネルバの心配は杞憂だった。緑の葉も刺繍したので、かろうじて花だと分かるが、何の花かまでは分からないだろう。なまじ刺繍の腕があるので絵のひどさが際立っている。


(これは贈ってもいい出来なのかしら?)


とりあえず瞼が重い。完成品を明日ジェシーに見てもらって、大丈夫そうなら渡すことにしよう。ミネルバはそう決めて布団に倒れ込んだ。









読んでいただきありがとうございます。


見てみたい。ミネルバの薔薇・・・。



いいね、コメント、誤字脱字 いつもありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
いや、ミネルバさん…。薔薇なんて求愛ど真ん中なやつー(笑) まあ色や本数で全然意味が変わるけど、プロポーズならコレ!的なのをわざわざチョイスするとか、さては狙ってんな?(笑) いいぞ、もっとやれwww
更新お疲れ様です。 白い薔薇なら「あなたをを尊敬しています」「プラトニック」 紅い薔薇なら「情熱」「愛情」 ピンクの薔薇なら「貴方に感銘を受けました」「想いの芽生え」 黄色の薔薇なら「嫉妬」「疑い」…
薔薇(.❛ᴗ❛.)何色?
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