表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/25

Episode.21


ミネルバはシリルの手を引いたまま、第三食堂へ向かった。とはいえずっと手を引くわけにはいかない。廊下の角を曲がった所で、ミネルバが手を離すと、シリルが素早く手を握り直した。


「シリル様?手を‥」

ミネルバが驚いて振り向くと、シリルは目を丸くした。何を言われているのか分かっていないようだ。


「あの、手を離していただけると‥‥」

「えっ?ああ!いつの間に?!」

シリルが自分の手を見て驚いている。自ら繋ぎ直しておきながら、自覚がなかったのだろうか?



ミネルバは窓ガラスに映る自分に気付いた。走ってこそいないものの、急いだからか前髪が乱れスカートにはシワがよっている。

今さらながら立ち姿を正して、制服のスカートをパタパタと叩いた。アカデミーでは身分は重要視されないものの、シリルは今や実質公爵家の後継者だ。ミネルバは背筋を伸ばして聞いた。


「シリル様、私に何かご用でしょうか?」

「えっ」


丁寧に聞くと、シリルは動揺した。気の所為でなければ、ショックを受けた表情をしている。


「‥‥‥用は、その、昨日言っていた魔石加工の者を紹介する件なのですが、日にちを詰めたくて」


「まぁ!わざわざ」

昨日の今日なのに。シリルはなんて仕事が早いのだろう。ミネルバは素直に嬉しかった。

契約書も交わしていない口約束のような案件だ。シリルが忙しく、皇都と隣国を行ったり来たりしている事は知っていた。

(それなのにこんなにも早く動いてくださるなんて)


「ありがとうございます。ですがシリル様、お忙しいと聞いております。次からは手紙でかまいません」

「うっ」


またシリルが狼狽えた。

(どうしたのかしら)


また自分に不手際があったのかもしれない。いつもは横にいるライナスも、今日はいないので聞くことが出来ない。


(そういえば、廊下で待っていた時から不機嫌そうなお顔だったわ。もしかして具合が悪いのでは)

ミネルバは知っている。父も頭痛が酷かったりすると、あのような不機嫌な顔になる。


ミネルバは手をシリルの額に近付けた。シリルの身体がびくりと跳ねる。


(あ、そうよね。勝手に触っては不快にさせてしまうわ)

ミネルバはすぐに手を引っ込めたが、確認はしたい。


「シリル様、具合が悪いのでは?」


「え?具合?‥‥ああ、もしや熱がないか確かめようと?」

「はい」

「なんだ俺はてっきり‥‥」

「てっきり?」

「いや、なんでもありません」


(‥‥‥‥気になるじゃないの!) 

ミネルバは言いたいことを飲み込んだ。


シリルが軽く咳払いをした。

「具合は悪くありません。なぜそう思ったのです?」

「先程、廊下にいる時機嫌が悪そうでしたから。具合が悪い訳ではないのなら、やっぱり令嬢達に追いかけられたのですか?」


先日も追われて困っていた。

(顔が良すぎるのも大変なのね)

アレックスも時々令嬢たちに囲まれていたが、彼の場合は喜んでいたのでそこまで気にならなかった。


「違います。‥‥そうではなく、経営学科には男子生徒が多いので‥‥」


シリルはそこまで言うと下を向いた。顔を覗き込む訳にはいかないので顔色は見えないが、耳が赤い。


(やっぱり具合が悪いのかしら?)

ライナスを探した方がいいのではとミネルバが考えていると、シリルはすぐに顔を上げた。


ジトリと恨めしそうな目でミネルバを見て口を開いた。

「貴方は全く‥‥こんな事は言わせないでください」


そう言うシリルの熱の籠もった眼に、ミネルバは一瞬戸惑った。

「‥‥?何を‥ですか?経営学に男子生徒が多いのは当然です」


家門の後継者が多い学科なのだから。ミネルバが言うと、シリルは呆気にとられたように目を見開いた。そして盛大に大きなため息を吐く。


「はぁ‥‥‥君は本当に鈍いですね」

「え?そんなことないと思うのですが‥‥」

経営学に男子生徒が多いのは毎年の事だ。シリルが何を言いたいのか分からないが、"鈍い"と評された事には心外だと思った。


アウグスタ子爵家の後継者である兄よりも、ミネルバの方が経営や投資など、『鋭い』や『勘がいい』などとよく評されるのだ。もちろん兄も優秀な人物ではある。


心外なので、もっと噛み付いて行きたいが相手は公爵家令息。ミネルバは眉を吊り上げ、むぐっと唇を引き結んでなんとか堪えた。


何故だか不機嫌な顔になっていたシリルは、その様子を見て微笑った。

「‥‥ふっ、ミネルバ嬢。我慢せずとも、言いたいことがあれば言っていいのに。そのように可愛らしく膨れなくても」


シリルは堪えきれないように、肩を震わせて微笑っている。ミネルバは面白くない。なんせ自分の不機嫌顔を見て微笑われているのだから。

‥‥その上、

(『可愛らしい』ですって?シリル様はまた誂ってるのかしら)

とは言え、唐突な『可愛らしい』に顔は赤くなる。


ミネルバは眉を吊り上げたまま言った。

「シリル様、淑女の顔を見て微笑うなんて失礼ですよ!」


シリルはすぐに微笑うのをやめ、ミネルバに向き直った。よく見るとシリルの目が涙目になっている。控えめな微笑いだったが、涙が出るほど笑っていたらしい。


吊り上げた眉のまま、ジトリと睨むとシリルは殊勝な顔をした。

「すまない。微笑いすぎましたか」

「ええ」

にべもなく言うと、ミネルバとは逆にシリルの眉が下がった。

「君に嫌われたくない。許してくれるだろうか?」


シリルが叱られた大型犬のようにしょんぼりしている。少年と言えど、そこらのクラスメイトより筋肉隆々なシリルが、いたいけな犬と重なって見えるとは。


その様子に一瞬で絆されたミネルバは、間も置かず「許しますけど」と、口にしていた。








本日も読んでいただきありがとうございます。


いいね、ブクマ、コメント等励みにしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 あー(・o・)……犬に見えたの?…うん?大型犬? ……ちょっとちゃうかも~♪  ミネルバちゃんの前だけおとなしい狼だょ~♪可愛く魅せてるけれどね~♪実際に肉食女子ゎ歯牙にも掛けずw他の男子を気にし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ