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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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14/23

Episode.14


シリルはここ一ヶ月の記憶が曖昧だ。


皇帝との話し合い後、1ヶ月後にアカデミーが始まる為に、すぐに提案した全ての案件に取り掛かった。


皇帝に「早く取り掛かって欲しい」と言われた、穀倉地帯の確保の為に隣国まで行き、道中の揺れる馬車の中で魔道具開発の基盤を描き、公爵邸の企画開発の者たちと話し合おうにも、伝書鳥しかない。


(これでは伝達の効率が悪すぎる)


そこで、まず先に伝達用の魔道具を開発した。ところが、その魔道具が思いのほか重要視され、各方面から要望が増え、‥‥かえって仕事が増えた。


本来の目的の為に開発した魔道具も、一つ完成するたびに新たな需要が産まれ、仕事が増える一方だった。


当初の予定では、仕事の合間にアウグスタ邸に行き、ミネルバと交流するつもりだったのだが、もはや1ヶ月ろくに寝ていない状態だ。


精神は脆弱だったが、趣味の剣術の為に身体はそうではなく、鬼のようなスケジュールを過ごす羽目になったがシリルはなんとか間に合わせた。


1ヶ月で他の者に引き継ぎ、シリルはふらふらになりながらアカデミーに向かった。



「シリル様、今日は休まれた方がいいのでは?」


ライナスの言葉にシリルは首を振った。


「それは出来ない。今日の進級式を逃すと、また二日の休みに入るだろう?」

また会えなくなるではないか。なんとしても、遠くからでも顔だけでも見たいのに。


「しかしその二日が過ぎれば、アカデミーが本格的に始まるわけですし‥‥」

至極真っ当な事を言ったライナスだが、シリルが鋭い眼光で睨むので口を閉じた。


シリルは、自分が寝不足でまともな思考でないことは分かっていた。

だから刺激しないでほしい。


婚約者でもないのだから、用もなく経営学の学舎を訪ねる訳にもいかない。今日は進級式の為に全学部が揃うので、シリルは理由がなくともミネルバに会うことが出来るのだ。

この機会を逃す訳にはいかなかった。



「まぁ!いらっしゃったわよ」

「ラウザー令息!少しよろしいかしら?」

「あら!1人で行くのはずるいわ!わたくしも!」


進級式が行われる講堂へ向かう途中、数人の女生徒に囲まれた。


「夜会での噂は本当でしたのね」

「ラウザー令息、婚約者はまだいらっしゃらないと聞きましたが、本当ですか?」

「まぁ!貴方ったらそんなストレートに」


口々にキャッキャと話かける令嬢たちに、寝不足のシリルはくらくらした。


「ご令嬢、申し訳ありませんが‥‥‥」

「きゃあ!お声も素敵!」

「アレックス様よりかっこいいわ‥‥!」


言葉も遮られてしまった。騒ぎを見て、他の令嬢達も集まってくる。


話すことも許されなくなったシリルは、助けを求めてライナスに視線を送った。視線に気付いたライナスは首を振る。


『私には無理です』と、ライナスの目が言っている気がしたが、シリルは見ない振りをした。‥‥ここはライナスにまかせよう。


「私は教授に呼ばれておりますので、これで‥‥何か話があるのでしたら、ライナスに伝えておいてください」

シリルは早口で言うと、振り向かずに大股で逃げた。

「ちょっ、シリル様!」

ライナスの非難の籠もった声が聞こえたが、シリルは止まらずに心の中でライナスに謝罪した。




こうなってくると、女生徒に恐怖を感じる。曲がり角を素早く曲がった所で、シリルは切望していた人物とぶつかった。


「きゃっ」

鈴のなるような声。

「ミ‥‥アウグスタ嬢?」

「ラウザー令息」


久しぶりのミネルバは金の髪を緩やかに編み込み、丸い眼鏡をかけている。

そういえば、以前アカデミーで会った時も眼鏡をかけていたな。前世の感覚が混じり合っているためか、眼鏡姿に唆るものがある。アカデミーの生徒は皆、同じ制服を着ているはずなのだが、ミネルバの制服だけ可愛く見えるのは気の所為だろうか。


後ろに追いかけて来た女生徒の声が聞こえ、シリルは咄嗟にミネルバの手をとった。

「こちらへ」



もう一つ角を曲がり、隠れるように壁に身体を押し付け人の気配を探る。

「――ふぅ」

(もう付いて来ていないようだな)


「‥‥っ、シリル様‥‥!少し、離れていただけると‥‥」

自分の腕の中から、消え入りそうな声が聞こえる。視線を声の人物に向けると、真っ赤になったミネルバが自分の腕の中に収まっていた。


シリルは我に帰って慌てて離れた。

「わぁ!申し訳ない!」

(何をやってるんだ俺は!)


「も、申し訳ありません、逃げるのに必死で‥!」

「い、いえ?逃げるとは、一体何が‥‥?」


必死で弁明しながら、言わなくて良いことまで言ってしまった。女生徒から逃げてきたと言うのは、なんというか格好悪くないか?







読んでいただきありがとうございます。


いいね、ブクマ、コメント、誤字脱字報告も大変感謝しております。


明日も投稿しますので、またお時間いただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
眠すぎての暴走じゃ無くて(*`艸´)単純なLUCKYスケベだったんだ♪ ー (ワクワク) ー で?
あーんもう読み終えちゃった… 眠すぎて倒れ抱きつくのかと思った(韓ドラとかに良くあるw) 続きが楽しみだあー!!
伝達用の魔道具があればアウグスタ邸行きが捗りますね。
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