表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/9

Episode.4



「うるさいっ!」

甲高い声で喚くと、リリーアは掴んだグラスをミネルバに投げた。


ガラスの割れた音と、バシャッと水の弾ける音がホールに響く。


咄嗟に目を瞑ったミネルバは、濡れていない自分に驚いた。

「ご無事ですか?」

変わりにグラスの水を浴びたシリルが、前髪を掻き上げてミネルバを覗き込む。


(水で良かった。ミネルバ嬢も濡れていないようだし)


ミネルバに怪我がないか確認していると、ミネルバ嬢が奇怪な声を出した。

「ち、近いです‥」

顔が真っ赤だ。慌てて顔を離すと、周囲から黄色い声が上がった。


「きゃあっ」

「まぁ‥‥なんて麗しいのかしら」

「アレックス様と瓜二つね。だけどシリル様の方が素敵だわ」


顔を覆っていた前髪を上げたので、視界が広がった。アレックスが何故か悔しそうに自分を見ている気がする。

(何だ?)

不快な目付きだ。睨み返すとアレックスから目を逸らした。



「皇帝陛下のおなりです!」


皇帝の到着の声がホールに響くと、人垣が割れた。黒地のマントを翻し、皇帝は真っすぐこちらへ向かっている。後ろに控えているのはラウザー公爵。シリルとアレックスの父だ。‥‥‥‥ものすごく渋い顔をしている。


「何の騒ぎだ‥‥と言いたいところだが、一部始終を見させてもらった。公爵、そなたの息子達が騒ぎを起こした様だな」

皇帝の低く響く声に、ラウザーは頭を深く下げた。


「愚息達が申し訳ありません」


皇帝はアレックスを見、シリルを見、ミネルバを見た。

「ふむ。ラウザー令息達の処分は追って知らせよう。お前達は今日は下がりなさい。アウグスタ嬢、私の甥がすまない事をした。謝罪も後日正式に行う」


「とんでもないことでございます」

ミネルバも頭を下げる。

「シリル。そなたがアウグスタ嬢を送ってあげなさい。アレックスはしばらく謹慎だ」


「はい」

「なっ‥‥」

口を開きかけたアレックスを、シリルは睨んだ。


「アウグスタ嬢、行きましょう」

シリルが言うと、ミネルバは皇帝に一礼して歩きかけだが、ピタリと止まった。


「陛下、アレックス様にお伝えしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」


「許可しよう」

皇帝が頷くと、ミネルバはアレックスに向き直った。


「アレックス様。嫌がらせの件は否定致しますが、婚約破棄は喜んで承諾致します。私も望んでおりましたので」

ミネルバは今日一番の美しい笑みを称えてカーテシーをとった。


「では」

周囲に余韻が残るほどの美しい所作だった。シリルも目を奪われた。あれがアレックスに向けたものだと思うと、なんとも腹立たしい。


そのまま出口へ向かうミネルバを、シリルも追った。


シリルはすれ違い様にアレックスに呟いた。

「謹慎で済むといいな?」


顔は見えないが、どんな表情をしているか容易に想像が付く。



ホールから出ると外は暗くなっていた。二つの月が高い位置まで昇っている。 


エスコートをしようとミネルバに手を差し出したが、なかなか手をとってもらえない。


「‥‥‥アウグスタ嬢?」

ミネルバの顔を見ると、まだ顔が赤い。先ほどの毅然としたカーテシーの時の顔と違い過ぎて、シリルの心臓がまた跳ねる。


「どうしました?あ、私が濡れているからですね」


頭と左肩は濡れたものの、その他は大丈夫なはずだ。ミネルバを濡らす程ではない。

「大丈夫ですよ。右手は濡れていません」

シリルが弁解すると、ミネルバが首を振った。


「そ、そうではありません。ラウザー令息、そのまま同じ馬車に乗るつもりですか?私の目に毒ですので‥‥できれば‥‥」

ごにょごにょと語尾が聞き取れない。


(俺に送ってほしくないのか?)

だとしても、この役目を誰かに譲るつもりはない。


シリルは困ったが、なんとか腕を握らせ馬車まで連れて行った。



馬車で手を握りしめ、無言で座るミネルバにシリルは優しく言った。


「元婚約者と同じ顔が見えると嫌ですよね?前髪を降ろしましょうか」


シリルが言うと、ミネルバは顔をパッと上げた。

「いいえ。シリル様とアレックス様は全くちがいます。目の色も、大人っぽい雰囲気も‥‥あの、寒くありませんか?」


心配してくれるミネルバに、シリルは思わず顔が緩む。

「ご心配をおかけして申し訳ありません。このくらい平気ですよ」


微笑んで言うシリルに、ミネルバは顔を真っ赤にしてぱくぱくと声なき声を出した。


(も、ものすごく緊張させているようだな)

なんだか申し訳ない。シリルにとっては嬉しい時間だが、ミネルバにとって寛げない時間になっている。


「気を使いますよね‥‥」

しょんぼりと言うと、ミネルバが慌てて言った。


「あ、いえ。気を使うと言いますか、シリル様が濡れてらっしゃるから緊張して‥‥」

ミネルバが下を向いて話すので、思わず覗き込んでしまった。

「何故です?」

前髪からぽたりと雫が落ちた。馬車内が狭いため、雫はミネルバの膝に落ちる。ミネルバは顔を赤く染めたまま、口を開いた。

「う、その、今日のシリル様は大人の色香のようなものが‥‥」


(大人の色香‥‥?)

よく分からないが、実年齢はミネルバと同じ16だが、前世の享年35歳と、転生からの年齢を足すと、精神年齢がミネルバとかけ離れている。

(老けているということだろうか)

仕方ないことだが、地味にショックを受ける。


(まあ考えても仕方のない事だ)

気を取り直して前を向く。戸惑いつつ火照った顔で座るミネルバを見つめる。


(その顔を止めてもらえないだろうか)

伏せ気味の潤んだ瞳に、まつ毛の影が映る。赤く染まった頬を手で掴んで、小さな口にかぶりつきたくなるような、抱き寄せたくなるような強い欲求が産まれた。

咄嗟にシリルは自らの頬を打った。


「えっ、どうしました?」

驚くミネルバの顔を直視できず、窓に視線を移して言った。

「お気になさらず」


外を見ながら、シリルは考えた。


(――さて、これからどうやってこの子を口説いていこうか)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>『(その顔を止めてもらえないだろうか) 伏せ気味の潤んだ瞳に、まつ毛の影が映る。赤く染まった頬を手で掴んで、小さな口にかぶりつきたくなるような、抱き寄せたくなるような強い欲求が産まれた。 咄嗟にシリ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ