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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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50/58

Episode.50


そうして急停車して降りたのが、ドレスショップ「ユズリエ」だ。どうやらシリルが馬車で言っていたのは、『台無しにしたドレスを弁償してもいいですか?』ということだった。


(台無しにしたと言っても、助けてもらったことなのに)


とはいえ、ここまで来て断る訳にも行かず、ミネルバはシリルのエスコートで店内に入った。


店内は白を基調とした家具で統一され、高級感が漂っていた。天井にはシャンデリアが煌めき、ショーケースに展示されたドレスも、生地からして良いものだと分かる。


「きれい……ここがドレスショップユズリエ…」

「この店を知ってるのですか?」


シリルの問いにミネルバは頷いた。


現在皇都でユズリエを知らない令嬢はいないだろう。元々、高位貴族しか訪れない高級ドレスショップだったが、数ヶ月前に経営者が変わってから店内が一新した。高級なドレスを二階のVIPルームで販売し、一階では購入しやすいドレスも置くようになった。デザイナーは変えず、生地や装飾の単価を下げて価格を抑えているので、若い令嬢たちはこぞってユズリエを訪れた。


魔石をアクセサリーに加工して販売しようと思いついてからは、積極的に皇都の流行やファッションの情報を集めるようにしている。


連日のファッション情報誌を見ても、ユズリエが話題に上がらない日はない。


それほど人気店なので、二階は元々予約制だが、今は一階も予約制になっていたはずだ。


「シリル様、ここは予約制だったはずですが……」


ミネルバがシリルに確認しようとした時、ヒールの音を響かせ奥から店員がまっすぐこちらへ向かって来た。

(やはり急に来てはいけなかったのでは…)


「オーナー!早いですね。夕方くらいに来られると思ってました」


ミネルバは目を見開き、店員の言葉を反芻した。

「……オーナー?」


ミネルバの視線に戸惑うようにシリルは手を振り否定する。

「あ、いや。オーナーと言うより共同経営者です。うちは出資をしてるだけ」


シリルの言葉を、ハツラツと否定したのは店員だった。

「そんな!シリル様、ご謙遜を。画期的な販売方法と接客の仕方を提案したのはシリル様ではありませんか……おや?」


快活に話す店員は女性だった。赤茶色の髪をぴしりと結い上げ、ベージュのパンツスーツを着用している。乗馬服でも、騎士服でもない女性のパンツスタイルをミネルバは初めて見た。

女性店員はミネルバに丁寧に頭をさげ、自己紹介をした。


「オーナーの可愛らしいお連れ様。私はユズリエの店長アガサ・コーディと申します」


カーテシーではないが女性らしい優雅なお辞儀だ。ミネルバも慌てて挨拶を返す。

「ミネルバ・アウグスタです。お会いできて光栄です」


アガサは手を合わせてにこにことミネルバを見た。

「まあ。なんて可愛らしいお連れ様でしょう」

「そうだな」

シリルが同意する。


(そうだな?)

思い返せば、例の夜会以降たくさんの「可愛い」をもらっている気がする。

婚約者から一度ももらう事のない言葉だったので、どうも過剰に反応してしまう。



「ふむ、シリル様。私はなぜか……赤い手形の付いた、アウグスタ嬢のドレスの替えをご用意したら良いでしょうか?」

アガサがミネルバのドレスの裾に目をやりながら言った。


「ああ。その手形を付けたのは俺だ。弁償のつもりだから好きなドレスを選んでほしい」


シリルの言葉にアガサは苦い顔をする。

「えぇっ。何があればそんな事になるんですか。弁償なんて当たり前でしょう。一着と言わず、十着、二十着とお詫びとして贈らねばなりませんよ」


「そ、そんなには要りません……」

尻込みしたミネルバをよそに、アガサはわざとらしく腕をまくって奥へ案内した。






「可愛いです。淡い色もいいですが、シックなカラーもとても似合いますね」

「このレースが付いたドレスも着ていただけませんか?」

「これも、色違いで!」


アガサとシリルが次々と持ってくるドレスを、ミネルバが端から着ていく。6着、着たところで、ミネルバは音を上げた。


ミネルバが選んだドレスは、淡く黄色い生地に白いレースが施されいる甘めのドレスだ。女性の中でも背が高めのミネルバは、今まで甘いデザインのドレスは選ばなかった。

しかしシリルとアガサが、あまりにも「可愛い可愛い」と褒めてくれるので、選んでしまった。実は、甘めのドレスに少し憧れがあったのだ。


ミネルバがソファで一息を付くと、シリルが立ち上がって言った。


「疲れましたよね?俺は少し用事を済ませて来るので、休んでいてください」


いつの間にかシリルも服を着替えている。


深緑のジレをさらりと着こなし、ラフな装いでありながら、その立ち姿は誰よりも洗練されて見える。


「アガサ。ミネルバに何か飲み物を持って来てくれないか?」


シリルはそう言うと、見惚れているミネルバに不思議そうに微笑み、ソファから離れて奥へ向かった。




読んでいただきありがとうございます!


いいね、ブクマ、コメント等、いつも嬉しいです!感謝致します。


連載を始めて50話になりました!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります(^^)


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― 新着の感想 ―
シリル君、そろそろシャンとしなさいね。
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