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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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30/35

Episode.30


レオンハルトはシリルを見ると面白そうに目を細めた。


「旦那‥‥見るからにお忍びという風体だね?ということは、酒を奢ってもらいに来た訳ではなさそうだ」

「ああ」

正直もう少し呑みたいところだが。

「酒はいいから、頼みがあるんだ」


「分かった。こっちに来てくれ」

レオンハルトに付いて店の2階へ向かった。



シリル達は応接室に案内された。中へ入る際、薄い膜に触れた感覚があった。振り返ってみたが何もない。


シリルの様子に気付いたレオンハルトが言った。

「違和感があったか?この部屋には防音の膜が張ってある。よく気付いたね」

「魔道具か?」

シリルは即座に聞いた。防音に特化した魔道具は珍しい。密談を好む貴族達にも需要がありそうだ。


「いや。うちに所属している魔導師が張った結界のようなものだよ」

「魔導師‥‥」


シリルはまだ魔導師に会ったことがない。帝国で魔力を持つ者は稀だ。その故に帝国を中心に魔道具が普及している。

反対に情報ギルド【聖女の烙印】が拠点とする、隣国ドーラン王国には魔導師が多く残っている。

魔導師を制圧するのは難しい。大陸の覇者である、このグランヴァルト帝国が隣国であるドーラン王国を属国に出来ずにいるのはその為だ。

 


「まぁ座ってくれ。お忍びと言うことは時間がないんじゃないか?シリル・ラウザー公爵令息」 


隣国ドーランで会った時は家名は名乗らなかった。連れて帰り、手当てした邸宅もラウザーの所有のものではない。


(それはそうだよな)

「調べたのか?俺のこと」

レオンハルトは軽く手を振って否定した。

「いや?調べたという程でもないさ。旦那は今、話題の人物だからね」

「話題?」

シリルの眉根が思わず動く。 


「公爵家の継承権が動くなんてゴシップは、話題にもなるさ。しかも性格に難ありの、今まで引き篭もっていた弟の方に移るとなるとね。元々、貴方は魔道具界隈で有名な方ではあったし」


「ふぅん‥‥」

シリルは思案した。どうせ話題にあがるなら、自分に有利な話題を挙げたい。

(これを期に今まで開発した魔道具を発表するか?)



「それで今日は何の用だい?」

レオンハルトが腕を組んでシリルを見た。漆黒の瞳には冷たさと好奇心が垣間見えた。


シリルがライナスに視線で合図すると、ライナスは懐から封筒を取り出して、机に置いた。


「ここに依頼内容が書いてある。部屋に防音魔術が施されているとは思わなかったんだ」

「まぁ帝国では珍しいかもね」


レオンハルトは封筒を受けとり、饒舌に話す。

「何かな?殺し?暗殺?高位貴族でなければ、サービスでさせてもらうよ。旦那は命の恩人だからね」


レオンハルトは封書を開けた。しばらく眺めると。胡乱な顔でこちらを見た。


「‥‥これだけ?」

心外だとでも言うように。


「俺はいたいけな16歳の少年だぞ。殺しとか暗殺とか、頼むわけないだろう」


シリルの言葉に、レオンハルトは納得のいかない顔をしている。

「この依頼書に書かれていることを調べあげたのに、いたいけな少年?バレル商会、けっこう非人道的な集まりだなぁ。これだけ証拠があれば、旦那が自分で脅した方が早くないか?」


依頼書には、ライナスが独自のルートで調べたバレル商会の悪事が書いてある。それを元に商会を脅し、皇都から撤退させる事がシリルの依頼だ。


「俺はまだそういうのは早い。味方がいないからな。動かせる人員が1人しかいないんだ」

「1人?まさか、後ろの彼だけ?」

「ああ」


レオンハルトは少し呆れた顔をする。


「うーん、ラウザー公もよく思い切ったね。それだけ兄の方が駄目人間なのかな?」

「そうだ」

シリルは即座に頷いた。

「この俺より救いようのないのがアレックスだ」

 

「はは。そんなに言うと兄の方も気になるな」


「で?受けてくれるのか?」

アカデミーからの帰りなので、遅くなり過ぎて公爵に根掘り葉掘り聞かれるのは避けたい。まぁライナスが報告するのかもしれないが。


「もちろん受けるさ。脅す材料も揃えられているから簡単な仕事だ。後ろの彼をうちにスカウトしたいくらいだよ。うちでも把握しきれていない情報まで揃えてある。有能だな。旦那の護衛騎士は」

「ライナス。大陸一のギルドマスターが認めてるぞ」

「滅相もありません」


シリルは短く息を吐いた。とりあえず依頼は受けてもらえるらしい。あとはレオンハルトに任せておけばバレル男爵家は近い内に皇都からいなくなるだろう。


「報酬は払う。あなたは俺を命の恩人と言うが、あの時は医者を呼んだ訳でもない。応急手当だけしかしていないのだから、貴方の自己治癒力が強かったんだ」

「遠慮するねえ」

「いや本当に」

誂うようにレオンハルトは言うが、医者を呼ぶなと言うから医者も呼ばず、一日二日、ベッドを提供しただけだ。それが大陸一のギルドの依頼料と同額だとはとても思えない。


レオンハルトはニヤニヤ笑いをやめて言った。声音が少し下がり、譲らないという意思が見える。

「報酬は受け取らない。この依頼書にある情報はうちにとっても有益なものだ。これをタダで貰う事になるんだからな」


「しかし‥‥」

知り合ってすぐのギルドの好待遇に、シリルは尻込みしている。


「ふむ。どうしてもと言うなら、一つ頼まれてくれないか?」




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