表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/41

Episode.34


「アレックス!やめろ!」

シリルは頭に血が昇り、飛びかかるようにアレックスの胸ぐらを掴むと壁に叩きつけた。


アレックスの顔が苦痛で歪む。摑まれた胸ぐらを外そうとしたが、シリルの手はびくともしない。

「くっ、離せ!邪魔するな!」


「放したらまた殴るだろうが」

シリルが怒気の籠もった声で言うと、アレックスは振り上げた手を降ろした。シリルの手は震えていた。恐怖の震えではない。怒りで震えている。


(このまま肋骨をへし折ってやりたい)

壁に押さえつけている腕に力をいれる。アレックスが「うっ」と息をもらす。


背後からライナスが小声で言った。

「主、先にミネルバ嬢を医務室へ連れて行った方が良さそうです」

「ちっ」

舌打ちと共にアレックスを放し、ミネルバに駆け寄った。


「大丈夫ですか?医務室へ急ぎましょう」

シリルが言うと、震える手で頬を押さえたミネルバが顔を上げた。瞳が潤んでいる。油断すると涙が溢れそうなのか、口を固く結んでいた。


(痛むだろう。腐っても騎士科に所属している男の手で殴られたんだ)

湧き上がるアレックスへの殺意をなんとか抑え込み、シリルはミネルバを抱き上げた。


おろおろと狼狽えるアリアに、ミネルバの荷物もまとめて持って来るように言い、シリルはミネルバと先に医務室へ急いだ。






シリルに抱き上げられたままのミネルバは、叩かれた左頬だけでなく、顔全体を手で覆っていた。


アレックスに叩かれた左頬はジンジンと痛むが、今は恥ずかしさでそれどころではない。涙も引っ込んでしまった。


(この状況は何なの。どうしたらいいの)

抱き上げられた時は驚きと衝撃で何も言えなかったが、今は切実に下ろしてほしい。経営学科の教室と医務室にはかなり距離がある。シリルはなるべく目につかないよう中庭を突っ切ってくれているが、そういう問題ではなくミネルバ自身がただただ恥ずかしかった。


「シリル様、叩かれたのは顔です。歩けます」

「知っています。ですが足が震えていましたので」

「重いでしょう」 

「いいえ全く」

「で、でも」

「大丈夫ですよ。落としませんから」


がっしりとミネルバを支える腕には不安定さは微塵もなく、落とされるという不安は露ほども感じない。にも関わらず、どくどくと心臓は跳ね、汗が出るほど落ち着かない気持ちだった。


(人を抱えてこれほど早く歩けるなんて)

ミネルバは縮こまらせていた身体を少し緩め、シリルの肩にしばし頭を預けた。




医務室に着くと、先生が不在だった。シリルがライナスに呼びに行くよう指示を出す。


ライナスがいなくなると、医務室に二人きりになってしまう。ミネルバはまた緊張して身体を縮めた。

どうしたものか。医務室に着いたというのに、シリルは降ろしてくれないのだ。もごもごと口を開く。


「シ、シリル様、そろそろ降ろしていただけると‥‥」 


返事がない。

「あの‥?」

不思議に思い横を見ると、思ったよりも近くにシリルの顔がある。身体を縮こまらせても体重が変わらないのは分かっているが、ミネルバは身体をよじり脇を閉めた。もはやどこが叩かれたか分からないのではないだろうか。顔全体が熱を持っている。


シリルはミネルバを見つめながら固まっている。ハッと何かに気付き、ミネルバをゆっくりソファーへ降ろした。


「大丈夫ですか?痛みますよね?」

シリルが顔を覗き込む。いつもは涼し気な紫暗の瞳に、心配の色が映っている。


(ち、近い‥‥)

先ほどの抱き上げられていた時よりは距離があるが、まだ近い。もう少し離れてくれないとミネルバの顔は両頬が赤くなったままだ。


「あ、そうだ。よければこれを」

シリルが制服の懐から四角い布の様なものを取り出した。袋に入れられて密封されている。

「少し冷たいので、驚かないでくださいね」

袋を破り、取り出した布をミネルバの左頬に貼った。


「どうですか?」

「冷たくて気持ちいい‥‥」

不思議な事に、シリルの取り出した布はぴったりと頬に張り付いた。しかしベタベタとした不快感はない。


「これは何ですか?」

初めて見たものだ。


「これは湿布‥‥腫れたり、痛めたりした箇所に貼って冷やす魔道具です」

「しっぷ‥‥?これもシリル様が作られたのですか?」

「ええ。まだ試作段階ですが。持っていて良かった」


じんわりと冷えて気持ちが良い。心配の色が少し和らいだシリルの表情を見て、ミネルバも微笑んだ。


「シリル様は本当にすごいです。こんなものまで開発なさるなんて」

「いや俺がすごい訳ではないですよ。境遇が特殊なだけで‥‥」

「境遇、ですか」

「ええ。他に痛むところはありませんか?」


シリルはそう言いながらミネルバをじろじろと確認する。不躾な視線だが不快感はなく、ミネルバはシリルの確認が終わるまでじっと待っていた。

 


(境遇‥‥シリル様もアレックス様に叩かれることがあったのかしら)

あの時のアレックスは焦っていたように感じたが、あれほど躊躇なく人を叩くのだ、シリルも叩かれる事があったのかもしれない。そう考えると堪らず胸が痛んだ。







読んでいただきありがとうございます!


いいね、ブクマ、コメント等ありがとうございます。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
意図がどうあれ陛下の温情があって謹慎解いてもらったのに、即座に問題を起こして……公爵家の指導不足と合わせて一直線に廃嫡orお家没落コースに……
生かす価値ないことを証明するためにわざと釈放したんか?だとしたら判断が遅いだろ
何でな叩いたの? 一応、騎士の卵?の癖に( `д´)女の子に躊躇無く手を上げるんだな!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ