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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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28/31

Episode.28


馬車が止まった。アウグスタ子爵邸に着いたようだ。


門の前にはメイドと、侍従が一人立っている。シリルはそれを確認して馬車を降り、ミネルバに手を差し出した。


「今日は大変でしたね。バレル令息には充分に注意をしたので、もう貴方の前には現れないでしょう」

「ありがとうございます。お礼はまた今度改めて‥‥」

「いえ、お礼などいりませんよ。俺がしたくてしたことですから」

にっこり言うと、ミネルバはもごもごと困ったように下を向いた。


――はぁ。今日もミネルバが可愛い。

「迷惑でしょうか?」

「迷惑だなんて。ただ申し訳なくて‥‥」


二人のやりとりを馬車の上から見ていたアリアが声をかけた。

「ミネルバ。今日はやっぱり邸宅へお邪魔するのは止めておくわ。ラウザー令息にお話したいこともあるし」


ミネルバが驚いて振り返る。

「えっ、でもアリア‥‥」 

ミネルバが心配そうにアリアとシリルを交互に見た。


(何だ?俺に話?)

内心身構えつつも、顔には出さないように気を付ける。


「俺はかまいませんよ。このままローレンス伯爵邸までお送りしましょう」


ミネルバはアリアを見ながら口をぱくぱく動かしている。完全に聞こえた訳ではないが、「シリル様にご迷惑をかけないでね!」と、そのような事を訴えていた。


ミネルバを残し、シリルとアリアを乗せた馬車は動きだした。ミネルバがものすごく心配そうにアリアを見ていたのが気になる。


(俺は一体何をされるんだ)


ミネルバにこれ以上近づかないで!とか言われたらどうしようか。どうすることもできないが。




しばらく走ったところでアリアが口を開いた。

「ラウザー公爵令息。先程の不躾な物言い、申し訳ありませんでした」


色々と思案していたシリルは驚いた。想定外の謝罪だ。何故急に態度が変わるのか理解出来ないが、とりあえず謝罪は受け入れる。


「いえ、かまいません。ローレンス嬢の言う通りですから。何故急に謝罪を?」


アリアは少し思案して静かに言った。

「ラウザー令息を誤解していました。またアレックス様のように、ミネルバをぞんざいに扱われるのではないかと」

「ローレンス嬢は、アウグスタ嬢の事が本当に好きなのですね」


アリアは心外だとでも言うように、自虐気味に微笑った。

「友人ですから。私は親友だと思っていますが。‥‥なのでアレックス様の時のように、また自分の無力さを悔やむ事になるのかと思ったのです‥‥ですが杞憂でしたね」 


「兄の事は、本当に申し訳がないです」

「私に謝罪する必要はありません。ラウザー令息はミネルバの事がお好きですよね?」


アリアの言葉に、謝罪したまま俯けた顔をあげられなくなった。

「‥‥‥‥」

「あ、何も言わなくて結構です。あの雰囲気だと、まだ本人にも伝えていないようですし。ただ、早く伝えた方が良いですよ?ミネルバは本人は気付いていませんが、モテますし。婚約者がいなくなってクラスメイト達も浮足立ってます」

「‥‥‥‥‥」

ますます顔は上げられない。


『ぶふっ』

魔道具から吹き出す声が聞こえる。覚えてろよライナス。


「ミネルバは鈍いので、はっきりと言わないと伝わりません」

はきはきと話すアリアに、シリルは半眼で顔を上げた。

「‥‥つまり、ローレンス嬢は私を応援してくれているのですね?」

「はい。バレル令息からミネルバを守ってくれましたし‥‥ですが私はミネルバの味方なので、彼女が拒むようでしたら応援は止めます」

アリアは頷いて、きっぱりと言った。


「アレックス様が戻って来ても、アレックス様に譲ったりしませんよね?」

「それはもちろんです。アレックスに譲るなど、万が一にもあり得ません」


シリルがそう言うと、アリアは長めに息を吐いた。そしてまた頭を下げる。

「良かった‥‥。私のお話は以上です。重ね重ね、不躾な物言いを謝罪致します。ラウザー公爵令息に非礼な事を致しました」


「良いです。頭をあげてください。ミネルバを大切に思ってしたことを、俺が不快に思うはずがありません」

本心だ。良かった。ミネルバの友達に嫌われていなくて。


アリアは緊張が解けたように笑った。

「ラウザー令息はアレックス様のように振る舞われないのですね。近寄りがたくはありますが‥‥。令嬢達が騒ぐのも分かります。ミネルバも苦労しそうだわ」

「そうですか‥‥?」


令嬢達が自分を見て騒ぐのは未だに分からない。だがアレックスとは違うと言われて、そこは素直に嬉しい所だ。


「ラウザー令息、差し出がましいのですが、まだ頼れる家門が少ないのではないでしょうか?もし何かあれば力になりますので仰ってくださいね」

「え‥‥」

シリルはまた意外な申し出に驚いた。


長年引き籠もっていたシリルには頼れる家門がないに等しい。公爵位は現公爵の承認だけで得られるものではない。


『ローレンス伯爵邸に着きました』

ライナスの知らせと共に馬車が止まった。


「エスコートはいりませんよ」

扉が開くと、シリル達より少し年齢が下だろうか?少年が手を差し出している。


「弟です。ヨーク、ご挨拶を」


少年はアリアを馬車から降ろすと、一礼して名乗った。

「ヨーク・ローレンスです。本日は姉を送ってくださりありがとうございます」


アリアが言った。

「ではラウザー令息、本日はありがとうございました。爵位は伯爵と言えど、ローレンス伯爵家は建国から続く由緒正しい家門でございます。お力になれることがあればおっしゃってくださいね。――令息が、これからもミネルバの味方でいてくださる限り」


最後の一言にひやりとしたものを感じた。アリアの弟が申し訳なさそうに俯く。『姉が申し訳ありません』

と、彼の声が聞こえて来る気がした。



とはいえ、シリルがミネルバの味方でなくなることはあり得ない。心強いような、そうでもないような。とりあえず味方が増えたとシリルは思う事にした。


 







いつも読んでいただきありがとうございます!


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