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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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26/30

Episode.26   


「アウグスタ嬢!」

選択授業での移動教室の帰りに、ミネルバは乱暴に肩を摑まれた。


驚いたが、相手の顔を見て納得した。ヒューバート・バレル。先日、シリルにも相談してしまったが、アウグスタ子爵家が今、揉めに揉めている家門の子息である。




2週間ほど前のこと。

魔石の研磨、商品製造と販売。全て担わせてほしいとバレル男爵は言ってきた。バレル家にはそれが可能な商会がある。その提案自体は悪くなかったのだが、問題は高く設定された仲介料だ。そこに難色を示すと、バレル男爵はこう言った。


『本当でしたら、この仲介料をいただくのですが、もう一つ提案がございます』


このもう一つの提案を掲示されたあとは、子爵は首を縦に振ることはなかった。


その提案とはバレル男爵家の子息、ヒューバート・バレルと、ミネルバ・アウグスタが婚約を結ぶこと。ラウザー公爵家との婚約が解消になった後だったので、バレル男爵は更に言ったのだ。


『公爵家との婚約が白紙になったとなると、お嬢様を貰う家門はまともなところがありませんでしょう?』


わざとなのか、天然なのか、バレル男爵は見事にアウグスタ子爵を怒らせて商談は終わった。アウグスタ子爵は検討の余地もないと思っているが、バレル男爵はそうではなく、押せばいけると思っているようだ。

‥‥‥さすが粘り強さで、一介の商人から男爵にまで昇りつめた男だ。




「お離しください、バレル令息。バレル家とアウグスタの話はもう終わったでしょう?」

「終わってなどいません!」

ヒューバートの声が廊下に響く。


アレックスの件があるので、目立ちたくないと言うのに。ミネルバはサッと周りを見渡した。すぐに違和感に気づく。

(変だわ。廊下に誰もいない)


ミネルバが周りを見回した事に気付くと、ヒューバートの口元が僅かに歪んだ。


「この校舎は普段使われないから、人通りがなくても不思議ではありません」


ミネルバの選択している魔石研究の教授は変わり者で、旧校舎を使う。この科目を選択している生徒も少なく、他の廊下を通るよう言えば問題のない場所だ。

ミネルバのスケジュールを予め調べていたのだ。ミネルバはゾッとした。


振り返って走ろうとしたが、腕を摑まれた。

「うっ」



「待ってください!子爵に何度も手紙を送ったはずです。なぜ返事を下さらないのですか?」

「私に言われても困ります。お父様が返事を送らないことが答えです」


ミネルバが脛を蹴飛ばしてやろうかと考えた時、廊下に足音が響いた。走ってはいないが、早い。歩いているとは思えない速さで足音は近付いて来る。


「チッ、誰だ?」

ヒューバートは舌打ちをして顔を上げると、みるみる蒼白になっていった。

足音はミネルバの背後でとまった。振り向くと、壁‥‥いや、シリルが真後ろでヒューバートの手をものすごい形相で見下ろしている。

ヒューバートはすぐに手を離したが、シリルはヒューバートの腕を掴んでねじるように持ち上げた。


「うぁぁっ」

痛みにヒューバートが呻いた。


「うるさい」

シリルは呻くヒューバートの腕を更に捻る。ヒューバートは口を無理やり噤んだ。


「シリル様」

自分も蹴飛ばそうとしていた手前、強く言えないが、ミネルバは止めようとシリルの裾を引っ張った。

ヒューバートの腕が青紫に変わっていく様を見ると、自分が脛を蹴っていた方がヒューバートにとっては良かったのかもしれない。


「ライナス。ミネルバ嬢と一緒に戻っていてくれ」

「はい」

いつからいたのか、振り向くとライナスが後ろに控えていた。

「えっ、シリル様は」

「俺はこのストーカーをころ‥‥さずに、二度と貴方の前に出て来ることのないようにしようかと」


シリルから過激な言葉が聞こえた気がしたが、前を向いていた表情が見えない。ヒューバートはと言うと怯えきった表情をしている。


ライナスに助け舟を求めて視線を向けたが、ライナスは首を振った。

「あの男はこの校舎の入口に人を配置し、誰も入らないようにしていたのです。危ないところでしたよ」


「ライナス。余計な事を言わなくていい。ミネルバが怖い思いをするだろ」


肩越しに言うシリルの横顔が見えた。目が怖ろしい程冷ややかだ。


「怖いのは主の目ですよ。懲らしめるのもほどほどになさってください」

「分かってる」


ミネルバはいっそう心配になった。

(分かってるって何がかしら?この男のせいでシリル様が罰せられるようなことになっては‥‥‥!)


ライナスに促されて廊下を進む。ミネルバがもう一度振り返るとライナスが言った。


「大丈夫ですよ。忠告するだけです。行きましょう。あまり遅くなると、ご学友が心配されるのでは?」


たしかに遅くなってはアリアが心配して迎えに来そうだ。

ミネルバは気になるものの、シリルに任せて教室へ戻った。









読んでいただきありがとうございます!


いいね、ブクマ、コメント等、いつも励みにしております。


今まで20時更新だったのですが、しばらく18時10分更新にしています。

明日も読んでいただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
カッコいい! しかし何するつもりだったんだか…二度とミネルバ様に近づけないようにお願いします!シリル様!
間一髪でしたね! ( `д´)何をする気だったんだ!
 剥いて吊るそう。
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