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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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Episode.3

シリルの呟きに、ミネルバは消え入りそうな声で言った。


「か、からかってらっしゃるのですか?そうでしたらおやめください」

「からかうなどと。アウグスタ嬢が可愛いのは本心です」

シリルが慌てて言うと、ミネルバも更に慌てた。はたから見れば、何をいちゃついているんだと思われても仕方ない状況だ。



「お前が後継者になれる訳がないだろう!悪霊でも取り憑いたのか!正気に戻れ!」

真っ赤な顔で喚くアレックスを、シリルが睨む。


ミネルバとの会話を邪魔しないでもらいたい。悪霊などと失礼だな。あながち外れではないけど。


後継者の座はこれからゆっくり奪い取れるだろう。

引きこもっていた合間に読んだ書物の量は、アレックスの比ではないし、暇だったので父の書斎に入り事業計画書に目を通し、父と意見を言い合ったりもしている。


陰鬱だった性格さえ除けば、シリルの方が後継者に相応しい事を、父も知っている。


(とりあえずこの場では、ミネルバの冤罪だけは晴らしたいな)


「私は正気ですよ兄上。リリーア嬢、話を少し戻しますが、アウグスタ嬢から嫌がらせをされたそうですね?」


話を振られたリリーアは、一瞬びくりとしたが、すぐににやりと顔を歪ませた。


(俺がその話を鵜呑みにしたとでも思ったのか?分かりやすくて吐き気がするな)


わざわざ話を持ち出さずとも、周囲の貴族達の呆れた顔を見れば、リリーアの戯言だと知ら示ずとも良さそうではある。しかし一部の頭の弱そうな者達は、リリーアの話を信じているようだ。アカデミーでアレックスとリリーアの仲の良い令息と令嬢達だ。アレックスと同じで、騙され易く、御し易い者達。残念な事に箱入りに育てられた高位貴族の嫡男が多い。


リリーアは歪んだ表情から儚げな表情に変わり、涙ながらに訴えた。


「ええ。そうなのです。日々執拗な嫌がらせをミネルバ嬢から受けておりました」

「具体的には?」

シリルは感情を無にして聞いた。


「私がアレックス様とお昼を食べていると、上から水をかけられたり‥‥その後、上の廊下でバケツを持ったミネルバ嬢を見掛けた生徒がおります」

「ふむ」

「社交のダンスレッスンの時間で着るドレスが裂かれていたり‥‥こちらも衣装室にハサミを持って入って行くミネルバ嬢を見た生徒がおります」

「ほう」

「この間は、部屋に男性と閉じ込められ、危うく身体を暴かれるところでございました。アレックス様の部下が助けてくださいましたが、後にその男性に聞くと、ミネルバ嬢に命じられたと‥‥うっううっ」

手で顔を覆い泣き出したリリーアを、アレックスが抱きしめる。


「もう良いだろう!辛いことを思い出させる必要はない。ミネルバを罰せれば済むことだ」


(良い訳がないだろう)

これ以上呆れることは出来ないのだが、我が愚兄は想像を超えてくる。

泣きながらもツラツラと述べたリリーアを一瞥し、どうしたものかと考える。その()()()()という生徒達にシリルも言質を取りたいが時間がかかる。

思案していると、後ろに居たミネルバがそっとシリルの上着の裾を引いた。どきりと心臓が跳ねる。


「ミ‥‥いえ、アウグスタ嬢?」

「ラウザー令息。私に言わせてください」

ミネルバはにっこりと微笑んだ。


シリルは意思の強い瞳に気圧され、一歩下がった。


「リリーア嬢、最初の水をかけられた件ですが、アレックス様と、アレックス様の護衛に確認したところ、私には不可能な日付でした。私はその日‥‥と言いますか、その週は経営学の現地見学の為に皇都にはおりませんでしたから」


「あ、そうだったな」

アレックスが莫迦みたいに返事をすると、リリーアの表情が陰った。


「以前にも申し上げたのですが、リリーア様は忘れてしまったようですわね」

ミネルバは口元には笑みを称えているが、目は冷ややかだった。シリルの背筋にぞくりと恍惚な痺れが走る。


リリーアが負けじと声を張った。

「で、ですが!他の件は‥‥」

「ええ。リリーア様にその件を問い詰められてから、私は自身に付き人を付けました。陛下にお願いして身元の確かな者を」


リリーアは狼狽えた。

「え‥‥」

ミネルバは冷たい微笑みを絶やさずに言った。

「こうしている今も、私には監視が付いております」

ミネルバの言葉に、離れた場所にいる騎士が一礼をした。胸元に付いている紋章は皇室騎士団の物だ。


「ですから‥‥一つ目の件も、二つ目以降の件も、私には不可能です。皇室騎士団の方の目を盗むなんてことは出来ませんから」


皇室騎士団が絡んでいるならば、異を唱えることなど出来ない。アレックスも黙り、リリーアの手が震えている。周囲がざわめきはじめた。


『まぁ。自分を監視してもらうだなんて、アウグスタ嬢は本当に頭が良いのね』

『子爵家と言えど、教養もおありだし、公爵夫人に相応しいのに、アレックス様は見る目がないわね』

『娼婦のようなあのご令嬢より全然マシじゃない』


いくつか聞こえてきたざわめきに、リリーアの顔は屈辱で真っ赤に染まった。

ミネルバの堂々とした立ち姿に見惚れていたシリルは、咄嗟にグラスを掴んだリリーアの行動を止めるのが遅れてしまった。


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