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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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15/18

Episode.15


「あ、ええと。何故か女生徒の方が集まって来てしまい‥‥‥」

しどろもどろと答えるシリルに、ミネルバはぽかんと見上げてきた。


「まあ。ふふ。そうでしょうね。今のラウザー様は魅力的ですから」

上目遣い‥‥からの笑顔。寝不足の回らない頭でシリルは何の拷問だと考えた。


――魅力的。魅力的と言ったのだ。ミネルバがシリルの事を。

(前髪を切って良かった)

先月の訪問の際、アレックスと同じ顔にミネルバは不快感を示さなかった。迷ったものの、やはり邪魔なので前髪を切ってしまった。


シリルはぼんやりとミネルバを眺めた。

(たしか、触っても嫌ではないと言ってたよな)


無理やり引っ張って来てしまったからか、金糸の髪が頬に落ちている。


手で落ちた髪を掬うと、ミネルバはびくりと身体を強張らせた。


「‥‥!申し訳ない。どうか私を殴ってほしい」

「えっ」


シリルは土下座したい気分になった。

(勝手に触って良い訳がないだろ!誰かほんとに俺を殴ってくれ‥‥)

過ちをおかす前に。


「だ、大丈夫ですよ?ほこりでも付いていましたか

?」


気を使って言ってくれるミネルバに、シリルは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「いえ、俺が無理に引っ張ったものですから、髪が少し崩れていて‥‥」

だからと言って淑女の髪に勝手に触れるなんて、この貴族社会で許されたものではない。

(プレイボーイじゃあるまいし‥‥)

シリルは心底反省した。ミネルバの好感度を上げたいのに、上げる前から下げている気がする。



気を取り直して、シリルは言った。


「アウグスタ嬢、今日の進級式のあとは予定はありますか?」

「ええ。街に学用品を買いに行こうかと。何かご用でしたか?」


「あ、いえ、用と言うほどでは‥‥」

「シリル様」

「うわ」

気配を消してライナスが現れ、シリルは肝を冷やした。

(いや別にやましい事をしていた訳ではないから、慌てなくてもいいのだが)

シリルは気付いた。人気のない場所に令嬢を連れ込んだのだ。充分やましい事だった。


蒼白になったシリルに構わず、見捨てられたライナスはズケズケと言った。


「ご令嬢をスイーツ店に誘うことは出来ましたか?」

「こらお前、だまれ」

取り繕う暇もなく目的をバラされ、少々汚い言葉が出てしまった。

「私を犠牲にしたのです。益がなければ困ります」

いけしゃあしゃあとライナスは言う。この1ヶ月、ほぼ毎日一緒にいたので気心が知れすぎてしまったようだ。


「あら?貴方はこの前にもお会いしましたね」

ミネルバが聞くと、ライナスは丁寧にお辞儀をして自己紹介をした。


「私はライナスと申します。現在はシリル様の専属騎士を務めております」


「そうなのですね。ライナス様。私はミネルバ・アウグスタです」


ミネルバの言葉に、シリルは絶句して、脱力した。


「そんな‥‥俺でさえ名前で呼ばれていないのに。おい、ライナス。家名も名乗れよ。アウグスタ嬢が呼びにくいだろう」

震えながら言うシリルに、ライナスはにべもなく答える。

「私の家名は捨てたも同然ですので」


内心泣きそうになるのを堪えながら、シリルはミネルバに言った。

「私の事もシリルと呼んでいただきたいです」

「えっ‥‥ですが」

「先程は呼んでくださったじゃないですか」

シリルの言葉に、ミネルバの顔が赤く染まった。


「あっ、あの時は動転しておりましたので‥」

手で赤く染まった頬を隠すミネルバを、シリルは我慢しながら見つめた。

(可愛いが過ぎるぞ‥‥?)


「シリル様‥‥何も、何もされてませんよね?」

ライナスの視線は冷ややかだ。


「申し訳ありませんご令嬢、シリル様の希望を汲んでいただけませんか?私は目の前で泣く主人を見たくありません」


(言い方。もう少し主人を立ててくれ)

ライナスに思う所はあるが、ミネルバが名前で呼んでくれるなら本望だ。シリルは懇願する眼でミネルバを見た。


「アウグスタ嬢、駄目でしょうか‥‥?」

「う‥!」

(う?)

ミネルバが短く呻いたのが気になったが、シリルは眼で懇願を続けた。

ミネルバは視線を彷徨わせ、やがて紅い顔のまま頷いた。


「では、シリル様‥‥とお呼びします」

「か‥‥」

わいい。


「ありがとうございます。私もミネルバ嬢とお呼びしても?」

ミネルバは赤面したまま、ジトリとした視線でシリルを見た。あまりの可愛さに顔がにやにやしてしまっているので、からかわれていると勘違いしているかもしれない。


「いいですよ」


ミネルバの返事に、シリルはここ一ヶ月の不眠不休が報われた気がした。『最低な元婚約者の弟』から、『名前を呼び合える友人』まで親密度が上がったのだ。ここで倒れたとしても、今日来て良かった。


「良かったですね」

抑揚のない声で水を指すライナスに、シリルは上機嫌のまま言った。

「いつまでいるんだ?ライナス。早く公爵邸へ戻れ」

「閣下が(何を仕出かすか分からないので)出来る限り近くにいるようにと」

「なんだと?」


シリルの下がる機嫌を察知したのか、ミネルバが口を挟んだ。

「シリル様、大丈夫ですよ。高位貴族の方は護衛を連れているのは普通の事です」



「ですが、ミネルバ嬢にはいないじゃないですか」

「私は上位貴族ではありませんので‥‥」


シリルに良い考えが浮かんだ。

「とはいえ、貴族のご令嬢が1人で街へ行くのは安全ではありません。私が護衛兼友人として、同行しても構いませんか?」









読んでいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
良いぞ!シリル君♪ その調子だ(๑•̀ㅂ•́)و✧立ってる者ゎ護衛でも使ぇ! ………ちょっと待て!その前にちゃんと(王様との密約&現在の進行状況をミネルバちゃんに話して!)婚約して欲しいアプローチを…
2人の間が少し進展して嬉しい!しかしシリルのこじらせ具合が凄い…w 猪突猛進な主人にライナスは大変ですなあ…と生ぬるく見守ってみたりするw
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