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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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53/59

Episode.53 

レオンハルトはシリルから受け取った封書を開いた。素早く読み、視線だけシリルに向けて聞いた。


「期日は?」

「出来るだけ早く」


シリルの返答に、レオンハルトは眉を顰める。


「そうだな…。移動だけで時間がかかるからな。移動ポータルは足が付くから使えないし……。どんなに急いでも一月はかかる」


「これを使ってくれ」

シリルはびっしりと文字が刻まれた羊皮紙をレオンハルトに渡した。

「これは?」


「移動スクロール」

「……は?」

シリルが言うと、レオンハルトはぽかんと口を開けて固まった。


「この羊皮紙は魔道具だ。書いてあるのは、移動先の座標と魔術式。破って使う」

「いや……」

「もう移動先の座標は書いてある」

「待て待て。移動スクロール?!そんな貴重なもの、まさか開発したのか?」

「ああ。移動ポータルの要素を魔術式に変換して書きこんだものだ。まだ試作だが、三百回程試して失敗はない」


「旦那は恐ろしい人だな……」

レオンハルトが感嘆の声を漏らす。


「とてつもなく高価な品になりそうだが、貰っていいのか」

「ああ。その方を説得するのにも時間がいるだろう?」



レオンハルトは移動スクロールを嬉々とした目で見ながら言った。


「いや、これを見せれば、あの方の方から旦那に会わせてくれと懇願してくるだろう。あの方の趣味は魔道具収集だからな」


「えっ、知り合い……なのか?」

「まあ」

ニヤリと口角を上げるレオンハルトを、シリルはぽかんと顔を上げた。



「移動スクロール……世に出回れば世界が変わるぞ?商用として売り出すのか?」


レオンハルトの問いにシリルは少し思案した。

確かに、移動スクロールは使いようによっては戦の勝敗すら左右しかねない。その為に使用人数や移動距離など、様々な制限を設けている。商用として販売するつもりはない。今のところ必要な魔術式を知っているのは自分だけなので、人を選んで必要なものだけ製作しようと考えている。


「考え中だ」

シリルが答えると、レオンハルトは肩をすくめた。

「危険なものだが、旦那なら悪いようにはしないだろう」


「報酬はどうしたらいい?」

「そうだな……旦那の開発した魔道具の報告をすることを許可してくれ」

レオンハルトが難しい表情で言うものだから、シリルは一瞬身構えた。しかし今回の報酬もあってないようなものだ。


「おい。それじゃあ割に合わないんじゃないか?」 

「割に合うさ。大陸一の魔道具開発者の新作を、いち早く知ることが出来るんだからな」 


(大陸一は言い過ぎじゃないか?いや、言い過ぎじゃないのか?)

自分は思っていたより大物なのかもしれない。と、他人事のように考える。


とはいえ、依頼内容と報酬が釣り合っていない気がして落ち着かない。シリルは短く息を吐いた。

(報酬については今、時間を割くことじゃない。これから長い付き合いになるギルドだ。次にまた正当な報酬を払えばいい)


「分かった。新しい物を開発したらヴェラに報告させる。物によっては出来ないが、試作品も持たせよう」


「いいのか……!恩に着る」

「きなくていい」


魔道具収集は、もしかしたらレオンハルトも趣味なのかもしれない。レオンハルトの輝く眼差しを見てシリルは思った。











「公子、ご一緒してよろしいでしょうか」


アカデミーにて、実技訓練の開始前。

素振りをしていると、シリルより体格のいい騎士科の学生に声をかけられた。

振り返り、顔を確認して、シリルは露骨に嫌な顔をした。デイビット・ハンス伯爵令息、ジーニアス・レッグ伯爵令息。共に顔見知りだ。


(よく俺に話しかけられたものだな)


シリルはすぐに正面を向きなおし素振りを再開した。


二人の令息はシリルに無視されたにも関わらず、果敢に近づこうとして来る。


「公子、次の実技は学年合同訓練でしょう?」 

「昔馴染のよしみで一緒に組みましょう」


ごまでも擦り出しそうな声だ。シリルはため息を吐いて素振りを止めた。


「昔馴染?よく言うな。君たちには鞘で殴られた覚えしかないんだが?」


冷ややかに言うと、二人の令息は固まった。ハンス伯爵家とレッグ伯爵家は、共にラウザー公爵家の傘下の家門だ。その為、昔からの顔見知りであり、昔馴染なのは間違いではない。だが彼らはアレックスの取り巻きであり、事あるごとにシリルは痛めつけられた覚えしかない。


(最後に殴られてから三年ほどは顔を合わせていないが、俺が忘れたとでも思っているのか?)


だとすれば相当に舐められていることになる。シリルは怒気を孕んで声を出した。

「厚顔無恥なのはアレックスと同じだな。だが俺はあいつと違って君たちを侍らせて威張りたいとは思わない。組むどころか、顔も見たくないんだが……俺の視界に映らないでくれないか?」


二人の令息は顔をみるみる赤くした。それはそうだ。つい最近まで見下していた相手に、これほど悪態をつかれては。


(殴りかかって来るか?)

と思ったが、そこまで莫迦ではないようだ。震えるほど怒りながらも、二人は離れて行った。






読んでいただき、ありがとうございます!

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恩に「着る」、逆だと「着ない」なので「きなくていい」かと。(わざとだったらすみません)
 わからせてやればいいのに。
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