Episode.24
500ほど数えてシリルは木剣を降ろした。
「しかしよく聞けたな」
「閣下が情けで教えてくれたのですよ。シリル様、動ける人員が私だけではとても足りません」
ライナスの言葉にシリルは目を見張った。
「お前はアレックスが戻っても、俺側に着くのか?」
ライナスは若干呆れ口調だ。
「それはまあ、当然でしょう。誰が知っていてあんな泥舟に乗ると言うのです」
ライナスの辛辣な物言いにシリルは吹き出す。
「ふっ。泥舟とはまたひどい言いようだな。その通りだが。‥‥‥アレックスはアカデミーに戻っても、以前と変わらない態度を取ろうとするだろうな?」
「そうでしょうね。謹慎も一月だけでしたから」
皇帝がわざわざラウザー公爵を呼びつけ、アレックスの謹慎を解かせたのも訳があるだろう。もしかすると、シリルが考えているくだらない理由かもしれない。
「陛下が謹慎を解いたも同然だよな?」
「ええ。閣下もシリル様と同じ見解ですよ。アレックス様より優れていると、自分で周りに示せと言いたいのだろうと」
(全く)
皇帝の圧のある微笑を思い出す。
(学校で双子の兄弟を争わせるなんて趣味が悪いな)
「どうします?」
「俺はそんな好戦的なタイプじゃないのに‥‥」
と言いつつシリルはアレックスにどう恥をかかせてやろうか頭を動かし始めた。
◇
「おい、あの人が噂の?」
「ああ。ラウザー公爵家の‥‥お前、声かけてみろよ」
「いや、なんか雰囲気怖くないか?顔が整ってるから余計に‥‥」
アカデミーが始まって数日。騎士科の授業も本格的になってきた。
今日は鍛錬場で実力テストなるものをするらしい。個人の実力で簡単にグループを分けるようだ。
騎士科に入り直したので、周りはみんな一年生だ。13歳の中に16歳。とても目立つ。しかも身体はデカめである。
羨望の目で見てくる一年生もいるが、だいたいが遠巻きにシリルを見ている。ありていに言うと、‥‥‥ぼっちだった。
『主、お友達は出来ましたか』
ピアスの形をした魔道具から、ライナスの声が聞こえる。
出来る訳がないだろう。少年の部分もあるが、中身おじさんが13歳の友達なんて。同学年であったとしても無理そうだ。
『主、歳が違うからって、社交を疎かにしてはいけませんよ』
シリルの顔が険しくなる。周りが怖がって近付いて来ないのは、ライナスの小言のせいもあるだろう。シリルは顔を顰めたまま立ち上がった。周りの一年生達がびくりと跳ね道を開ける。
(なんだか可哀想なことをしてる気分だ‥‥)
シリルは騎士科の先生がくるまで、隅に移動することにした。
「お前な。人の目があるから、こちらからは話せないんだ。アカデミーでは緊急時だけ通信しろと言っただろ」
シリルは魔道具に向かって小声で反論する。
『そうでした。こちらは今の所、動きはありません』
「そのまま張っててくれ」
ライナスが見張っているのは、先日ミネルバから相談されたバレル男爵の息子だ。シリルも今の時点で動かせる商団主から男爵へ忠告したが、望む反応が得られていない。
(バレル男爵の申し出をアウグスタ子爵も撥ね付けているようだし、そろそろ痺れを切らす頃だ)
息子の方がアカデミーで悪さをしないかライナスに見張らせている。
『では主。また何かあったらご連絡致します』
「‥‥‥ああ」
何度聞いても聞き慣れない呼称だ。シリルは力の抜けた声で返事をした。
先日、『ライナスの言動には忠誠心が感じられない』と売り言葉に買い言葉で返したのだが‥‥
『では呼び方だけでも忠誠心を示します』
と、『主』と呼ぶようになったのだ。最初は冗談だと思って相手にしなかったのだが、数日にも及ぶ所を見ると彼の中で定着してしまったようだ。
鍛錬場の中心に生徒達が集まりはじめたので、シリルもそちらに向かった。
中央に180センチはあるだろう。白髪交じりの初老の男が立っている。ラフな格好をしているので、頑丈そうな体躯と張り付いた筋肉が際立って見えた。
(騎士科の教師か?)
迫力のある男だ。近くでみると、顔や腕、至るところに傷がある。
近づいて行くと、男は興味深そうな視線をシリルに向けた。
「ふむ。君は他の子と体格が違い過ぎるな。本当に13歳か?」
「‥‥‥16です」
「本当か?もっと上ではなく?」
‥‥‥また暗に老けていると言われた。
「ふぅむ。16か。どちらにしても13歳の中に入れて模擬戦は出来ないな。君は私と組みなさい」
「‥‥はい」
確かに13歳の中にシリルを入れると、実力と言うか腕力で勝敗がついてしまう。
(だからと言ってこんなに筋肉ごりごりの男と勝負しろと言うのも‥‥)
シリルは男の丸太のような太ももを見て一瞬思考が止まった。
右足は丸太のように筋肉が付いたずっしりとした足だが、左足は膝から下が義足だった。あまりに自然と歩いているので気づかなかった。
男はシリルの視線に気付き、口元に笑みを浮かべた。
「さぁ!新入生よ並べ。私は騎士科の剣術を担当するグスタフ・クラウゼンだ。元は皇室騎士団の団長を務めていた。貴殿らを厳しく指導するからそのつもりでいるように!」
びりびりと響く声に、一部の一年生は縮み上がった。
読んでいただきありがとうございます。
筋肉もりもりグスタフ教官も、どうぞよろしくお願い致します。
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