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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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Episode.37

リリーアは窓にぽっかりと浮かぶ二つの月を見ながら呟いた。


「ああ。本当に美しかったわ」


この一月、目を閉じると眩の裏に浮かぶ光景がある。


あの時、思わずかけてしまったグラスの水。私を見つめた魅惑的な紫暗の瞳。髪をかき上げたシリル様の美しいことと言ったら。


リリーアの部屋は、今や紫の物で溢れている。

この一月、邸宅から出ずに行商を呼んで集めたアメジスト、タンザナイト、スピネルのアクセサリー。美しい宝石たちだが、どれもリリーアが求めるものには遠く及ばない。


可愛らしい顔立ちと、甘え上手な性格。両親は遅くに産まれた末娘のリリーアにとびきり甘く、幼少期から我慢などしたことのないリリーアは、当たり前のように望めば手に入ると思っていた。


「……早くお会いしたいわ」









「――リリーア・タナトス?」


宵を過ぎた頃。シリルはラウザー公爵邸の別邸にある、シリル専用の開発室で設計図とにらめっこしながら試作品に手を加えていた。


いつものように、ヴェラから一日の報告を受ける。



――タナトス?誰だったか。作業を止めずに記憶の中から名前を探す。


「ああ、例の令嬢か」


思い出してシリルは苦笑した。ただでさえ時間が惜しいと言うのに。思い出すために使った数十秒ですら返してほしいと思う程、リリーア・タナトスに嫌悪感を抱いている。


リリーア・タナトス伯爵令嬢。ミネルバに冤罪を着せようとした張本人だ。夜会での一件の後、確証のない証言をした事は認めたが、ミネルバを貶めるつもりはなかったと言い張った。何度かアカデミーの教諭達も事情確認を行ったが、リリーア本人が邸に引き篭もるようになり、追求は途中で打ち切られていた。


(公爵の方から圧力もかけているようだが、それすらものともしていない。何か強力な後ろ盾でもいるのか……)



――今、シリルは忙しい。アカデミーを休んで三日目になる。アレックスが大人しくなったのを見届けて、ここ最近放置して溜まっていた、魔道具事業の案件を片付ける為だ。


それに加え、態度が硬化したアウグスタ子爵を懐柔する為、新しく開発した魔道具の試作にも取り掛かっている。


アウグスタ子爵はシリルに憤りを感じている訳ではない。むしろ、「助けてくれて感謝する」とも手紙で言われた。しかし訪問の許可が降りなかった。


以降、ミネルバをアカデミーから送る際に、挨拶に伺おうとしたが、邸宅に入れて貰えなかった。


(ミネルバからの好意があれば、婚約を結ぶことも考えると言われていたのに)

このまま子爵の考えが変わってしまったら、一生アレックスを恨むだろう。



「それはどのような用途があるのです?」

後ろに控えていたライナスが口を挟む。


シリルは手に持っていた二つの魔道具のうちの一つをライナスに渡した。


「蓋のこのボタン‥‥少し出ている箇所を長めに押すと、対になっている魔道具に居場所を伝える事が出来る。点滅後も更に押し続けると、危険があることを知らせるアラームがそちらに伝わる」 


GPSのような物だ。娘を持つ父親ならばありがたく受け取ってくれるに違いない。


「本当は常に居場所が分かるようにも出来るのだが、ミネルバくらいの年頃の女の子は父親にそこまで干渉されると嫌がるだろう?難しい年頃だ。このくらいの配慮がないと‥‥」

「その通りですが、またおじさんの発言になっていますよ」

今度は報告途中のヴェラが口を挟む。少し冷ややかな視線を感じ、シリルは口を噤んだ。


「本来の依頼を後回しにして、夜な夜な作っていたのはそちらの魔道具だったのですね」

ヴェラの呆れたような声音を聞き、シリルは話を元に戻した。




「それで?そのタナトス嬢がどうしたんだ」


ヴェラが言いにくそうに口を開く。


「その、タナトス嬢がおかしな事を吹聴しております」

「なんだ。はっきり言え」 

いらいらとヴェラを促す。リリーア・タナトスに割く時間なんてないのだ。さっさと言ってほしい。


「シリル様の婚約者は自分である。と、言っているようで」

「何だと?」


(‥‥意味がわからん)


一瞬止まった思考を動かす。短く息を吐いて吐き捨てるように言った。


「……放っておけ。元々おかしな女なんだ。相手にするだけ無駄だ」


まともな令嬢であるならば、アレックス(婚約者のいる男)に手出ししようと思わない。


「しかし‥‥」

「なんだ?まだ何かあるのか」

更に歯切れがの悪くなるヴェラに、シリルはもう一度顔を上げた。


「昨日、今日と言い回るもので、流石にミネルバ様の耳にも入ってしまい、複雑な表情をされておいででした」


シリルは手を止めてヴェラの言葉を反芻した。 

「……複雑な表情?」

「はい。何とも言えぬ複雑な表情でした」

 

シリルの持っていた羽根ペンがボキリと曲がった。


……複雑な表情とは?


(まさか、その女の言う世迷言を信じた訳ではないよな?…嫉妬?ではないな。それは分かる。何とも言えないような複雑な表情。悲しくもなく?ショックでもなく?)


「ヴェラ、物事には優先順位があるよな?」

「もちろんです」

「ライナス、一件は今夜じゅうに終わらせる。もう一件は待たせておこう。明日はアカデミーに行く」


シリルは三徹目を覚悟して机に向き直った。 






読んでいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
アウグスタ子爵はどこまで抗議文を出したのでしょうか?アカデミーにミネルバを送り出すとは思えないのだけど?
三徹は無理やろ 20時間のあたりで、立っていても寝落ちな状態になるので 3時間ぐらい仮眠したほうが効率よく働ける リリーア嬢、同じ顔なら、一緒やん理論?
とりあえず、サクッと片付けようぜ。
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